過ぎ去りし日々を思いだし
その日の午後、稔は久しぶりに昔の写真を見返していた。棚の隅にしまい込まれていたアルバムを引っ張り出し、ページをめくる。そこには、懐かしい風景や笑顔が広がっていた。今の自分にはもう遠い昔のような気がするが、確かにその時々があったことを思い出させてくれる。
「こんなに若かったんだな」
稔は独り言のように呟きながら、一枚の写真に目を止めた。それは、大学時代の仲間たちと一緒に撮ったものだった。みんなで旅行に行ったときのもので、元気に笑っている自分がそこに写っている。
その写真を見て、稔は思い出す。大学時代は、何もかもが新しくて、毎日が刺激に満ちていた。夢に向かって一生懸命に走っていた日々。それと同時に、友情や恋愛、失敗や悩みもあったけれど、それらがすべて自分を形作ってきた。
「若い頃は、もっと自由だったな」
今、過ぎ去った日々を振り返ると、どうしてもそう思ってしまう。しかし、その時はあまり深く考えることなく、目の前のことに必死だった。その時々の努力や悩みも、今となっては懐かしい思い出に変わっている。
写真の中で、誰かが笑っているのを見ていると、稔は自然と笑みを浮かべた。あの頃と比べて、今の自分はどれほど変わったのだろうか。確かに、歳月は無情に過ぎ去っていくが、それと同時に新しい自分が生まれていることも実感していた。
「変わらないものもあるのかな」
ふと、稔は写真の中の仲間たちの顔を見つめながら思った。どこか遠くにいる人々、もはや疎遠になった友人たち。今、連絡を取ることは少なくなったけれど、それでも心の中で繋がっているような気がする。時間が経っても、そうした関係は決して消え去ることはないのかもしれない。
写真を閉じた後、稔は窓の外を見た。あの日々と変わらぬ風景が広がっていた。木々が揺れ、空は青く広がっている。過去と現在が交錯するような、不思議な感覚が心に湧き上がる。
「過ぎ去った日々があって、今がある」
稔は心の中でその思いを反芻しながら、静かに目を閉じた。過去は決して無駄ではなく、今の自分を支える基盤となっていることを改めて感じる。あの頃の不安や期待も、今では大切な思い出となり、少しずつ自分の中に染み込んでいった。
「でも、今もこれからのことを大切にしていきたい」
過去を懐かしみながらも、稔はそれに縛られることなく、前を向こうと決めた。過ぎ去った日々があったからこそ、今がある。そして、これから歩む日々がどんなものになるのかは、まだ分からないけれど、その一歩一歩が新しい思い出を作り出していくのだろう。
心地よい風が再び窓を通り抜ける。稔はその風を感じながら、少しだけ目を閉じ、過ぎ去りし日々に感謝を捧げた。そして、これから訪れる日々に期待を抱きながら、静かに深呼吸をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます