第3話 マーリン(3)

王宮のふかふかベッドで眠りに落ちたのに、朝起きたら家に帰っていたなんて、とうとう自分も瞬間移動の能力に目覚めたのかな!?

ようやく私の時代がきた!?


そう思うほど自分の頭はお花畑ではないんだなこれが。


うん、これはあれだな。


夢だ。


こんな夢を見るなんてよっぽど王宮が嫌だったんだろうな、自分。


思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「どうしたの?体調でも悪いの?マーリン」


ミラが心配そうな顔で聞いてくる。

心配そうにしている顔も、

まるで慈悲深い女神様のような美しさと優しさですいこまれるような心地になるけれども、夢の中でもミラに心配かけちゃあいけないよな、自分よ。


「いいや、寝ぼけていただけだよ、ミラ」


そういうとミラは心底安心した表情で「良かった」と言って、ほっぺにかわいいキスをしてくれて、ほほ笑んでくれた。


この人にはかなわないな。とミラの笑顔をみながら思う。


ミラは自分には本当にもったいないくらいの素敵な人だ。


最愛のパートナーであり、自分が運営している孤児院の子供たちを我が子のように育ててくれてもいる。


ミラの笑顔をみているだけで、王宮でのパーティやパレードでの心労や、胃の痛みなんてなくなってしまうくらいだ。



「王宮のパーティやパレードが大変過ぎて、皆からの不相応な期待を受けすぎて、正直胃がずっとキリキリしていたんだけどね。」


「…………そうだったのね。」


「ミラのおかげで元気が出たよ。」


「ふふっ良かったわ。」


「会いたいと心の中で思えば会えるものだね。」


「そうよ、私も会いたいと思っていたもの」


「何かの間違いで『賢者』という称号を授かってしまってどうしたらいいかわからないけれど、夢から覚めたらいつものように全力で頑張ってみようと思うよ。」


「えっ?…………ううん、何でもない。マーリンならきっとできるわ。」


「ありがとう」


よし、夢から覚めたら、覚悟決めて頑張ってみよう。


どうしたものかな。


一旦、魔法教えてくれ、とか、弟子にしてくれ、というひとたちには、ひとりひとり話を聞いてみるようにしよう。


そして、魔法使って見せてくれ、という要望には、うまいこと、見せられる魔法なんかないですよ、と謙遜して(そもそも本当に見せられる魔法なんかないのだから)やり過ごしてみよう。


なんとか一通り終えたら、孤児院で待ってる妻も子供たちもいるので、とやんわり言って家に帰らせてもらうようにしよう。


うん、そうしよう。

そうと決まれば、明日起きたら気合い入れて臨むだけだな。


とはいえせっかくだから、もう少し夢の中で癒されてから起きることにしよう。


そういえば、夢の中だからか、子供たちがいないな。


「そういえば、子供たちがいないようだけど、朝早くからみんな外に遊びに行ってるのかな?」


「そうよ、みんなあなたに会いたがっていたけれども、あまりにもぐっすり眠っているものだから、マーリンが起きるまで外で遊んできなさい、って言ったのよ。騒がしいとゆっくりもできないでしょ?」


「そうだったのか、子供たちには悪いことしたな。」


「また後ですぐ会えるわ、それよりマーリン。お腹空いたでしょう?朝ごはんにしない?」


「そういえばお腹が空いてきたな、朝ごはんにしようか。」


その後ゆっくり朝ごはんを満喫したあと、ミラとの他愛のない話を楽しんだ。



………



さて、

十分癒されたから、決意が変わる前に、

そろそろ現実に戻るとしようか。

本当は嫌だけど。


「ありがとう、ミラ。夢の中でもありがとうね。そろそろ起きて頑張ってみるよ!」


「ええっ!」


ミラが滅多に見せないような驚いた顔をする。


「本当に王宮に戻っちゃうの?せっかく王宮から家に帰ってきたのに!子供たちももう少ししたらお出かけから帰ってくる頃なのに!」


「うん。本当はずっとここに(夢の中に)いたいんだけどね。でもいつまでも現実逃避していてはいけないと思うから、行くとするよ。」


「……………あなたがそう言うならしょうがないわね。わかったわ。子供たちには後で言っておくわ。」


「ありがとう、ミラ。また家に帰ってきたら、子供たちとゆっくりしようね。」


「ふふっ。楽しみにしてるわ。頑張ってね。マーリン。また、困った…あったらわた……ちに………っ…ね。」


ミラの言葉がだんだん遠くに聞こえるような不思議な感覚に襲われながら、


意識がまた微睡みのなかに落ちていくのであった。












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