第7話 エレナ
私の名前はエレナ。
シンフォニア王国で魔法師団長をつとめています。
といっても、マーリン様と比べたらただの魔法使いですが。
昔は自分が王国一の魔法使いだという自負がありましたし、周りからも期待された時期もありましたが……。
マーリン様を見ていると自分がいかに低いレベルの魔法使いか思い知るばかりです。
こう見えても私、相手の魔力を検知するのは大の得意で、魔力制御・魔力隠匿が王国一だと言われたかつての私の魔法の師の魔力隠匿の検知もできたものでした。
それができたからこそ、その師には歴代最年少で弟子にしていただいたのです。
そしてその後も研鑽に研鑽を積んで、魔力検知も、魔力制御も、魔力の隠匿も王国一になったとおもっていたのです。
周りも私を麒麟児、天才ともてはやしました。そんな時代もありました。
そんな私でも、マーリン様の魔力隠匿は全く看破できなかったのです。まるで本当に魔力なんて最初からなかったかのように。魔力隠匿が完璧すぎて、私なんかではまったくわからないのです。
もう私の自信やプライドなんてズタボロですよ。
ずっと精神の拠り所だったことが大したことなかったとわかったのですから。
しばらく心が荒みましたよ。
そんな私にマーリン様は魔法の真理を教えてくれました。
「私の魔力隠匿を見破ることができないって?そりゃあそうですよ、私には魔力がないんですから。」と。
最初何を言っているのかわかりませんでした。
四属性の戦略魔法を何発も撃てる人が、転移魔法を使えるひとが、魔力がないですって?
馬鹿にしてるのかとおもいました。
でも、マーリン様が真剣な表情でおっしゃる様子をみて、だんだん冷静になってくると、「魔力がない」という言葉に真剣に向き合ってみようと思うようになりました。
いままで私は魔力は制御したり、隠匿したりするものだと思っていたのですが、もしかしたら私は根本的なところで間違っているのかもしれない、そう思うようになりました。
魔力を隠すのではなく、
マーリン様の言う、文字通り「魔力がない」状態をつくることができるのではないか、と。
魔力がなくなると命を落とすのが当たり前のこの世界で、魔力がない状態とはなにか?
マーリン様は生きているわけですから、魔力はある。
魔力はある。けれど、魔力がない。
『ある』のに『ない』
『ない』のに『ある』
この時私はひらめいたのです。
魔力が『ない』のではなく、
『ない』魔力があるのではないか、
『無』属性の魔力があるのではないか?と!
私は大興奮でした!
目から鱗とはこのことです。
そしてその後、研究に研究を重ねたところ、
・四属性の魔力を無属性の魔力に変換できること
・無属性の魔力は、四属性の魔力に変換できること
・無属性の魔力は、検知できないが確かにそこにあるということ
この3つの発見をしました。
またこれはあくまでも仮説ですが、無属性の魔素なるものが実はこの世界にはあふれていて、それを無属性の魔力として体内で生成できるのやもしれません。
これが、マーリン様の力の秘密なのではないかとおもっています。
私は未熟ですから、無属性魔力と四属性魔力の変換効率が悪いですし、無属性の魔素を体内で無属性の魔力に変換するのも拙いため、マーリン様ほどの魔法はつかえません。
ですが、これを極めていけば、
マーリン様のような高みまで登っていけるのでしょう。
マーリン様にそのことを話したら、我が事のようにとっても喜んでくれましたし、その喜ぶ様子をみて、私も感無量な気持ちになって、思わず泣いてしまいました。
そして弟子にしてくださいと言ったら弟子にしてくださったのです!
私は再び自信を、本当の自信をつけることができました。
それ以来、まだまだ私が知らないことがあるのだと謙虚な気持ちで日々魔法の研鑽に励んでいます。
マーリン様の弟子として、恥じないように。
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