第3話 イケメンとお買い物
「お支払いはいかがされますか?」
「カードで」
「……」
皇羽さんを「貧乏仲間かもしれない」と思った昨日の自分を、 説教してやりたい。
「なんで高校生がカード持ってるんですか? やっぱりレオなんじゃないですか?」
「だから、ちげーって言ってるだろ」
「帽子とサングラスをして変装してる人が、よく言いますね」
「あのなぁ…」
あれから――ドタバタした身支度から一転。私たちは(見た目は仲良く)ショッピングに勤しんでいた。
ショッピング開始から一時間。
皇羽さんはテキパキと私の必要物資を揃えていき、今では二人の両手いっぱいにショッピングバックが握られている。
残るは……下着だけ。
「では私がちゃちゃっと買ってくるので、皇羽さんはお店の外で待っていてください」
「はいはい」
近くのベンチに座る皇羽さん。店の中に入ろうとした時、キャーキャーと声が聞こえた。
「マジかっこいいですねぇ! 一人ですか?」
「良かったらお茶しませんー?」
……ん!?
まさかだけど、皇羽さんナンパされてる?
しかも、あんな美人な大人の女性に⁉
にわかには信じがたかったけど、皇羽さんに見とれている女性は、ナンパしている彼女たちだけではなくて……。
行きかう人々、皆が皇羽さんに目をやっては頬を紅潮させて通り過ぎている。
「女性だけならまだしも、男性も、おばあちゃんもおじいちゃんまで! なんで、どうして……⁉」
全人類キラー、皇羽。
じゃなくて。
皇羽さんの中身はゴリゴリ肉食系で近づくと危ない人ですよって言うのを、詳しく教えてあげたい。
っていうか万が一、女性が「お持ち帰り」されたらどうしよう⁉ ベッドは一つしかないんだよね? 私、寝れないじゃん!
「いや、寝る以前に声が聞こえてきそうで……」
ブツブツと呟いていた、その時だった。
「なに店の前でモタモタしてんだよ」
「皇羽さん⁉」
さっきまでベンチに座っていた皇羽さんが、なぜか私の隣にいた。
「え、ちょ、ナンパは?」
「あ? あんなの構ってたらキリねーだろ。流して終わりだっての」
「(キリないくらいナンパされてるんですね…)」
さすがイケメンの発言は違う――そう思っていると、皇羽さんが店の中に入っていく。そして近くの店員さんを呼び止めた。
「ここって男性入店可能ですか?」
「ひ! イケメ……!!
ほ、本来ならお断りしているのですが、特別に許可できます……‼」
「(なんでよ!)」
許可しないでよ! こんな危険生物!!
だけど私の願いもむなしく、私と皇羽さんは二人一緒に試着室に案内される。そして店員さんが「今話題の下着は、」と説明を始めると、皇羽さんは話も聞かず立ち去った。
まさか……遠慮してくれたのかな?
気を遣ってくれた? あの皇羽さんが⁉
なにそれ、優しい…。と少しだけ期待した私は、一秒後に大後悔する。
「はい、萌々」
「え、えっと……なにこれ?」
「つけてみろ。お前に似合う」
「はあ⁉」
なんで皇羽さんに下着を選ばれなきゃいけないの!
だけど店員さんは「グッジョブですね……!」と親指を立てて、姿を消した。
いや、あなたが気を遣わなくていいから!
戻ってきてー‼ スタッフさん!
「ほら、早くつけろ。あ、着け方わかんねーならつけてやろうか?」
「け、結構です!」
シャッ
カーテンを閉めて、やっと一息が付ける。
慌ただし過ぎて、喉が渇いてきた……。
だけど、下着を選んでくれて助かったのは事実。
私はいつも適当に下着を選ぶし、こんなちゃんとしたお店で買った事が無かったから……。何を選んだらいいか、ちんぷんかんぷんなんだもん。
「あ、柄が可愛い。レースがある……って、なんでサイズがバッチリなの!」
カップもアンダーもドンピシャリって……すごいを通り越して怖い。女慣れしてる証拠、なのかな……?
「(この下着が皇羽さんの手によって外されることが一生ありませんように……‼)」
結局――
皇羽さんが選んでくれた下着を全て買うことになった。だけど、値段の高さに私は尻込みしてしまう。
「や、やめてください皇羽さん! 一着でいいですから!」
「お前、一生洗わねー気かよ……」
ドン引きした目で、私を見る皇羽さん。
あぁ違う、そうじゃなくて!
「夜に洗濯すれば朝には乾いてます、って事です!」
「はいはい。じゃあこれ、全部ください。カードで」
「皇羽さん!」
レジの前でギャイギャイと抗議する私にしびれを切らしたのか。皇羽さんは私の頭に、ポンッと手を置いた。
そして――
「コレを脱がす俺の楽しみを、奪うんじゃねぇよ」
「……は?」
「俺が全部見たいんだよ。一着だけとか言うな」
「!!」
レジのスタッフさんも、近くにいたお客さんも――皆がみんな、目をハートにして皇羽さんを見ていた。「あんないい男に抱かれるなら本望……」とか聞こえてくるし……!
「~っ!
さ、先に、外に出ておきますから!」
私は恥ずかしくて、ダッシュで退店する。
残った皇羽さんとスタッフさんが、こんな会話をしているとも知らずに――
「いいですねぇ、愛されてますねぇ彼女さん」
「――でしょ? 可愛いアイツ見られるのは、俺の特権だからね」
「はぁ~いい男ですねぇ♡っていうか――あなた、どこかで……」
「! じゃあね」
ショッピングバッグを持って、急いでお店を後にする皇羽さん。
スタッフのお姉さんは、まだ思い出せないのか「ん~サングラスと帽子をとってくれたら分かるんだけど……」と身も蓋もないことを言っていたのだった。
一方。
先にお店を出た私は、お店から遠い所のベンチに座っていた。皇羽さんと一緒に行動していたら、色々と疲れる事に気づいたから……ちょっと休憩。
「にしても、人前であんな事を言うなんて……。皇羽さん、本当どうかしてる……!」
本人がいない事をいいことに、悪口をいいまくる私。大丈夫、きっとバチは当たらない。
「大体、下着のお店に入るのもアレだし! 勝手に選ぶのもアレだし! いや、全部私の好みだったけど、」
「ふーん、好みならいいじゃねーか」
「わ⁉」
後ろを振り向くと、立ったままの皇羽さんがいた。ビックリして、しばらく声が出ない。
「ここまで来れば俺に見つからないって思ったのか? 甘いな、萌々」
「そ、んなこと……ないです。っていうか、さっきの!」
すると、私の頬に温かい何かが当たる。見ると、カップに入ったホットドリンクだった。
「これ……」
「そこの店がうまそーだから買って来た。買い物で少し疲れたろ? 朝ごはんもまだだしな」
「(喉乾いてたから嬉しい……。じゃなくて!)」
全てタイミングよく先回りして行動してくれるの、反則だ。迂闊にも、少しだけときめいちゃったじゃん……!
「いいんですか? さっきの女性陣は。みんな皇羽さんにメロメロでしたよ?」
「関係ねーよ。俺はお前さえ……いや。何でもねぇ」
「ちょ、気になります。何ですか」
中途半端なところで言葉を切られると、すごく気になる……。
だけど皇羽さんは教えてくれる気がないのか「それより」と話をそらした。
「朝飯なににする?」
「話題変えるの、本当に下手ですね」
「……うるせぇよ」
私たちは、行きかう人々を見ながらドリンクを飲む。温かい温度に安心して、思わず皇羽さんを見た。すると、皇羽さんの口元に生クリームがついてるのを発見してしまう。
「意外に甘党なんですね。ついてますよ、ココ」
「寒いときは甘いもんに限るだろ。萌々、指かせ」
「指?」
私の返事も待たずに、皇羽さんは私の指を、生クリームがついている自身の口元に引っ張る。そして器用に私の指で生クリームを取った…
かと思えば、そのまま口の中に持って行く。
そして――パクリ。
私の指ごと、生クリームを舐め取った。
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