幻想のカーディナル〜ニートの俺はチヤホヤされたいので上位ランカーを目指します

影崎統夜

第1話・始まりはデスペナと共に

 VRMMO・幻想のカーディナル。

 現在、顔見知りのバカ女に巻き込まれて、俺は大量の雑魚モンスターの群れに追いかけられている。


「どうしてこうなった!?」

「ねえシルバーお願いがあるんだけど?」

「こんな時になんだ? 真っ赤な真っ赤な紅トマトさん」

「わたしの代わりに茶ゴブリンの生贄になって」

「コイツ、ドストレートに言いやがったな!?」

「デスペナで少し経験値が減るだけでアタシを助けられるのよ」


 無茶をいうなボケトマト

 後ろをチラッと見るとファンタジーの雑魚敵で有名なゴブリン達が、気持ち悪く舌なめずりをしながらコチラを追いかけてきている。


 てか、コイツ。俺の話をほとんど聞いてないな……。

 今は全力で走っているが、このままだと追いつかれてしまうのでなんとか対策を考えたいところ。

 

「何が少しだ! お前自身が起こした問題だからそのまま死にやがれ」

「はあぁ!? そこは男として自分が盾になると言いなさいよこの銀髪変態!!」

「悪いが俺は男女平等主義なんで断る!」


 キャラメイクをした後に転移する始まりの街。

 その近くにある森林エリア・茶ゴブリンの森で、赤髪ツインテールの女性アバター・くれないトマトと共に森の中を走っている状況。

 一部の男性なら喜びそうなシチュエーションだけど、そんなことを考える余裕はない。


「ぐっ、それだからアンタはモテないのよ!」

「うっせ! てか、敵さんがどんどん増えてないか?」

「こんだけ森の中を逃げ回ってるから当たり前でしょ!」

「おいこら、逆ギレするなよ!?」


 茶ゴブリンの森・上層の適正レベルは三から五なのだが、モブの数が多くβテスト時代に調子に乗ったプレイヤー達を血祭りにしていた場所。

 俺は過去の苦い記憶を思い出していると、紅トマトが鬼気迫る表情を浮かべた。


「それでシルバーは生贄になってくれるの? いえ、なりなさい!」

「悪いがせっかく稼いだ経験値を無駄にしたくないからいや!」

「そう? なら無理矢理にでもアナタには犠牲になってもらうわ」

「てめぇ、やる気があるなら俺じゃなくて茶ゴブリンと戦えや!」


 デスペナすると経験値が一%減るんだよ。

 しかも森の中を逃げ回っているせいで、コチラを追いかけてくる茶ゴブリンがどんどん増えてる。

 このままだとライフHPが削られてリスポーン確定だよな。


 ……うん、原因を作ったコイツを切り捨てた方がいいか。

 ステータスポイントを敏捷と筋力に振ってる紙装甲剣士の俺と、同じくらい敏捷に振ってそうな女子力ゼロの女紅トマト

 俺は近くにある木の上へ反射的に登りながら、強引についてくる醜い小人モンスター茶ゴブリンを初期装備の片手剣・ワンソードで切り伏せていく。


「ちょっ!? 装甲ペラペラのわたしを戦わせる気なの!!

「そこは自分のに文句を言うんだな」

「こ、この! 絶対に恨んでやる!」


 茶ゴブリンの群れに引き潰されHPがゼロになった紅トマト。


「ふふふっ、悪は滅びた」


 これで後は逃げるだけ。

 自業自得と思いながら嘲笑ってると、地面に残った茶ゴブリン達が棍棒で俺が登ってる木を攻撃し始めた。


「あのー、茶ゴブリンさん?」


 レベル三の茶ゴブリンの棍棒攻撃で、俺が登っていた木が真っ二つに折れる。

 なんとか足から地面に降りて受け身はとれたが、顔を上げると大勢の茶ゴブリンが醜く笑っていた。

 

「あんのクソ女……。ごふっ!?」

 

 正式サービス初日にリンチされるとは。

 茶ゴブリンにボコられ俺のHPがトマトと同様ゼロになり、意識が遠くなっていく。


「クソがぁ!!」


 次に目を開けると始まりの街にあるリスポーン地点に転移した。


 --


 剣と魔法の王道ファンタジーである幻想のカーディナル。

 この作品はVRMMOとしては珍しいリアルマネートレードを採用しており、ゲーム通貨を現金へ変換できるシステムがある。

 最初はお小遣い稼ぎができると思い、倍率百倍と言われるβテストに応募して運良く当選。


 久しぶりにテンションを上げたニートの俺は、有り余る時間を使ってβテスト版をプレイ。

 その時に効率的なレベル上げや稼ぎ方を調べ、本サービスまで準備を整えたのだが……。

 キャラクリエイトは銀髪碧眼で身長は百七十後半の細マッチョで塩顔のさっぱり系のゲームアバター・シルバー。

 自分の理想を詰め込んだアバターなので、ワクワクしながらログインしたのに、結果は茶ゴブリンに轢き殺されるとか不運すぎるだろ。

 

「マジでかっこ悪い……」

「ふふっ、ざまぁ!」

「おいこら、加害者のお前が言うセリフじゃないだろ!?」


 コイツ、マジで斬り殺してやろうか?

 先にリスポーンしていた女子力ゼロ女紅トマトが、ニタニタと笑いながらコチラに近づいてきた。

 女性の顔面をストレートで殴りたくなったのは久しぶりだな。

 

「くくくっ、いい顔芸よ銀髪変態」

「はっ、先に死んだくせに何を言ってるだ?」

「いやいやー、リスポーンに先も後もないですぞ」

「コイツ……。ほんとお前は性格がドブで女子力はゼロだよな」


 リスポーン地点の神殿。

 白寄りのレンガ造りの建物で、リスポーン地点は学校の体育館二つ分くらいの広さがある。

 俺達以外にも何人かプレイヤーの姿があり、彼らも悔しそうに地面を叩いていた。


「ちょっ、わたしのどこが女子力ゼロなのよ!」

「いやだって、βテスト時代にお前のクソ料理を食べた相手が死んでただろ」

「煽り合いでマジレスは反則カードでしょ!?」

「俺は事実を述べただけで問題なし!」

「この鬼畜銀髪が!!」


 さっきまで変態銀髪だったのに鬼畜銀髪にランクアップしたのか?

 悔しそうに拳を握りながらブンブン振ってる紅トマトをよそに、俺は首をコキコキさせながら立ち上がる。


「しっかしサービス開始日にフィールドでお前とばったり出会うとはな」

「そのセリフはわたしが言いたいんだけど?」

「そうかい。でだ、明らかに偽乳アバターにしたのはなんでだ?」

「ちょっ!? なんでわたしの胸を偽乳と決めつけるのよ!」

「いやだってβテストの時よりもかなり大きくなってるし」


 恥ずかしそうに胸を抑える紅トマト。

 顔をを真っ赤にしながらコチラを睨みつけてくる彼女へ、仕返しも含めて弱点っぽいところを突っ込んだ。

 

「胸の話とかほんとアンタはデリカシーがないわね」

「ははっ、女子力ゼロに言われると嬉しいね」

「こ、コイツ……。ああもう、それでアンタはこれからどうするの?」

「特に考えてないな」


 さっき茶ゴブリンの群れにボコボコにされたし、狩りにはあまり行きたくないな。

 それなら始まりの街を探索するのもいいが、さっき倒した茶ゴブリンの素材を売りに行きたいな。

 

「とりま冒険者ギルドにでもいくわ」

「へえー。ならわたしも着いていくわね」

「お前、もしかしたストーカーか?」

「腐れ縁をストーカーするのは当たり前でしょ」

「素直に認めやがった!?」

「なにその反応は!」


 ほんと女性は難しい。

 幻想のカーディナルはキャラカスタマイズは出来るが、声はリアルと変わらない。そのおかげで紅トマトがリアルでも女性なのはわかるが……なんか頭が痛い。


「相変わらず短気だな」

「チッ、うっさい!」

「はいはい。俺は冒険者ギルドに行くから負け犬のように騒いでろよ」

「ま、負け犬……。アンタは本当に容赦がないわね」

「そりゃどうも」


 ゲームの世界で容赦してもな。

 煽りあいや裏切り、現実で出せないドロドロした感情を表に出せるのはありがたい。

 プンプンと頬を膨らませている紅トマトと共に、神殿から出て始まりの街の風景を目にしていく。


「中世ヨーロッパみたいな街並みだよな」

「あら? アンタは異世界転生でもしてたの?」

「言葉の綾だが?」

「わかってるわよ」


 赤レンガに白い壁の建築物が立ち並ぶ始まりの街・中央広場。

 ノンプレイヤーNPCはもちろん、多くのプレイヤーが嬉しそうにトコトコと歩いてる。


 リスポーン地点の神殿から出てきた俺達は、冒険者ギルドまで早足で歩いていく。


「話は変わるけどシルバーは特典の十連ガチャで何か引いた?」

「……当たりはないぞ」

「その反応は何か良い物を引いたわね!」

「ちょっ、襟首を掴むなよ!」


 確かに大当たりを引いたけど、おしゃべりなコイツに言いたくない!

 それに現実と違い痛くも苦しくもないが、コチラを見るプレイヤー達の視線が痛すぎないか!?

 

「アイツら初日から痴話喧嘩をしてないか?」

「ほんとカップルは羨ましいわね」

「オレも恋人が欲しいぜ!」

「「「リア充は爆発しろ!!」」」


 プレイヤー達の視線を浴びつつ、紅トマトの手を掴んで強引に引っ張る。


「わ、わたしの手は安くないんだけど?」

「知るか!! それよりも完全に目立ってるぞ」

「え、あ、マジじゃん!?」


 こんなの俺が欲しい承認欲求の満たし方じゃないな。

 多くのプレイヤーが集まる中央広場近くで騒いだらこうなる。

 俺達は互いに視線を合わせた後、一息吐きながら改めて始まりの街・東区にある冒険者ギルドに向かうのだった。



 

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