日中編
エロスライムは昼食を簡単に済ませる。
早朝の活動によって必ず人間から魔力を吸収しており、物理的食糧をほぼ必要としないのだ。
余った時間で午後の計画を練るためでもある。
彼の周りを小さな5匹のスライムが囲っていた。生み出されて殆ど時間の経過していない、幼子同然のスライム達だ。
通常、スライム達はそのまま野に放たれ、冒険者の恰好の餌食となる。
行動指針は術師が埋め込んだ知識の欠片のみ。経験もなしに戦場へ放たれる。
嘆かわしい事に、そのような愚かな行為が横行しているのだ。
だが、熟練エロスライムの考え方は違う。スライムの先輩として、後進の育成は必須と考えていた。
『どうしてそんな事をするんだ?』
魔王軍の同僚であるコボルトにそう尋ねられた事があった。
魔法生物であるスライムは誰からも感謝されず、賞賛される事もない。
それでも。
『自分自身の生きた証を残したいのかもしれませんね』
スライムははにかんで答えた。当然表情などは無かったが――。
□ □ □
森に潜みターゲットとなる相手を探す。
木漏れ日の中、草木の合間を縫って蠢くスライムを見つける事は決して簡単ではない。
特に駆け出し冒険者は視線が高い。森の中でゴブリンやコボルトを見つける事は出来ても、スライムを見つける事はできなかった。
空に意識を向ける事はあっても、無数の木の枝を俯瞰する事も出来ない。新米スライム達を木に登らせ、木の葉に隠れさせる事で十分に存在を隠せた。
この辺りは強力なモンスターはおらず、駆け出し冒険者の登竜門的な場所である。
「――――」
昼過ぎの暖かくなる時間帯、初めての冒険に胸躍らせている冒険者を発見した。
幼いオスとメスが2匹ずつ。丁度いい相手だろう。人間年齢では13~15歳程度か。
オスはいずれもヒューマン、剣士と槍使い。メスは猫耳人の魔法使いと兎耳人の僧侶だ。武器の購入に金を使い果たしたのか、防具は普段着程度の代物だった。
敢えてガサリと音を立て、人間たちの前に姿を現す。木々の隙間から差し込む光が、自身の身体を煌めかせ、実力以上の威圧感を与えている事だろう。
「スライムだ!」
「一匹だけ、だね――」
剣士が前に出ると同時に、魔法使いと僧侶が一歩下がる。そして槍使いが前衛と後衛の間をフォローするように立った。素早い判断と基本に忠実な動きだった。
「――――」
迂闊に攻撃を仕掛けてくる事もない。この者達は優秀な冒険者達に育つ。
熟練エロスライムの勘がそう感じさせた。
ならば、お手並み拝見といこう。訓練と実践の違いを、思い知るがいい――。
身体を収縮させ、剣士に向かって飛び掛かる姿勢を取る。
剣士が剣を上段に構えた瞬間――、
「なにっ!?」
「えっ!?」
スライムは身体を歪ませ、剣士の股の間を掻い潜った。
そして一気に距離を縮め、猫耳魔法使いの上半身に張り付く。
薄い身体だった。今朝の犬耳武闘家とは比べ物にならない。服の上からですらあばら骨の硬い感触を感じる。
「やっ、なに!?」
今は新人たちの教育の時間だ。普段はこのような駆け出しにこの技を使う事は無いのだが、今日は特別に披露する事にした。
『防具だけを溶かす酸』
本体へのダメージが無い代わりに、防具だけを溶かし、破壊する酸を吐き出す技。
この技を習得することで、通常のスライムからエロスライムへ進化する事ができる。
エロスライムの技としては基本にして原点、そして最優の技だった。なにせ防具を破壊する事で防御力を激減させる事ができる。
取得する事ができれば、様々な戦場で引く手数多のサポーターとして活躍ができるのだ。
しかし連発する事ができない上に、酸に強い防具には効果がない事が難点ではある。
「きゃああ?服がっ!」
下着をギリギリ溶かしきらない程度に酸の強さを調整し、上着をぐずぐずに崩していく。
熟練エロスライムの妙技に、新米スライム達は目を見張った。
剣士が身体を剥がそうとするが、剣では猫耳魔法使い自身を傷つける恐れがあるためか、素手でスライムの身体を引きちぎろうとしていた。
甘い判断だ。
例え仲間の身体を傷つけたとしても後から回復すれば良い。真っ先にコアを破壊する事、それが対スライムの鉄則だ。
手で押さえなければ下着がずれてしまう程度に溶かし、魔法使いから離れる。
「いやぁ!」
「大丈夫か!?」
恥ずかしさに両手で身体を隠す猫耳魔法使いに、剣士が駆け寄る。
これもまた甘い。大声を上げられるような状態ならば、大きなけがはない。放って置くべきだった。
いや違う。番の関係までは進んでいないのだろうが、お互いに異性を意識している。そのため、目の前の敵よりもメスを優先したのだ。
二人の声の張り、体温の上昇、視線の動き。そこから即座に判断できた。
熟練のエロスライムは、発情という状態を素早く正確に分析する事が出来る。
「やろうっ!」
仲間の身体から離れたスライムに、大柄の槍使いが鋭い一撃を放つ。
しかし身体の一部を動かし、コアの位置をずらして避けた。
油断していたら危なかっただろう。長いリーチ、強力な一撃。物理アタッカーとしてはスライムの難敵だった。
だが、未熟――。
動きが大振りすぎる。森の中ではもっと柄を短く持ち、敵の動きを封じるべきだ。
強力な一撃も当たらなければどうという事は無い。
猫耳魔法使いも戦線に復帰する様子はないようだ。剣士の少年に抱きしめられ、顔を赤らめている。
お遊び感覚では戦場を生き残れない。
少しお灸を据えてやろうと、槍使いの隙を見計らい足に纏わりついた。
「なっ、離れやがれ!」
防御装備に手が回らなかったにしろ、下半身がハーフパンツ程度というのは甘過ぎる。
スライムはその隙間から身体を忍び込ませ、大柄な少年の下半身に纏わりついた。
「うおっ!気持ち悪りい!」
オスの体液は不味いため、頻繁に張り付くことは無いが――。
この少年はなかなかに活力に溢れているようだった。昔戦った、歴戦の冒険者の股間を思い出す――。
だが、気持ち悪いという感想はプライドを傷つけられた。エロスライムの感触は、どんな物体よりも気持ちの良いものなのだ。
その感想を、発言を許す事は出来ない。
強弱をつけ、全身で甘く刺激を与える。
「うああっ!?」
熟練のエロスライムはオスに対してのマッサージも熟知している。戦場で出会う相手はメスだけではない。
蕩けた顔を見せる少年の反応に満足すると、動きを止め――、
「熱うっ!」
弱めの酸で股間に攻撃を加えた。
火傷によって股間を抑え、ズボンを脱いで転げ回る少年を横目に、最後の獲物を見定める。
兎耳の僧侶。年齢にしては発育の良い柔らかそうな身体つき。彼女もまた、過去に立ち会った聖女並の逸材だろう。
早朝の少女程の化物ではなさそうだが。
熟練の兵として、駆け出し冒険者に負けるわけにはいかない。
「い、いやっ――」
どちらの身体が至高の感触か、いざ尋常に――。
勝負。
「やだあああああっ――!」
森の中、少女の悲鳴が木霊した。
□ □ □
辛勝。
まだ少女が成長途中であったからだ。もう少し経験を積んでいたら、こうはいかなかっただろう。
迅速に勝負を決め戦場を離脱したエロスライムは、遠目で駆け出し冒険者達を見つめる。
荒い呼吸で槍使いの傷を癒す兎耳僧侶の目は、先ほどまでの気弱な少女のものではなく、妖艶な捕食者の目であった。
剣士に抱きしめられたままの猫耳魔法使いは、長い尻尾を少年の太ももに巻き付け、甘えた声を出している。
オス2匹も興奮状態にあるようだ。
まさか――。
新米スライム達の教育だけを念頭に置いていたが、これは上層部への報告が必要な案件だった。
早い段階で番を作った冒険者は成長速度が一気に跳ね上がる傾向にある。
相手はまだ若いと油断した魔王軍兵士達が、番の冒険者達に倒されてしまう。そういった事件は事欠かない。
お互いを護るために眠った力を発揮するのか、精神的に成長した事によって身体能力まで伸びたものなのかは分からないが。
元々将来有望そうな冒険者達だ。遠くない未来に魔王軍を脅かす存在になるだろう。
争いに勝利する事だけを考えれば、魔王軍にとってマイナス。
だが――。
『戦闘狂の方々が喜ばれる』
魔王軍上層部の殆どは、戦果を求めるよりも戦闘そのものに楽しみを見つけるタイプの方々だ。
今後、軍団長の方々があの者達とであった時、どのような悦びを得られるか。
それを考えるだけで、ぷるぷるの肌が瑞々しく震えるのがわかった。
聞こえてきた嬌声に背を向ける。
人間の営みが珍しいのか、目?を釘付けにする若スライム達を一括すると、森の新鮮な空気を吸った。
今日も良い仕事をした――。
そう呟き、エロスライムは次の仕事へ向かうのだった。
密着、熟練エロスライム24時 犬道(いぬみち) @Inumichi
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