第2話・美味しいクエストにはご注意してください

 始まりの街・東区にある冒険者ギルド。

 正式サービスが開始されてから二時間ほど立つが、建物内には依頼書を持った大勢のプレイヤーが受付の前に並んでいる。

 ……幻想のカーディナルの初期生産分は五万本だから、冒険者ギルドココに多くの人が集まるのは仕方ないか。


「しっかし、提示板には良さげなクエストが残ってないな」

「美味しいやつは効率厨の奴らが持っていったんでしょ」

「やっぱりそうか。……ん? コイツは他よりも報酬金が高くない?」


 公式クエスト・猫娘との出会い

 報酬・一万ゲームクレジットGC&特典。

 内容・始まりの街のどこかにいるカルラから詳細を聞いてください。


 提示板にはられている他のクエストが千GCくらいのなのに、コレだけ明らかに報酬がお高い。

 しかも他のプレイヤーは猫娘のお使いをスルーしており、隣にいる紅トマトも不思議そうに首を傾けている。


「そんなお高いクエストを見つけたの?」

「ああ。報酬は一万GCらしいぞ」

「……ねえシルバー。わたし達は腐れ縁よね」

「ん、いや、お前とはβテストの時くらいしか付き合いはないだろ」

「このタイミングでマジレスはやめて!?」

「事実だろ」


 βテストの三ヶ月間は大体一緒にいたけど。

 握った拳をブンブンと上下に振っている紅トマト駄々っ子が、瞳をウルウルとさせたあざとい上目遣いでコチラを見てきた。


「うぐっ、なら報酬は山分けでいいからわたしも参加してもいい?」

「別に問題はないが報酬は依頼主次第だろ」

「ほうほう。それならわたしが全部もらうわね」

「すみません、このクエストの受付をお願いします」

「ちょっ!? 冗談だからスルーしないでよ!」


 チッ、このまま無視したかったのに。

 涙目で飛びかかってくる紅トマトをサイドステップで回避しながら、比較的空いている冒険者ギルドの受付さんへクエストの発注をお願いしていく。

 

「こ、コチラは一人ソロクエストなのでお連れ様は参加できませんよ」

「受付さん、そこをなんとかしてくれない?」

「申し訳ありません。ワタシにはどうすることもできないです」


 申し訳なさそうに頭を下げてくる受付のお姉さん。

 ただ俺の隣にいる紅トマトは、偽乳の胸を張りながらニヤリと笑う。


「なら、わたしがそのクエストを受けるわ!」

「おいこら、人のクエストを取るなよ!?」

「ぎゃう!? レディの頭を容赦なく叩かないでよね!!」

「レディと言うならそれらしく行動してくれ」

「ぐうぅ!! それでわたしがそのクエストを受けてもいわよね!」

「人の話を聞けよ!?」

 

 この自己中女が……。

 困り果てた受付嬢さんがベルを上げると、建物の奥から青い制服に筋骨隆々のスキンヘッドが渋い表情で現れた。

 彼の胸元には警備員を表す銀色のバッジが付けられており、ガタイの良さも相まって威圧感がすごい。


「おいこら新人。受付カウンターの前でキャンキャン騒ぐな!」

「べ、別にこのクエストを受けるだけだから問題ないでしょ!」

「へえ? じゃあそのクエストはお前が彼女にお願いしたのか?」

「もちろん!」

「いやあの、このクエストを持ってきたのは隣にいる銀髪さんですよ」

「受付嬢さん!?」


 茶髪ボブの受付嬢さんにネタバレされる紅トマト。

 状況を察したスキンヘッド警備員は、頭が痛いのか額に右手をおいた。


「今日の新人は問題を起こしすぎだろ……」

「え、あ、ちょ!? なんでわたしの襟を掴むのよ!」

「そりゃお前がギルド内でやらかしたからだ!」

「なあぁ!?」


 警備員のスキンヘッドさんに引っ張られる紅トマト。

 ドナドナと効果音がつきそうだが、俺は目を逸らしながら苦笑いを浮かべる受付さんへ言葉を返す。


「このクエストお願いします」

「は、はい、受付完了しました」

「ちょ、シルバー助けて!!」

「……やだ」


 コチラに何かを叫んでる紅トマトは無視。

 受付嬢から受け取った依頼表の内容を見ながら、冒険者ギルドの建物から出ていく。


 --


 始まりの街・東区の商店街。

 多くのお店が並ぶエリアで、初心者用の装備やアイテムを売ってるお店が多い中。

 裏路地で猫耳&猫尻尾を生やした少女がグッタリと倒れていた。


「お、お腹すいた……」

「あのー、君がこの依頼主の猫娘か?」

「ん? おお、君がボクの依頼を見つけてくれたんだね!」


 裏路地の地面に倒れていた猫耳を生やした少女。

 身長は百六十くらいで虎柄のショートカット&尻尾を持ち、ケモナーなら飛びつきそうなレベルのかわいい美少女。

 装備は黒い革鎧にハーフパンツで見てくれは悪くないが、地面に倒れているから残念感がすごい。


「お、おう。それでなんで裏路地て倒れでいるんだ?」

「はははっ、そんなの道に迷ってお腹を空かせているからだよ」

「ドヤ顔でいうセリフじゃないだろ!?」

「ごもっとも!」


 確定、コイツは残念美少女だ。

 アハハと乾いた笑い声を上げる残念美少女へジト目を向けつつ、しゃがんで彼女へ右手を差し出す。


「仕方ない。もしよかったら何か食べにいくか?」

「え、いいの?」

「ああ。俺もお腹は空いたから問題ない」

「ありかとう!」


 嬉しそうに笑う残念美少女。

 一万GCがもらえるなら食事代くらいは安い物なので、俺は彼女の手を握り助け起こす。その時に足元がふらついたが、向こうが嬉しそうに俺の右腕を掴んだ。


「別に問題ない。それよりも君の名前は?」

「んー、ボクはカルラ。この街に相方を探しに来たんだよ」

「ほうほう。あ、俺の名前は……」

「君の名前はシルバーだよね」

「え? なんで俺の名前を知ってるんだ」

「さあねー?」


 コイツもβテストの時にいたのか?

 見た感じはNPCっぽいけど、その手の相手よりも感情表現が豊かな気がする。

 商店街の裏路地で出会ったカルラは、どこかミステリアスな雰囲気を出しながら瞳をキラキラさせている。


「それよりもご飯を食べに行こう!」

「お、おう。あんまり高い物はやめてくれよ」

「ふふっ、了解」

「本当に大丈夫か?」

「もちろん! ボクを信じてよ」

『パーティにカルラが参加しました』


 目の前に急に現れる半透明のウインドウ。

 そこにはカルラとチームを組んだ事になっており、彼女は嬉しそうにコチラを見てきた。


「これからよろしくねマスター」

「いやあの、マスター?」

「あ、まだ早いかな?」


 話が急すぎて思考が追いつかない。

 何かを知っているカルラを問い詰めたいが、今は空腹を満たすのが先で俺は頬を引きつらせながら、一緒に大衆食堂に向かうのだった。


 


 


 


 


 

 

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