第4話 ハイリスク・ハイリターン

「──少年、ヒーラーだろう?」


 連中から離れた俺のあとをついて来た女剣士がそう言った。


 別に隠す気はなかった。


「見た感じパーティに属しているようには見えないし、あのパーティにヒーラーが必要だと思ったのなら少年が入ってやればよかったじゃないか」


「……勘弁してくれ、ソロになったのは面倒なことがあったからだ。また同じように性悪デカ乳に居場所を奪われちゃあ、いくら俺でも心が折れる」


 あんなエロい身体をしたロリにざこざこなんて罵られるのは、そこら辺の男からしたらむしろ興奮する瞬間なのだろうが、そうではない俺にとってはただチビエロガキに負けたという結果だけが残る。


「そうか、苦い過去を蘇らせて悪かったな。でも私は性悪ではないただのデカ乳だぞ。少年の居場所を奪うどころか与えてやろうとしている女だ」


 自らの胸を誇らしげに叩いて主張してくる。


 どちらかと言うとこっちの方が胸はデカく、背もデカい。


「えっと……何が言いたいんだ?」


「あーいやいい、少しばかり先走りすぎた。それよりも、少年の名前は?私はレグナ」


「アキだ」


 何が言いたかったのか、結局分からなかった。


「少しの間、私と行動を共にしないか?どうにも一人でやっていけるほど戦闘能力が高いわけではないように見えたが」


〈ヒール〉を使った時の俺のナイフの扱いを言っているのだろう。


 俺としても断る理由はない。


「それは助かるよ。レグナほどの理想の剣士が一緒にいてくれると心強い」


 ついでにナイフの扱いを教わることができれば願ってもいないことだ。


「理想……?この私がか?」


 自らを指さしてそう聞いてきた。


「俺の中の理想という意味で言った。女の剣士がかっこいいと思ったのと、レグナほどの強者と共にいられるんだから安全だ」


「……なるほど。それじゃあアキの期待に応えられるよう頑張るとしよう」


 パーティを組んではいないものの、臨時という形で共に行動するようになった相棒のレグナ。


 剣技の腕は素人の俺から見ても本物であり、凄まじい速度で魔物を斬り殺していく。


 それゆえに俺の出番というか見せ場が全く来ないのが寂しい。


「くっ……!」


 特攻していくレグナだが、両サイドからも二体の魔物が接近してきているのに反応が遅れてしまった。


 真正面の個体を斬ってから強引に両サイドの魔物を横に一閃して斬った。


「大丈夫かレグナ、随分と無茶な戦法に見えるぞ」


〈ヒール〉をかけてやれば全ての傷が消えていった。


「……悪い、少し張り切りすぎた。アキが見ているからと良いところを見せるのに必死だったみたいだ」


 苦笑いをしながら情けない顔を俺から隠そうと背ける。


「俺だってソロになったから色々と試したいことがある。少しだけ選手交代でいいか」


「それは構わないが……だってアキはヒーラーなんだから〈ヒール〉しか使えないだろう?」


「一度、〈ヒール〉を最大まで発動させてみたい。レグナは目を閉じていてくれ。開けていてもいいが、何回も失明するかもしれない」


「……分かった、閉じていることにするよ」


 さっそく俺は〈ヒール〉を唱えて発動した。


「唱えるよりも先に光っているように見えたが……?」


 まだ目を閉じていないレグナがそう言ったが、そこは気にしない。


 目を閉じるようレグナに言ってから、段階的に光度を上げていく。


 耐性のある俺の目には、光の具合がどれほど眩しいのかは分からない。


 まず初めに周辺の植物たちが豊かになり、わずかに成長するものの止まった。


 しかし変化はそれだけで、どれだけ光度を上げようと目に見える変化はない。


 分散した〈ヒール〉の光は全体的に周囲を照らして回復させている。


 ここに自らの落とし所があった。


 光は一点に集中させてこそ光力を発揮する。


 であるならば散らばったこの光を纏めればどうなるだろうか。


 解除してから再度発動させ、手のひらに集中して〈ヒール〉の光度を上げていく。


 分散させていない分、周囲に影響を与えることはない。


 まるで光のボールのようなものが形成され、力を込めれば込めるほどサイズは大きくなっていく。


「ちょ、見て見てレグナ。凄いのができた」


「……目を開けても良いのか?」


「多分大丈夫だ。これは絶対今までの〈ヒール〉の常識を覆すものに違いない」


 治癒の力が残っているかすら怪しいが。


 レグナが俺の言葉を信じて一気に瞼を開けた瞬間、


「──アァァァァッ!!!」


 悲鳴をあげて失明してしまった。


 ───


「ごめん、俺の目からじゃどれだけ眩しいかあまり把握できなくてさ」


「……あぁ、別にいいよ。こうして治してもらえたんだから何も失ってはいない。目が焼けるように痛かったが」


 レグナの目を治療してから、俺は再度〈ヒール〉で光のボールを作り出した──これをヒールボールと名付ける。


 彼女には最後まで目を閉じてもらう。


 大きさにして、およそ握り拳一つ分。


 これをどうするかなのだが、とりあえず木に向かって投げてみることにする。


 手から離れても消えるわけではなさそうなため、勢いよく投げつけた。


 すると結果は予想を大きく超えるものとなった。


 俺の勝手なイメージでは、木が異常なほどの回復と成長をするのではと思っていた。


 だがどうだろう、目の前には業火に焼かれた無惨な木の姿があった。


 ヒールボールが直撃した瞬間、激しく燃えだした。


 木を回復するどころか殺してしまった。


「……もう開けていいぞ、レグナ」


「分かった。………っ!」


 俺の声を聞いて目を開けたレグナも、目の前の惨劇に絶句している。


〈ヒール〉が木を燃やしたのだから口から言葉が出てこない。


「これは……いやでも、アキはヒーラーだから有り得ない。何というか……つまりどういう事だ?」


 考えることを放棄して俺の方を向いた。


「えーっと………つまり危険だってことだ。一瞬でもレグナに投げようとしていた自分が恐ろしく思えてきた」


「……ッ!?」


「いや冗談だ、半分冗談。まぁ今後使う機会はないと思いたいな」


 焼かれた木はあっという間に消し炭となり、〈ヒール〉で治せる範囲を超えている。


 人が直視しただけで失明し、当たれば焼かれる。


 これの元が人を治癒する〈ヒール〉なのだから意味が分からない。


 いくらなんでも諸刃の剣が過ぎる。

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性悪デカ乳ヒーラーと入れ替わりで冒険者パーティを追放された。称号【聖王】は思ってたよりも有能でした はるのはるか @nchnngh

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