第6話・ヒモ……。紅トマトよ、それを言ったら戦争だろうが!

 茶ゴブリンの森・上層で狩りを初めて二時間ほど。

 そこそこの数を倒せたので紅トマトと休憩していると、森の奥から虎娘ことカルラがニコニコしながら戻ってきた。


「ただいまー。ねえシルバー、奥にいたエリアボスを倒してきたよ」

「おお、マジか!」

「え? ソイツ、エリアボスを単騎ソロで倒せるくらい強いの?」

「さあな? それよりも何かいい物は落ちたか?」

「もちろん!」


 ココは言葉を逃しながら会話内容を変更。

 カルラもコチラの意図を察したのか、軽く頷きながら手に入れたいドロップアイテムを見せてきた。

 

「ちょ、え。それってレアドロのローズブレードじゃない!?」

「そうだけど貴女にはあげないよ」

「ぐっ!? 別に欲しいとは思ってないわよ」

「へぇー? じゃあこの剣はシルバーにあげるね」

「え、いいのか?」

「もちろん!」


 それなら美味しくいただきます。

 茶ゴブリンの森ココのエリアボス・薔薇の茶鬼のレアドロップ。

 バラ柄の鞘に入った両手剣・ローズブレードは、紅トマトが使っているワン・ブレードよりも性能が高い。


 オークションで売れば金になりそうだな。

 サービス初日にレベル十五の薔薇の茶鬼を倒したプレイヤーはほぼいないはず。

 安心してローズ・ブレードを受け取っていると、プンスカと頬を膨らませている紅トマトが食いついてきた。


「なんで両手剣使いのアタシじゃなくてコイツに渡すのよ!」

「そりゃボクはシルバーの相方だからね」

「くうぅ! アタシもいい相方を見つけてやるわ!」

「多分無理だけど頑張ってくれ」

「アンタ、その言い方はひどくない!?」


 確かに酷いかもしれないがお前よりはマシ。

 喉元から出かかった言葉を飲み込み、カルラが手に入れたドロップアイテムの確認を進める。


「さあな。っと、ほんとお疲れさんカエラ」

「ふふっ、これくらい問題ないよ」

「あのさー、なんかヒモみたいな関係になってない?」

「「ごふっ!?」」


 美人な虎娘に貢いでもらっている。

 うん、普通にヒモでゴザルな。

 紅トマトからの一撃に胸を抑えていると、先に復活したカエラがぎこちない笑みを浮かべる。

 

「ボクはシルバーがヒモでも養うよ」

「だってさヒモニート」

「はははっ。悲し涙で目が痛い」

「ざまぁー!」


 このアマ。

 飯ウマ状態なのを理解した紅トマトが、いやらしい笑みでめっちゃ煽ってくる。

 さっきみたいにしばき倒したいけど、ここは違う仕返しをするか。


「女子力ゼロに言われても悲しくないわい!?」

「だ、れ、が、女子力ゼロよ! って、猫娘も哀れみの目で見てこないでよ!」

「胸は大きいのに女子力がないなんてね」

「な、なんでおっぱいの話になるのよ!」

「それは自分で考えるといいよ」

  

 うん、偽乳の地雷はかなりやばそうだな。

 大ダメージを受けたのか紅トマトは半泣きで四つん這いになり、悔しそうに地面を拳で叩き始めた。


「ぐっ、そんなに大きなオッパイがいいの? ド貧乳のアタシには居場所がないの?」

「ねえシルバー。なんか急に可哀想になってきたよ」

「まあ、トドメを刺したのはお前だけだな」

「確かに。あ、ボクはDカップだからそこそこあるよ」

「さらに死体撃ちまで始めやがった」

「シクシク……」


 この状況で自分のオッパイの大きさを話すカエラと、さっき以上に強く地面を叩く紅トマト。

 ここまで来たら可哀想なので、なんとかフォローを入れていく。


「ま、まあ、小さな胸が好きの奴もいるから悲しまなくてもいいと思うぞ」

「フォローが痛いわ……」

「そうそう! ボクだって大きいわけじゃないからね」

「DカップのアナタにAカップのアタシの気持ちはわかるわけないわ!」 

「「……」」


 ヤベェ、さっきよりも悪化してないか?

 というか、ガチ泣きしている紅トマトが哀れに見えてしまう。

 この状況の対処方法がわからないので、俺はカエラへ視線を向けある事を提案する。


「は、話を変えよう。確か通常のボスドロップでも両手剣が落ちてなかったか?」

「え、うん、この茶色い剣もボスから落ちたよ」

「ははっ。カエラには悪いけど悪いけどコイツに両手剣ソレをあげてもいいか?」

「もちろん」

「助かる。おいトマト、コイツを渡すから泣き止んでくれ」


 流石にローズブレードは渡せない。

 ただ通常ドロップの両手剣・土鉄の中刃サンド・ブレードは渡しても問題さそうなので、ガチ泣きしている紅トマトへ差し出す。


「う、うん、ありがとう。ただ渡し方がすごい雑じゃない?」

「オマケの言葉はいらない。それとお礼を言うなら俺じゃなくてカエラにな」

「はーい、虎娘もありがとね」

「別に気にしなくてもいいよ」


 コイツちょろい。

 泣き止んだ紅トマトはカエラにも軽く頭を下げお礼を言い、受け取った土鉄の両手剣を簡易倉庫イベントリへ放り込んだ。


「さてと、そろそろ街に戻るか」

「もうすぐ十八時だし、一旦ログアウトもしたいわね」

「だな」

「シルバー……」


 VR世界で満腹感は得られるが実際にお腹は膨れない。

 リアルに戻って夜ご飯を食べないといけないので、始まりの街に戻ってログアウトしたいところ。

 不安そうにしているカエラの頭を撫でつつ、俺はニッコリと笑う。


「大丈夫。また戻ってくるよ」

「うん、待ってるからね!」


 ほんとコイツはかわいいな。

 わしゃわしゃとカエラの頭を撫でた後、俺達は始まりの街に向かって歩き始める。


 --


 始まりの街にある一般的な宿屋でログアウトした後。

 ゲームからリアルに戻り、部屋の窓から見える夕暮れを見てため息を吐く。


「ほんとリアルはクソだよな」


 ゲームではスタートダッシュがきれたが、リアルの自分は停滞したまま。一年前に両親が事故で死に、うつ病も含めて会社を退職。

 遺産を狙ったクズどもや、ブラック企業の上司と縁をきり、半年前から引きこもっている。


 親が事故死して入ってきた遺産はほぼ丸々残っているけど、リアルの人が怖くてなかなか働けない。

 トラウマや人間不信が拭えないので、俺が取れる手段はゲームでリアル事情を悟られずに寂しさを紛らわせる事。


「さてと、飯を食べた後もログインしないとな」


 夜ご飯はケチャップライスにフワフワの卵を乗せたオムライス&スーパーで購入したキャベツサラダ。

 個人的にはお肉を食べたいが、今は我慢して夕食を食べていく。


「……カエラとご飯を食べた時は暖かかったな」


 リアルのご飯よりもゲームのご飯がうまかった。

 味自体はリアルも悪くないはずなのに、久しぶりに誰かと食べたご飯は格別だったな。

 その事を思い出し、ポロポロと涙が出てきてしまう。


「寂しい」


 リアルではひとりぼっちの自分。

 ゲームでは紅トマトと煽りあったり、カエラと話したりした。

 リアルの俺と、ゲームの自分。この格差に戸惑いながら、作ったオムライスを強引にかきこむ。


「ご馳走様……」


 残りは風呂と歯磨きかな?

 どんよりとした気持ちになりながら、俺は立ち上がり着替えを持ちながら風呂場に移動する。

 そして気持ちを切り替えるためにシャワーを浴びながら、リアル・ゲーム関係なくこれからの事を考え始めるのだった。

 



 

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