村の神殿と小さなご利益
花咲き村に住むようになってから、村の各地を少しずつ散策するのが楽しみになっていた。今日は村の北側にあるという「小さな神殿」を訪れることにした。村の人たちによれば、この神殿は村の守り神を祀っていて、村人は時々ここにお参りに来て小さなご利益を授かるのだという。
神殿に向かう途中、道端には鮮やかな花々が咲いていて、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。こうして歩いていると、花咲き村での日々がさらに愛おしく感じられる。
やがて、小さな石造りの神殿が見えてきた。村の生活に溶け込むようにひっそりと佇んでいて、観光地の神殿のような荘厳さはないが、どこか温かみが感じられる場所だった。
神殿の入り口には、小さな賽銭箱が置かれていて、簡単なおみくじが引けるようになっている。村の守り神さまに挨拶をし、賽銭を入れて手を合わせていると、後ろから声がした。
「ここに来るのは初めてかい?」
振り返ると、穏やかな笑顔を浮かべた年配の女性が立っていた。村の長老的な存在のエルダさんで、村人たちから信頼されている人だ。
「ええ、そうなんです。村の守り神さまがいるって聞いて、ぜひお参りしてみたくて」
「そうかそうか。ここにいる神さまは、特別なことはしてくれないけれど、小さな幸運や日常の喜びをもたらしてくれるとされているんだよ。もしよかったら、おみくじを引いてみるといい」
彼女の勧めに従って、引き出しの中から一枚のおみくじを引いた。それには、「今日も穏やかで笑顔の日」と書かれていた。特に大きなご利益ではないけれど、この村らしい、心温まる言葉が胸に響く。
「この村では、毎日を穏やかに過ごすことが何よりの幸福だと、昔から言われているのさ。あなたも、村での生活を楽しんでおくれ」
エルダさんはそう言って微笑んでくれた。その表情には、長い年月を村で過ごしてきた人だけが持つ、深い慈しみが感じられた。
神殿を後にすると、気持ちがほんの少し軽くなったように思える。村に来てから、何でもない日常の中にこんなに豊かな時間が流れていることに気づき始めた。
その日の帰り道、ふと見上げると、空には夕焼けが広がり、村全体が穏やかなオレンジ色に包まれていた。日々の小さな喜びや出会いが、この村での生活をさらに深く愛おしいものにしていると感じた。
ゆっくりと村に戻りながら、「今日も穏やかで笑顔の日」というおみくじの言葉を思い出し、自然と顔に微笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます