新たな歩み

稔はその日、街の中央にある小さな公園を歩いていた。空は晴れており、柔らかな陽射しが木々の間を通り抜けて、地面に優しい模様を描いていた。その景色は、まるで別世界にいるかのような静けさを醸し出していた。


過去を少しずつ受け入れ、少しずつ歩みを進めている自分を、稔は実感していた。昨日の女性との会話からも、何かしら心に響くものがあった。それは、過去に囚われず、今を大切にするという考え方だった。そして、何より「自分を許す」ということが、どれほど重要なことなのかを再認識させられた。


公園の隅に腰掛けると、稔はゆっくりと深呼吸をした。風が心地よく、遠くで子どもたちが遊んでいる声が聞こえてきた。それが、彼にはとても穏やかで、心の中にひとときの安らぎをもたらしていた。


「自分に優しくするって、意外と難しいことなんだな」


そう呟くと、隣に座っていた見知らぬ男性が声をかけてきた。


「どうした? 自分に優しくするのが難しいって、珍しいな」


その男性は、穏やかな笑みを浮かべながら、稔を見ていた。顔には何か達観したような雰囲気が漂っている。歳の頃は五十代前半だろうか、どこか落ち着いた印象を与える人物だった。


「うーん、なんと言うか……。過去のことを思い出しては、前に進むのが怖くなったりして」


男性は軽く頷き、しばらくの間黙って考えている様子だった。それから、少しゆっくりとした口調で話し始めた。


「人は過去を振り返って、そこから何かを学ぼうとするけど、時にはそれが足かせになってしまうこともある。それに、過去を受け入れること自体が、また一つの壁になりがちだ」


稔はその言葉に耳を傾けながら、黙って頷いた。確かに、自分も何度も過去に立ち止まり、そこで動けなくなっていた。しかし、昨日の女性の言葉や、この男性の話を聞くことで、少しずつその「足かせ」が外れていく気がしていた。


「でもね、そうやって過去と向き合うことができれば、少しずつでも自分に優しくできるようになるよ。どんなに小さな一歩でも、それが前に進む力になるんだ」


その言葉に、稔は心の中で何かが軽くなった気がした。過去を背負うことが悪いことではなく、それを抱えたまま前に進むことが大切だということ。無理に過去を消そうとせず、それと共に歩んでいくことで、少しずつ自分を解放していけるのだと感じた。


「少しずつ、前に進んでいこうと思います」


稔は静かにそう答えた。その時、男性は優しく微笑みながら立ち上がり、稔に向かって一礼した。


「それができれば、きっと見える景色が変わるよ。君が進む道に、少しでも希望が見えてくることを願っている」


その言葉を残し、男性は公園の出口へと歩いていった。稔はその背中を見送りながら、心の中で新たな決意を固めた。過去を受け入れ、そして今を大切にする。自分を許すことで、少しずつでも前に進んでいこう。


「希望か……」


その言葉が、稔の心に響いた。希望は、きっとどこかにある。過去に囚われることなく、少しずつ歩みを進めていけば、やがてその希望に辿り着けるのだと、そう信じることができるようになった。


穏やかな風が、再び稔の頬を撫でた。


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