第5話 アーサー

我の名はアーサー。

シンフォニア王国の王である。


皆からは賢王だの、偉大なる王だのと持て囃されるが、いまの自分があるのは我がお師匠様であるマーリン様のお導きのおかげなのだ。

それに、周りの助けがなければ一人では何事もなすことができないのだということは、マーリン様から昔、よく教えていただいたことだ。


今朝の魔物襲撃の一件もお師匠様にはまたしても大いに助けていただいた。

まさかお一人ですべて解決してしまわれるとは、流石の一言しかない。


寝過ごしたようなことも、おっしゃっていたような気もするがいつものよくわからない冗談であろう。


いつもお師匠様は自分は魔法が使えないだの、自分は師匠と呼ばれるような力も何もないのだの、おっしゃるがあまりにも謙遜や冗談が過ぎる。


いつも謙遜し過ぎて目立つのを好まないお師匠様に表舞台に出てきていただくのをお願いするのは本当に心苦しかったが、お師匠様も我の熱意を受け取ってくださったのか静かに『わかった』と頷いて、賢者の称号を受けてくださったし、王国の皆にお披露目することができた。


王国民の心の安寧のため、国全体を力づけるためにはお師匠様の存在は、どうしても必要なことだったのだと、いまの国の様子を見ていておもう。


いま王国は非常に不安定なのだ。

帝国は近隣の国々を次々と併合し、いつその侵略の手がこちらにかかるかも時間の問題だ。

また今朝の魔物のことがあったように王国内の魔物も年々凶暴になってきており、その対策にも頭が痛い。


そんななか皆にとっての分かりやすい英雄が、圧倒的な光が必要なのだ。


皆に希望を与え、圧倒的な魔法で魔物たちを退け、帝国すらも牽制する、そんな存在が。


先ほどの場では、

皆の前では王の立場上控えたが、

本当は『お師匠様!ありがとうございます!』と泣きながら感謝したいくらいだったが、威厳を保つためにもそれはできなかった。


また今度改めてお師匠様には、感謝の気持ちを個人的に伝えることにしよう。



それにしても、【千里眼】【神出鬼没】の魔法使い、とはよく言ったものよ。


我々が王国内での魔物たちの襲撃の知らせを受けてお師匠様に助けを求めようとした頃には、もうすでに部屋はもぬけの殻で、王宮から発っておられた。

おそらくお師匠様は王国内でどこで何がおこっているのか察知できるのであろう。

そして、我々には理解不能な移動魔法を使われたのであろう。

あっという間に4カ所の魔物の襲撃を食い止めるどころか撃退してしまったのだ。


そしてまた何事もなかったかのように部屋に戻られて、「ちょっと寝過ごしてしまった」など、お師匠様からするのただの謙遜や冗談かもしれないが、我が騎士団、魔法師団、軍の対応の遅さへの皮肉にも聞こえんでもない。


実際にお休み中のお師匠様の手を煩わせてしまったのだ。もしかしたらさらっと忠告いただいたのかもしれない。しっかりと重く受けとめて、今後の魔物襲撃に対する対応を見直しが必要であるな。

いつもお師匠様の言葉には注意深くしていなくてはいけないな。


それに今回の件で、

お師匠様の圧倒的な魔法の力を改めて思い知ったわけだが、


あとから伝令に聞いた話によると、

4カ所で同時発生した魔物の襲撃を撃退したのは、火、氷、風、土の戦略級魔法だったとのことだ。


この王国には戦略級魔法を使える魔法使いなどほぼいないことであるし、ちょうど部屋からいなくなっていたタイミングから、やはりお師匠様によることであろう。


やはり、お師匠様には王国の魔法使いたちに魔法を教えていただき、全体的な底上げをしていただきたいものだ。


なんだかんだいつも固辞されてしまうが、

今度こそ、魔法学校の理事長に就任していただけるように今一度お願いしてみよう。


うん。そうしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る