第25話 汚染病院、第四回攻略戦、開始――
宮坂は改めて沓名に汚染病院のことを説明し優輝も納得してくれた。妹を救う、その意思一つで。その執念とも言える一心も十年前と変わらない。
とはいえ異常存在や異常現象がひしめく汚染病院に行くなんて怖いに決まっている。気丈に振舞っていても誰だって死ぬのは怖い。それは彼だって例外ではない。
だから、自分がやるべきことはそう。
病院の正面、隊が一列に並ぶ中宮坂は背後にいる沓名に言った。
「大丈夫よ、君は私が守るから」
「え」
かつてしてくれた約束。彼は言ってくれた、こうしたことがまた起きたらその時も助けてくれると。その言葉は今も胸に刻まれている、大きな感謝と共に。
今度は、自分がする番だ。
「約束するわ」
振り返り彼を見る。十年ぶりの再会。本当は抱きしめたい。本当は涙を流してこれまでのことを語りたい。君に会える日をどれだけ待ちわびて危険な任務をこなしてきたのか。
そうした言葉は今は隠して、思いは瞳に宿して宮坂はそう言い切った。
その言葉、熱い思い。それは残念ながら沓名にはいまいちピンとこない。宮坂はさきほど会っただけの大人の女性。どうしてそこまで自分を気遣ってくれるのか、申し訳ないけど分からない。
だけど。
「はい。ありがとうございます」
その思いは届いてる。それが本心なんだと分かってる。こんないい人を出来れば守りたいなんて身の丈の合わないことを思うほどに。
優輝は、彼女のことが好きだった。
宮坂と優輝は頷き、その後ほかのメンバーに振り返る。
「突入!」
病院の正面入り口、自動扉が開き一階エントランスへと入っていく。みな銃器を構え広がり異常存在がいないか確認していく。
「クリア」「クリア」
「ここは変わらないわね」
無人の受付。総合病院というだけあって広い。休憩所の設けられたソファやテレビ、自販機の配置も変わらない。電灯の明かりこそあるものの静けさだけが鎮座している。
「油断しないでね、本番はここからよ」
宮坂が見つめる先、そこには暗がりの廊下が続いていた。光源は奥に見える非常口の光だけであり不気味な雰囲気はまるで誘っているようだ。
宮坂は暗視スコープを装着し仲間たちも暗視スコープをセットする。
「前進」
隊は一列の陣形で暗闇へと足を踏み出す。優輝も同じく前へと進み宮坂の背中を追っていき、緊張はするが気持ちまでは変わっていない。
(待ってろよ、愛羽)
妹を救うため、この悪夢へと挑んでいく。
第四回汚染病院攻略戦、開始――
宮坂たちは暗い廊下を進んでいく。しかし暗視スコープ越しに見る廊下は全体が緑かかっているもののよく見える。これなら不意の遭遇でも対処できそうだ。とはいえやつらは突然現れる、そこに関して油断はない。
静けさが一段と重苦しく、宮坂たちは集中して進んでいった。
そこで廊下を曲がるが、ここに変化が現れた。
「ん?」
宮坂の足が止まったことで全員も止まる。異常存在か? そう思ったが違うとすぐに分かる。
廊下が、赤く照らされていた。赤いライトが廊下を照らし上部は赤いが床の部分は暗い。暗視スコープを外し肉眼で確認する。
(なんだ、これは?)
記憶にない光景に混乱する。しかもそれだけではない。
「宮坂さん」
部下から呼ばれ振り返る。
すると廊下は全体が赤いライトの通路になっており今自分たちが曲がった角もなくなっていた。まるでワープしてきたように別の廊下になっている。
気づかなかった。自然と別空間に移されている。
『ふふふ』
「なんだ!?」
聞こえてきた声に銃を向ける。今、どこかで子供の笑い声がした。少女の声だ。だが姿はどこにもない。
『きゃはは』『わー』『きゃー』
時折子供たちが遊んでいる声が聞こえてくる。他にもダダダッと廊下を走る足音まで聞こえてきた。
「宮坂さん、これは」
部下からの質問に、宮坂は深刻に答える。
「変化している」
間違いなく、こんなものは十年前にはなかった。静寂の暗がりも十分不気味だがこれはなんだ。赤い蛍光色によって染められた廊下、時折聞こえる子供の笑い声と足音。精神汚染は現実性固定装置でなんとかなっているはずだがこれは単純に恐ろしい。
「十年前とは明らかに違う。警戒しろ、情報はもう当てにならない。前森、現在地は?」
「GPS一階エントランスから動いていません。高度も不明。現実測定値1・46です」
「高いな」
記憶も情報も当てにならない。宮坂が十年で経験を積んだように汚染病院もその姿を変えている。規模は膨れ異常はより禍々しくなっている。
これからは現場の判断で冷静に対処していかなくてはならないようだ。
「対象は地下にいる。当初の作戦通りそこを目指すぞ」
とはいえ愛羽がいる場所までは変わっていないはず。彼女はここの地下に収容されたと記録にあり今もそこにいるはずだ。
宮坂たちは廊下を進んでいく。もう通常時の地図もなにも頼りにならないため進みながら考える。
すると角を曲がった先、そこに異常存在が立っていた。針が刺さった看護婦だ。赤いライトに照らされた彼女たちは歯をカスタネットのように合わせ音を立てながら体を震わしている。看護婦たちは宮坂たちを見つけるなり首をぐるりと回してきた。
「ギャアアアァアア!」
「撃て!」
四体の異常存在が襲いかかってくるのを銃撃で返り討ちにする。胴体や胴部に撃ち込んでいき無力化していく。
「クリア」
四体の異常存在を倒す。廊下に倒れる看護婦の姿をした化け物を見下ろすが動きはない。後方では背後を堀口が警戒し異常存在2を考慮し天井にも銃口を向けている。
「沓名君、大丈夫?」
宮坂は優輝に振り返える。こんな状況で彼のメンタルが心配だ。
彼は若干上がった呼吸をなんとか落ち着かせていた。彼も必死に恐怖と戦っている。どれだけ覚悟を決め使命感があろうとも彼が普通の高校生であることには変わらない。パニックになっていないだけで本当にすごいことなのだ。
優輝は宮坂に振り返り頷く。言葉を発する余裕もない。だけど意思はまだ折れていないようで頷くその行動に彼の意思を受け取る。
「偉いわね」
宮坂たちはそれからも異常存在を排除しながら進んでいった。階段を見つけそこを下りていく。そこも赤いライトで照らされたフロアであり窓はない。治療室や診断室などの案内が廊下に並んでいる。
六人は慎重に進んでいく。なにが起きるか分からない。先頭を福田、その後ろを宮坂、その背後に優輝がおり背後を他の三人が固める。福田は前を確認し後ろの三人は時折背後に振り返ったり天井に銃口を向けながら一時たりとも油断していない。突如現れる異常存在がいる以上常にクリアリングに気を遣っていく。
そんな中優輝はふと廊下に貼ってある張り紙に気が付いた。そこには犬會病院の案内が貼ってある。
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