第4話 マーリン(4)

目が覚めると、昨日の着の身着のまま王宮の客室のふかふかのベッドで寝転がっていた。


部屋は明るく、カーテン越しから今日は良い天気なのだろうなということが感じられるくらいであった。


確か朝イチに昨日の続きの話を、とのことだったような。


…………。


っ!

もしかして寝坊した?!


ガバっと起き上がって、窓の外を見る。

日は十二分に高く登っている。

壁の時計をみる。

もう昼じゃないか!


早く支度して、急がねば。


「きゃあっ!」


部屋の扉の方から女性の悲鳴が聞こえたのでそちらに振り向くと、

ちょうど部屋に入ってきたであろうメイドさんと目があった。


「い、いらっしゃったのですか、マーリン様、し、失礼しました。」


何をそんなに驚いているのだろうか。

ずっと寝ていたのだから、ずっといるのも当たり前だろうに。


むしろだらしない姿を見せてしまってものすごく恥ずかしい。


とはいえ、ここで取り乱すともっと恥ずかしい。


ええい、どうにでもなれ。

開き直って堂々としようではないか。

そもそも起こしにきてくれてもいいじゃないかと思うし。


「ええ、ちょっと寝過ごしてしまいましてね。」



「ええっ?」


さらに驚くメイドさん。


確かに賢者様が、派手にここまで寝過ごすのは意外でしかないだろう。

早速幻滅させてしまったようだ。


ほかの皆様にも幻滅させてしまったことだろう、早いところ謝りにいったほうがよいだろう。


「寝過ごしてしまって、昨日皆様とした約束を破ってしまいましてね。謝罪できればとおもいますので、どなたかに取り次いでもらえますか?」


「ええっ!?………か、かしこまりました。急ぎ確認してまいりますのでマーリン様はひとまずこちらのお部屋でお待ち下さい。」


そしてものすごい早さで部屋をでていくメイドさん。


しばらくすると、別の執事さんが迎えにきて、また玉座の間に通された。


皆様お待ちかねのようだ。


「おお、マーリン!」


第一声は王様だ。

いやに上機嫌だな。

部屋全体の雰囲気もなんか暖かいというか、こちらに対して友好的な感じがする。

いまなら、変に誤魔化さず、ちゃんと誠実に謝れば許されるかもしれない!


「このたびは、寝過ごしてしまって「流石だな、マーリンよ!早速賢者の名に違わぬ働きをしてくれて、我は嬉しいぞ!!」申し訳ありません。』









うん?









「早朝から王国の問題を一つ解決してくれたのに、ちょっと寝過ごしてしまっただなんて面白いジョークを言うなんて賢者様もお茶目ですね!」

と大臣。




え?




「まさに【千里眼】、【神出鬼没】の二つ名をもつ魔法使いは違いますな!」

と貴族。



んん??




「急遽発生した魔物の群れを早期に察知して、すぐに現地にかけつけ、すべて一掃するなんて離れ業は賢者様にしかできない芸当ですな!」

と騎士団長。



だれだよ、そんなやつ!




「皆を代表して礼を言うぞ、マーリン。これからも我が王国のために、その力、存分に振るってくれ。」

と王様。



よ、よくわからんがひとまず返事しておこう。



「微力ながら、励んでまいります。」



また、知らないところで活躍したことになってしまった!!


どうしよう…………。

どうすればいいんだぁぁ!!





マーリンの心の慟哭をよそに、


その日の【千里眼】【神出鬼没】のマーリンの活躍はあっという間に王国中に知れ渡り、賢者マーリンを讃える声は止むことはなかったという。

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