第5話・茶ゴブリンの森へリベンジマッチ!

 始まりの街から東にある森林エリア・茶ゴブリンの森。

 上層はレベル三以上が推奨だが、中層はレベル五以上、エリアボスが生息している下層はレベル十以上。

 三ヶ月あったβテストの時はマックスレベル三十までしか上げられなかったが、レベル十五のエリアボスをソロ討伐した凄腕プレイヤーもいるらしい……。


 うん、それはそれとして茶ゴブリンの群れ相手に無双しているカルラさん。

 腰から日本の片手剣を引き抜き、茶色ゴブリンの群れに突っ込んだ彼女は、舞うように相手の攻撃を回避しながら一刀で切り伏せた。

 

 てか、カルラのレベルを確認したら三十。

 そのおかげなのか、レベル三から五の茶色ゴブリンが紙切れになるレベルで切り裂かれていく。

 

「この辺は雑魚ばかりで面白くないよ」

「お、おう。それなら下層にいるエリアボスでも倒してきたら?」

「なるほど……。じゃあそうしてくるね!」

「了解。俺はココで雑魚狩りをして待ってるわ!」

「はーい!」


 砂埃を上げながらダッシュで奥地に向かうカルラ。

 その姿を尻目に俺は振り向き、さっきからコチラをストーカーしている人物へ声をかける。


「それで紅トマトお前はどうするんだ?」

「あら、鈍いアンタでも気づいていたのね」

「あのな。お前のツインテールが見えたら気づくだろ!?」

「……え、マジ?」

「マジ!」


 一応木の影に隠れている紅トマト。

 ただ彼女のトレードマークっぽい赤髪ツインテールが木の影から出ており、大体のやつは尾行に気づくレベル。

 俺は頭が痛くなりながらワンソードを引き抜き、コチラをじっと見る彼女を睨みつける。


「でだ。なんで俺の後をつけてきた?」

「それは、アンタの手伝いをしたいと思ったのよ」

「さっきまでヒスってたお前がそんなセリフを吐くとはな」

「ぐっ、さっきの事は謝るわ……」


 あら、コッチの煽りに言い返さないのかよ。

 申し訳なさそうに頭を下げてくる紅トマトへこれ以上ボロカス言うのは大人気ないか?

 微妙な空気感が森の中を抜ける中、彼女は不安そうに顔を上げた。

 

「建前はいいけど本当の狙いは?」

「油断したアナタを後ろから切り殺したいのよ!」

「で、す、よ、ねー」

「このっ、やっぱりその煽り顔がムカつくわ!」


 はははっ、煽って何が悪い。

 背負っている両手剣の持ち手に触れながら、歯を剥き出しにしながら威嚇してくる。

 子犬っぽい仕草に笑っていると、紅トマトは悔しそうに地団駄を踏む。


「ははっ、しおらしいお前よりも今の方が人間として好きだぞ」

「え、あ、好き?」

「うん? なんで頬を赤く染めてるんだ?」

「なんでもないわ! それよりも茶ゴブリンにリベンジしたいから付き合いなさい」

「はいはい、わーたよ」


 仕方ない、少しくらい手伝ってやるか。

 マウントを取るのは楽しいと思いながら、紅トマトと共に上層で茶色ゴブリンを探し始める。


「しっかしこの辺はプレイヤーが少ないわね」

「リンチしてくる相手だから流石にきついんだろうな」

「そうね……。って、三体見つけたわよ」

「探知スキル持ちか?」

「当たり。アンタはほんと抜け目がないわね」

「そりゃどうもー」

 

 いやだって俺の目には映らないもん。

 この状況で茶色ゴブリンを見つけられるのは、探知系のスキル持ちに限られる。

 ネタバラシをされて呆れている紅トマトは、ため息を吐きながら背中の両手剣を引き抜く。


「チッ、さっさとあいつらを倒して次にいくわよ」

「了解」

『『『ギャアギャア』』』


 気持ち悪い声で叫ぶ茶ゴブリン。

 とんがった鼻に茶色い肌、身長は一メートル弱くらいで武器は棍棒。

 

 さっきはボコボコにされたが、今回はそうはいかない。

 レベルが上がった影響で余裕があるので、息を整えながら茶ゴブリンへ突っ込む。

 

「くたばりなさいブサイク変態!!」

「おいこら!?その言葉は俺にも刺さるんだよ!」

『『『ギャギャ!?』』』


 こちとらリアルでは二三歳の童貞なんだそ!?

 俺の胸に彼女の言葉の刃が刺さっていたかったが、なんとか踏みとどまり茶ゴブリンへワンソードを振り下ろす。

 相手は棍棒でその攻撃を防ぎ、別の茶ゴブリンが突進してきた。


「クイック・ターン!」

『『キャウ!?』』

「おお、ラッキー! 軽斬撃ライト・スラッシュ!」


 突進をクイック・ターンで回避。

 コチラが避ける事を想定してなかったのか、茶ゴブリン同士が衝突。大きな隙ができ、俺はワンソードのの武技で二体同時に切り裂く。


「相変わらずいい動きをするわね」

「そうか。まあ、レベル三だしステが上がった影響だろ」

「ちょっ!? いつのまにレベ上げしたのよ!」

「さあなー? てか、無駄口を叩く暇はあるのか?」

「チッ! さっさとコイツを倒して問い詰めてあげるわ!」


 ほんと煽りがいがあって楽しいー!

 レベル三の茶ゴブリンと殴り合っている紅トマト。

 その近くでHPが半分以下になった茶ゴブリン×二を相手しながら、俺はニヤリと笑う。


『『ごぶっ!』』

「うわぁ、そんな単純な攻撃なんて当たるわけないだろ」

「がふっ!? や、やったわね」

「……当たった奴がいた」


 前しか見ない茶ゴブリン。

 棍棒の一撃を受けた紅トマトは、バックステップを踏みながら回復ポーションを飲み始めた。

 

『ごぶっ!!』

「ちっ、これでもくらえ!」

『ぎゃ!?』『『ギャキャ!?!?』』

「フォローありがとう!」

「別に! それよりもさっさと上がれ」


 ちょうどいいところに石が落ちていてよかった。

 紅トマトが相手していた茶ゴブリンに石を当てて、ヘイトを奪いつつ他に二匹も受け持つ。

 相手の攻撃はシンプルだが攻撃力はあるから、紙装甲の俺がマトモに喰らうとやばい。


 よし、トマトも復帰したか。

 両手剣を茶ゴブリンへ勢いよく振り下ろす紅トマト。

 俺はホッとしながら、棍棒を振り下ろしてくる茶ゴブリンの攻撃を左に回避。

 そのまま刃に氷を纏わせ、一気に勝負を決める。


「氷桜!!」

『ギャギャ!?』


 武技や魔法系のスキルは、マナポイントMPを使わないと発動できない。

 そのおかげで武技の使い所は難しいが、今がチャンスと思い氷桜を発動。

 そのまま茶ゴブリンの土手っ腹に三連撃を叩き込む。


『ぎゃ……』『ギャギャ!?』

「はっ、なによそ見をしている?」

『ギャキャ!?』


 軽斬撃ライト・スラッシュ

 武技をマトモに受けた二体の茶ゴブリンのHPがゼロになり、ポリゴンの塊になって消えていく。

 

「さてと、後は頑張れよ」

「ちょっ!? 貴方には人を助ける心はないの?」

「ゼロではないけどお前を助けたくない」

「なんでよ!!」


 いやだってソイツはお前の獲物じゃん。

 これで横入りしたら、また何か請求されるかもしれないしな。

 必死な形相で茶ゴブリンと戦っている紅トマトを尻目に、俺は地面に座り込み戦闘観戦を始めるのだった。

 

 


 

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