第二章 パパッチそこまでやる!? そして再びルミンサへ
第9話 パパッチ、まさかの決断の正体は!?
ラウンドエックスのテストセンターで初期同期テストを終えた俺は、タクシーで自宅へ帰って来た。
「なんか騒がしいな?」
ここは群馬県内の住宅街にたつ、ごく平凡な一戸建て住宅である。だが、世帯主長岡信雄の父は周辺の地主であるため、この家の敷地は周りと比べて大分広くとられている。敷地の隣にはちょいとした野菜が育てられる畑があり、その奥にたつ母屋は俺の父信雄の父、つまり祖父の長岡景太郎のものだ。
「あそこって、昔俺たちが受験勉強したり、パパッチたちの隠れ家的な場所じゃない。今度は何企んでんの?」
俺はただいまの挨拶もなしに家へ駆けこむと、リビングのソファーでくつろぐ父信雄に問いかけた。ちなみにパパッチは父のあだ名です。
「まあな―――、実はラウンドックスから連絡が来てな」
あそことは、長岡家の敷地内にあり、俺の祖父景太郎がかつて利用した農機具などが格納されていた倉庫であり、それを改装した建屋のことである。
「え! ラウンド、エ、エックスから?」
ばれてる、すでに仮病で、なおかつ架空のカウンセリングを受けに泊りで出かけて行ったという事実がばれてる……、ばれてる?
「ああ! 家電と俺の携帯にもな。なんか危急のご案内とか言ってきたんだよ」
「そ、そうなの……」
「春ちゃん、そんなに気負わなくていいのよ。お父さんには私から言い聞かせてあるから」
キッチンからかけてくる、上州名物かかあ天下の母
やはりばれていた。父も母もかつてはヘビーゲーマーである。聞くところによると隠れ家は再びゲーム専用の区画をもうけ改装中で、ラウンドエックスのテストセンターから超速達で届いた設備が運び込まれている最中のようだ。俺(春香)のテスト中に開発責任者の独断で、新型AIの極秘開発が決定したため、そのテストを続行してもらうための緊急措置であるという。
「春香、無料での提供を提案してきたんだぜ! 要望したら2セット快諾してくれた。すごいよな、それでつい、かつての血が騒いで、はっはっは!」
どうやら俺に流れているゲーマーとしてのこの血、DNAは、父信雄から受け継いでいるものだと強く確信した。あ!もしかして、母
「パパッチ、2セットって……、私の分も? それとも……」
「うん? 大好きな春香のために決まってるじゃあないか……」
すると、蛇口をひねる母楓は、手を休め半目で夫を横にらみしていた。
「信雄さん! 私の分だといって懇願してきませんでしたっけ?」
無料提供と言っても、それは基本的な機材のみである。それを据え付けるための部屋へは相応の設備が必要であり、相応の予算を必要とし長岡家の負担となる。
「いやあ、それは……」
どうやらパパッチの額には、冷や汗が噴き出しそうだ。
「せっかく春香とのコミュニケーションが取れる、いい機会かもしれませんからね。春香もお父さんに感謝しなさいよ」
しどろもどろの父信雄。だが夫信雄の魂胆はすべてお見通しである妻楓、特にそれ以上詮索するわけでもなく、夫を常に尻の下に置く采配は流石と言えよう。
「は~い―――、お父さんありがとう、大好き~―――」(棒読み)
恥ずかしい、なんか気まずい。俺は空気を読みすぎたのか、勢いで「お父さん大好き」とか言ってしまった。パパッチの様子が気になる。
「だ、い、好き。か―――」
ドクターズマガジンを顔の所まで持ち上げると、パパッチは何やら嗚咽にも似た気配を漂わせてきた。
「いや、あの……」
言葉を詰まらせた俺は、たまらず自室へ逃げ込むように階段を駆け上った。
◇◇◇
数日後の朝には、敷地内の喧騒がやんでいた。
どうやら機材の設置が終わったようである。
「春香、パパはまだ忙しくて触っていられないが、設置したデスクに仕様書と使い方解説が書かれたノートが置いてあるはずだ。緊急らしく手書きなんだがな、仕事が終わったらちょいとテストしてみてくれ」
「やったー! いよいよだね。気になってちょくちょく除いて、職人さんたちに
「姉貴、俺も触って良いかな?」
「別にいいけど、あんたFPS系ばっかりやってたじゃん、なのに興味あんの?」
「そっすね、だけど姉貴、覗いてみたらすげーじゃん。本格的なセンサー付きガジェットに、モーションキャプチャできる系の機材がたっぷりと、合体ロボのコクピットかよ! と思わせる設備が設置された個室が二つ、すげ~わ、まじすげ~!」
「ふっふっふ、景介よ、これぞ現代のエヴァかガ○ダム? ちがうな、SAOと言えよう! そして、サイバー世界へ、いざフルダイブ……」
「特にすげーのは、あのカッコいいメット、第五世代戦闘機にあるようにメット内には超高性能AIセンサーとヘッドマウントディスプレイ埋め込み済みとか書いてあった、これどうよ、姉貴」
「なんだ景介、おまえフライングでノート見たのかよ」
「へへへ、待ちきれないのは姉貴だけじゃないぜ」
俺はいくぶん弟の景介に怒りを覚えた、未開封のゲームパッケージを開けられた時の気分以上のものがふつふつと湧いて来た。
「いいか景介、俺が専用ブース(個室)を選ぶからな、お前はその残りで」
「残り言うな、仕様は同じなんだから。え!?……」
「ふっふっふ、いいかこれ以上のフライングは許さんからな。あとは分かるな……」
どうやら俺の放った眼光とオーラは、啓介へ確実に届いたらしい。
「わ、わかったよ姉貴」
景介は二つ下の弟、俺は昔弱いくせにイキって入ったレディースだったが、その時面倒に巻き込まれたこいつをよく助けてやったもんだ。それ以来俺には逆らえない存在になっている。はずだ……
「飯も食ったし、そろそろ仕事という戦場へ出かけるか」
戦場とか大袈裟かも。別にただの総合病院だけど、ある意味間違ってはいない。俺たち
◇◇◇
夕方、ブイブイと言わせた軽自動車が長岡家へ走り込んで来た。
別にヤンキー時代のように、マフラーとか改造していたわけではない。ただ、俺は心は自宅にありと、ついついアクセルを踏む足に力が入っただけなのだ。
「おかあさ~ん、夕飯はいらないわぁ」
「あら、どうしたの、そんなに慌てちゃって」
母楓はそう言うと、俺が下げ帰った買い物袋の大きさを見てピンと来たようだ。
「そんなのばっかり食べてると体に悪いわよ。学校で習ったでしょ!」
看護師の俺は勿論看護学校を、そこそこの成績で卒業している。言いたいことは十分わかっている。だが、親より受け継いだこのDNAは教科書通りにいう事を聞いてはくれないのだ。ごめんお母さん。
俺は仕事用のお出かけ荷物を自室に置き、手提げ袋を抱えてシャワー室へ向かい、おざなりに浴びた。そして、ゆさゆさと揺れる袋と共に例の隠れ家的建物へ向かった。むろん半乾きの髪のままである。ショートカットは便利なものだ。
「ええと、これどうなってるんだ。上手く装着できない」
弟の声だ、あれほど信じていたのに。
俺は個室のドアを勢いよく開けた。
「おまえ、ふざくんなあぁ~~~っ!」
「ひょえぇええ~~~っ、つい、でっ、できっ―――」
《ぼかっ、すかっ》
悲鳴と共に効果音が、隠れ家的建物の外へも轟いた。
つづく
◆◆◆
みな様ご覧いただき誠にありがとうございます。
今回よりいよいよ第二章へ突入したわけですが、弟景介は姉に従順な設定じゃあ面白くないですよね。前の小説内でもそんな感じだったはずだし、次話で景介の容態をどうするか悩み中です。
二つあるそれそれ八畳ほどある個室、専用のブースと言った方が良いかもしれません。これ程の設備を収容しないといけないので。元農家の祖父は広い土地を所有しアパートやテナントを所有する感じ。そして二代目が医師の父という設定にたどり着きました。
よろしかったら、ハート・コメント、お星さまなど頂けましたら幸いです。
夏目吉春
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