第2話 自己中な〈ヒール〉
適当に近場の森へ赴き、少し歩き進んだところですぐに一体の魔物と遭遇した。
ヒーラーという職業であるが故に、単独で敵と遭遇してしまえば戦う術なく死んでしまう。
なぜならヒーラーは人の傷を治すことしかできないからだ。
そう考えたら、ヒーラーの中で初のソロ冒険者なんじゃなかろうか。
……話を戻すと、要は俺は一般的なヒーラーではないってことだ。
だって聖王だから。
「〈ヒール〉」
現れた魔物に対してそう唱えると、かざした手が神々しく輝き出した。
これがヒーラーが人の傷を治すときに出すものなのだが、傷を治さなければただ眩しいだけの光なわけだ。
そしてこれの輝き度をさらに上げて上げて上げていけば………
眩しすぎてその場から一目散に走り去り、戦わずして魔物を追い払うことができた。
当然俺にはバッチリと耐性があるから余裕で直視することができる。
どこまで光度を上げられるかの上限は分からないが、手応えからしていくらでも上げられそうだから少し怖い。
ただこの手段をとると、魔物が負っていた傷も治してしまう。
本当に追い払うことにしか使えないが、別に殺戮を求めているわけでもないからそれはいい。
「さてと、お金稼がないとだな」
森を出てギルドへと向かった。
割のいいクエストでも受けられれば稼ぎまくりだ。
なんせパーティメンバーの人数分で配当する必要がないんだからな。
「──許可できません」
「は?えっ、なんで」
受付のお姉さんにキッパリと拒否られてしまった。
「だってあなたヒーラーじゃないですか。ヒーラーがソロでクエストを受けようだなんて、そんなの自殺行為です。目の前にいる自殺志願者に許可を下せるわけないでしょう」
真っ当な理由ではあるが、それじゃあ俺の冒険者人生に幕が下ろされてしまう。
ヒーラーはソロ冒険者になることすら許されないというのか。
俺は聖王だぞ!!………なんて叫びたいくらいだが、単なる阿呆にしか見られないのが目に見えている。
「いいですか、討伐に行きたいのであればせめてパーティに所属してください。それが無理なのであれば薬草採取のクエストを受けることをお勧めします」
薬草採取なんてふざけんな、あれほど割に合わないクエストはねぇよ。
一日かけてやっても中堅くらいの魔物一体の討伐クエストの方が多く儲かる。
戦闘職が圧倒的に生きていく上で有利なのに対して、ヒーラーは独りだと薬草採取しかできないなんて悲しすぎる。
「分かりました。じゃあそのクエストはキャンセルで」
「あっ、ちょっと。どこに──」
そそくさとこの場を後にして、俺は森の方へ向かった。
クエストを受けられなければ適当に狩ってきた魔物を売り飛ばせばいいんだよ。
部位だけを剥ぎ取って売るだけでも中々な値になるはずだ。
ギルドのクエストではないから止められることもない。
「っと、その前にナイフの一つでも買っておかないとな」
森の中で不意打ちでもされたら成す術なく死んで終わりなので、序盤からあらかじめ〈ヒール〉を使用していたのだが、眩しすぎるせいなのか魔物が全く目の前に現れない。
森の中で俺だけ異様に光っているため、遠くからでも俺の存在は知られているだろう。
ちなみにどれくらい〈ヒール〉の光度を上げているかというと、俺が歩くと周囲の木々やら草などの植物がわずかに成長している。
人以外に〈ヒール〉を行使したことがないが、まさか植物が若干の成長をするとは驚いた。
ひとまず解除して、注意深く周囲を見渡しながら進んでいくことにした。
認識さえ間に合えば、〈ヒール〉はタイムラグなしに発動させることができる。
要は俺の反射神経にかかっている。
気付くのが遅れればこんなところに独りで魔物に殺されて、誰にも発見されることなく骨になる。
「ん……何か聞こえるな」
数人による叫び声が聞こえてくる。
どの声も穏やかな様子ではない危機的状況下での悲鳴だと思われる。
これは何か面白そうなことが起きる予感がする。
声のする方へ俺は向かうことにした。
ついでに魔物を何体か漁夫ることができればラッキーだ。
少しずつ遠くの様子が目視できるようになってきた。
そこは結構な戦場と化しており、3、4人の冒険者パーティと十数体の魔物が交戦していた。
辺りには倒した魔物の死体がいくつも転がっており、群れで襲われたことが分かる。
その中で、俺は一人の冒険者の方へと目が向かった。
樹木の下に横たわる仲間らしき人を背に、向かってくる魔物を次々と斬り倒している女冒険者がいる。
見た感じ剣士のようだが、女剣士は初めて見た。
ヒーラーが女であるのが当たり前だというように、剣士もまた男に相応しいものだと言われている。
一太刀で自らの体格以上の魔物を斬り伏せるその姿には惚れ惚れしてしまう。
あと何故だか無性に親近感が湧いてくる。
俺の存在に気がついたのか目を合わせてくる。
あれは……助けてって言いたいのかな。
だが残念ながら、〈ヒール〉を使ってしまえば魔物は前が見えなくなるだろうが彼女たちも眩しくて何も見えなくなってしまう。
俺の助力は諸刃の剣すぎるのだ。
腕を大きく頭上でバツの形に掲げてから目が眩しいというジェスチャーを彼女に向かって行う。
「声に出して言え!何を伝えたいのか分からん!」
怒鳴り声でそう言われた。
魔物と戦っている人に向かってジェスチャーをするのは禁じ手だったか。
「俺のぉー!攻撃だとぉー!目が眩しくてぇー!開けられなくなるんだぁー!」
「それなら目を閉じていればいいのか!?」
予想外の返答がきた。
それは確かにそうだけど……
すると彼女は突然目を閉じ始めた。
「ちょっ、まだやるとは言ってない……!」
慌てて〈ヒール〉を発動させた。
「うわぁぁなんだ!?」
少し離れたところで戦っていたもう一人の冒険者が驚き叫びを上げていた。
失敗すれば死人が出るため、先ほどよりもさらに光度を上げて行使している。
普通の人が直視してしまえば一瞬で失明するだろうが、一瞬で回復もする。
この場にいる俺以外の冒険者と魔物は全て目の前が見えない状態となった。
俺は手にナイフを持ち、眩しさで慌てている魔物を倒して行こうとした。
しかし、この手法はさほど効率的なものではなかった。
なぜなら、眩しいとはいえ魔物はその場でじっとしているわけではないからだ。
鋭利な爪をブンブンと振り回しまくっており、危ないったら仕方がない。
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