彼方に思いを馳せ

季節が移り変わり、稔はまた新たな日々を迎えていた。朝の光が柔らかく部屋に差し込み、風が窓を揺らす音が心地よく響く。心の中には少しだけ懐かしい思い出が広がり、その温かな感触が、今の自分を包み込んでいた。


だが、最近稔はふと、心の奥底で感じる「何か」を意識するようになっていた。それは、何かを探し求めるような感覚で、過去の思い出に囚われることもあれば、未来に対する不安を感じることもあった。そして、何よりも彼方、遠くにいる誰かを思い出すことが多くなってきた。


「どこにいるんだろう」


稔はその思いを胸に抱えながら、少しぼんやりと空を見上げた。過去に交わした言葉、何気ない時間を共有した瞬間が、今も鮮明に思い出される。その誰かとの繋がりは、まるで遠くの星を見上げるような感覚だった。手が届きそうで届かない、でも確かにそこに存在している。


過ぎ去った時間に対して、稔は不思議な感情を抱いていた。あの頃は無理に進むことに必死で、今思えばもっと多くのことを見逃していたのかもしれない。でも、あの時の自分はあの時の自分なりに精一杯だった。それを否定することはできないし、してはいけないのだと心の中で自分に言い聞かせる。


「でも、今はどうだろう」


稔は自問自答するように呟きながら、机の上に広げた手帳を見つめた。今、この瞬間をどう生きるべきか。過去に縛られず、未来に恐れずに、ただ今この瞬間を大切にする。そんなふうに思う一方で、何か足りないような気もするのだ。


それは、きっとあの誰かとの再会を夢見ているからかもしれない。稔は一度、思い切り深呼吸をして、ふと気づく。それは、過去を振り返りながらも、その先を見据えている自分の気持ちだった。過去の経験があるからこそ、今の自分を形作っている。そして、その先に待っているものに対して、どんな形であれ向き合う準備をしている。


「どんな未来が待っているのだろう」


稔はその問いを胸に抱きながら、再び外を見た。遠くの空に浮かぶ雲が流れ、風が木々を揺らしている。その様子を見ながら、稔は感じた。彼方に思いを馳せると、何かが見えてくるような気がする。あの頃見えなかったものが、今は少しずつ見えるようになってきた気がした。


今、この瞬間、ここにいる自分が大切であり、未来もまた少しずつ自分の手の中に降り注いでくる。過去を背負いながら、そして未来を夢見ながら、稔は心の中で新しい一歩を踏み出す覚悟を決めた。


それは、遠くの誰かを思い出すことから始まった。彼方に向けて思いを馳せながら、これからの自分をしっかりと見据えていく。その先に待っているものが何であれ、自分は必ず進んでいくのだと、心の中で誓いながら。


静かな風が、稔の髪を揺らし、彼方に広がる景色を照らしていく。その風景の中に、少しだけ未来の自分が見えたような気がした。


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