性悪デカ乳ヒーラーと入れ替わりで冒険者パーティを追放された。称号【聖王】は思ってたよりも有能でした

はるのはるか

第1話 ソロ冒険者になる

『少年──きみに聖王の名を与えよう』


 神さまらしき声が頭の中で聞こえてきた。


 ヒーラーという職を与えられた後にそう言われた。


 胡散臭さが尋常ではない、なんだ聖王ってダサくないか。


『……聖王の称号が形だけのものだと、そう言いたいのか』


 おっと、神さまは俺の思考が読めるのか。


 別にそんなことを言ったつもりはないが、そんな称号を貰ったところで嬉しくはない。


『私がきみを聖王の座に選んだのだ。与えられるに相応しい器だと──』


 これって受け取り拒否とかできないのか?


 そもそもどんな職業になろうとどうでもいいんだ。


 ヒーラーになったのなら、とっとと帰らせてくれ。


『………ノーリターンだ。きみに聖王の称号授ける』


 そう宣言された直後、神さまとのリンクが切れた。



 ─────


 ある日突然に、人は神からモノを与えられるという。


 それはその人の生きる道であり、職業という。


 自分の人生の決定権を神が持っているというのが気に食わないが、世の中の摂理としてそうなっている。


 本当に気に食わないと思っているやつは自ら生きる道を変えている。


 俺が与えられたヒーラーという職、これは男が与えられるはずのないものだ。


 十人に一人の割合でヒーラーを与えられる男がいるらしいが、ヒーラー=女の職といいうのが一般的な認識だ。


 理由は単純で、粗雑で野蛮な男が人の傷や痛みを治せるか、というものだ。


 ヒーラーを与えられた男のほとんどは、自らで職業を強引に変えて生きている。


 俺はそんな面倒臭い事はしたくない。


 真面目に、ヒーラーという位置でとある冒険者パーティに属している。


 男のヒーラーである俺を除け者にするやつはいないし、それなりに良い人が集まったパーティだ。


 しかしそんな平穏は一瞬にして崩壊を遂げてしまうのだった。


「ねぇ、そこのキミ」


 一人で街中を歩いていると突然背後から声をかけられた。


 振り返ると、そこには至近距離で顔を近づけてくる美少女がいた。


「キミってさ、ユウトくんのパーティのヒーラー、だよね♡?」


 上目遣いをして胸の谷間を強調しながらそんなことを言ってきた。


 文末にハートをつけたような喋り方をしているこの美少女、腕で強調しているとはいえ中々にデカい乳をしている。


「ねぇどうしたのかな♡?興味津々な目でどこを見ているのかなぁ」


 あまりのデカさに乳をガン見してしまっていた。


「……悪い。ユウトは確かにうちのパーティのリーダーで、俺はそこのヒーラーをやっている。それがどうかしたのか」


「そっかそっか。もういいよっ、ありがとね」


 ただ確認しただけのようで、それだけ言ってそそくさと去って行った。


 でもいったい何のために確認をしたのだろうか。


 それは翌日になって分かった。


 パーティメンバー全員で集合すると、その場にはデカ乳の美少女がユウトと一緒に少し遅れてやってきた。


 デカ乳の方は昨日なんら変わらない表情でいるが、ユウトの方はどこか様子がおかしい。


 顔は赤く、全体的に服装が乱れている。


 そのことにいち早く気がついたのは、パーティメンバーのアリシアだった。


 アリシアはユウトの彼女であり、それはメンバー全員が知っている。


「ねぇユウト、今朝は用があるから先に行っててって言ったよね……?その用が、そこの女と会うことだったわけ?」


 一瞬にしてこの場の空気は重たいものとなった。


「ちっ、違うんだアリシア。それは誤解だ……用があったのは、本当なんだ。ただ……」


 彼女であるアリシアに弁明を図るユウトだが、そこで言葉が詰まって出てこない。


 ユウトがアリシアを悲しませることをする男ではないと知っているからこそ、ユウトの言っていることは嘘ではないと分かる。


「ただ、何?」


 強気で問いただすアリシア。


「口論の中悪いんですけどぉー、ユウトくんとはただそこでばったり会っただけなので、あなたの思っているようなことは何も起こっていないですよ、ユウトくんの彼女さん♡」



「っ……それで、あんたは誰なの?」


「そうそう、今日は私の歓迎お祝いを開こうかと思うですよっ♡」


 デカ乳がそう言った後、一瞬だがユウトが俺の方を見た。


「それって、いったいどういう……」


「私、美少女ヒーラーのリリーちゃんがこの度、このパーティに加わることになりましたぁ♡。そこで問題となるのが、そこの男の存在なわけです♡」


 そう言って俺に指をさしてきた。


「──おい、ちょっと」


 割って入ってきたのは、タンク職のガタイのいい大男、ガストンだ。


「まさかそこの嬢ちゃんが入って、アキを抜けさせるなんて言わねぇよな?」


「おじさん勘がいいよ♡。だって一つのパーティにヒーラーが二人いたって仕方がないもんね♡」


「はぁ……?意味が分からないんだけど。ユウト、そんなことしないよね?アキは私たちの仲間でしょ?」


 アリシアがユウトに問いただすも、口を閉じたまま何も話そうとしない。


「ユウトくんは私とこの男、どっちが必要かがちゃんと分かっているんだよ♡。ねっ、ユウトくん♡♡」


「う、うん……」


 デカ乳に手をギュムッと握られた状態で頷いたユウト。


 あのデカ乳を揉みしだき放題の券でももらったのか、なにか弱みを握られているのか。


 何にしても、このパーティでの全ての決定権はリーダーであるユウトだけが持っている。


 つまりこの瞬間、俺はこのパーティから外されることが決まった。


「そんじゃまぁ、俺はここでさよならさせてもらうよ」


 ユウトは俯き、他のパーティメンバーは複雑な表情をしているものの誰も引き止めようとはしない。


 結局ヒーラーの職は女のものなんだろう。


 外に出ると、背後から走ってくる音が聞こえてきて、直後に背中に柔らかな感触がした。


「──ざぁこ♡//……無様に負けてかわいそーなオスが」


 背中に抱きつきながら耳元で小悪魔の如く囁きながら、あろうことか男の局部に手を伸ばして触れてきた。


「男なんてチ◯コを握ればただの奴隷なんだよ」


 えげつないことを言い放つなり、俺の背中から離れてみんなの元へ戻っていった。


 確かにあんなデカ乳美少女に握られながらデカ乳を押し付けられたら言うことを聞いてしまうのも理解できる。


 純粋なユウトではあの女の刺激に耐えられるはずがない。


 だがしかし、俺にエロ仕掛けは一ミリも効かない。


 たとえチ◯コを握られようとも、デカ乳を押し付けられようとも頭の中は無なのだ。


 聖王という称号があるせいで、性に対する耐性が異常なほどある。


「……さて、これからどうしよっかな」


 晴れてソロ冒険者となってしまったわけだが、パーティに属していたころに一つ気がついたことがある。


 聖王、一人で何でもできる説だ。

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