第9話 マーリン

「賢者の称号をもらうだけでも胃が痛かったのに…」


客室に戻ってきてようやく一人になれて、

おもわずベッドに倒れこんで放心状態になりながら、ぶつぶつぶつつぶやいているこんな哀れなおっさんを誰が『賢者』と思おうか?


ここ最近は濃密過ぎた日々だったなあと嫌でも思い返される。


部屋で寝ていただけなのに、皆からまた謎に賞賛されてしまったり。


話に聞くと4カ所で同時に出現した魔物の群れを瞬時に検知して、四属性の戦略魔法で撃退ってなんだよ!

そんなの撃てるなら撃ってみたいわ!

そんなの人外だよね?!


さらに後から聞いた話だと、実は魔物は帝国の策略で、それを打ち破ったのも自分なんだとか。絶対人違いですよね?



それに、個別に王様からは魔法学校の理事長のポジションを打診されたり。(王様から国のために是非とも、マーリンしかいない、とあんな顔で懇願されたら断れないじゃないか。)


魔法師団長からは魔法の弟子にしてくださいとせがまれたり。


まあでも弟子になってくれるのはありがたいね。

魔法の天才である魔法師団長には、隠し通せるものでもないから、正直に『魔力がないんです』と伝えたところ、魔力がないことを理解してくれたようで、弟子として上手く立ち回ってくれるようで。


何言ってるのかわからなかったが、

無属性という魔法の理論を使って、自分が魔法がつかえないことをごまかしてくれるみたいなのだ。


それ以来、無属性魔法の達人という謎の称号がついたが、まあよしとしよう。


冒険者ギルドのマスターからは、莫大な報酬金とS級冒険者の称号が授けられたり。

(今回こそは、ってなんだよ?いままで薬草採取しかしたことないよ?!)



なんとか乗り切ったが(乗り切ったのか?)、流石にもうこれ以上は無理だよ!?


いままでは穏やかな山奥で細々と孤児院を営みながら、冒険者ギルドからの最低ランクの薬草採取の依頼をこなしながら、ミラや子どもたちと暮らしていただけなのに……


いままでどおりの生活は難しそうだから、

まずは一度家に戻って、これからのことをミラや子どもたちと相談してみることにしよう。




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