第8話 ロリっ子リリサの聞きたいお話とは?

  【サータシャ浸食洞】のラスボス戦で【白銀のナインテイル】となったロリっ子リリサは、見事フージョン合体した船長らを撃破した。リリサをお姫様抱っこした俺は脱出ゲートへ向かうが、途中クリア報酬である宝箱が輝いている。


「おい春樹! こいつはどうするんだ」


 超長身うさ耳メスのヒヨが、その宝箱を指さしている。


「いらんだろ! リリサにとってはかなり格下の装備のようだし、おれはヒヨに貰ったからな」


「春樹さまの見立ての通り、ご主人様のお召しになっている装備は、僕によりダンジョンのレベルに合わせてフレキシブルに対応する仕組みになっておりますが…‥」


 リリサの魔ペットルルも、放置に同意のように見えるのだが。


「ルル、なんか不満そうにも聞こえるが、どうなんだ?」


 俺がそう尋ねてもルルは、苦笑いのまま固まっている。何か物欲しそうにしている様子がひしひしと伝わってくる。


「ルルさん分かりました、この私ヒヨが宝箱の開錠を承ります」


 空気を読むスキルは抜群である。流石はわが友、颯爽と宝箱に手をかけた、とたん!?


《び~~~よよよ、よぉ~~~~んn!?》


 お決まりだ! お決まりのコミカルな効果音と共に、先ほどのお頭の頭を模したバネ仕掛けのギミックが飛び出した。


「報酬って!? こ、これかよ……」


 ヒヨの驚愕と失望に満ちた言葉に続いて、辺りの景色がゆがんだ。とたん、このダンジョンに入って来たのと同じように辺りがぐるぐると回転する。そして、もとのルミンサ兵隊さんのいるダンジョン入口へと弾き出された。


   ◇◇◇


「あっぶね! ルル、今までにないトンだダンジョンだったが、中々だったぜ」


 俺はよろめいてロリっ子リリサを落としそうになるのを、やっとの思いでこらえた。すると。


「春ちゃん……」


「リリ子、気が付いたか。頑張ったな」


 俺なりに精いっぱいの労りの声をかけて、リリサを下ろそうと試みた。


「聞きたいことがあるの―――」


 しかし、ロリっ子が小さな手で必死にしがみつきながら、耳元でささやいてきた。


「そうだったな、聞きたいことがあるって始めは、俺にテルしてきたんだもんな」


「あのね……」


 俺はその言葉に、ロリっ子リリサが必死に言葉を探しているように思えた。そして、抱きかかえる腕をぐっと引き寄せた。


「なんだい?」


「それはね―――、ずっと探しているの―――」


 リリサは探しているというが、いったい何を探しているのだろうか!?

 俺には全く想像がつかない、だが、俺に何かしらの手掛かりを求めているのだろう。彼女は続けた。


「春ちゃんは―――、まだテストセンター内でこのゲームをプレイ中だよね?」


「そうだけど、ってか、お前もだよなリリ子」


「うん、でも、もうそろそろログアウトしないといけない時間、だよね……」


「確かにな、それで聞きたい事ってなんだ」


「初期同期テストを受けていたってことは、この【FirstFantasy14】の選ばれし者ってことですよね」


「ま、そうだけど……」


 俺の返事にリリサは疑問を感じているようだ。


「それで、私の名前に見覚えない? わよね、その様子だと……」


「すまん、このキャラは確かに10年に一度のクソゲーと呼ばれていた頃からのものだけど、実は元の所有は父なんだ。規約違反かもな……」


「そう、どうりでね……」


 俺の父もこのゲームの信者ともいえるヘビーゲーマーで、クソゲーから神ゲーにいたる物語を体験していた。そう、今は仕事に追われてそれどころでは無くなっているが、課金だけは3アカウント分きっちり続けている。ねっからの信者だ!


「別にいいじゃない、未成年の子供に携帯電話を与える時、親の名前でしょ? たいがいが」


「それもそうだな、俺の場合、親がやっているところを興味深く覗いていたら、満面の笑みで『お前もやってみるか?』そういって、ゲームに必要な高スペックのPCと一緒にこのアカウントをプレゼントされたわけだ」


「よっぽど嬉しかったのね、分かるわその感じ……」


「わかるかあ―――。でも、うるさかったんだよなあ、ゲームに対してあれやこれやと」


 確かにうるさかったが楽しかった。

 いまでもそんな感じの親子関係だが、親からの一方通行で私はそれをかるくあしらっている。少し可哀そうに思えなくはないけど、年と共に幼子のように手放しではいられなくなり今に至る。大好きなんだけどね……


「リリ子、お前の場合はどうなんだよ?」


「そうね、春ちゃんと同じく、アタイも親のアカウントなの」


「そうか、なんか同郷のお友達感があるな。で、なんでリリ子がテスト受けてたんだ?」


「それはね、親が死んじゃったの……」


「そか、なんか触れちゃったな……、ごめんよ」


 「おい何時まで恋人ごっこやってんだよ! クリアしたんだから俺はいくぜ、まだ今日のマッチングを済ませてないんだ。じゃあな」


「ヒヨすまんな、とんだことに巻き込んじまって、またな~」


「おh!」


 呪文と共に超長身うさ耳メスの彼は消えていった。


   ◇◇◇


 ロリっ子リリサを下ろすと、二人+マペット二体は同じように魔法が唱えられ、ルミンサへ飛ばされて来た。船はもういらない、一度行った所は魔法のメニューに載っているからである。


「リリ子、そろそろお開きだな。聞きたいことはもういいのか?」


「いえ、あの……。実は亡くなった親の、昔の想い人を探しているの」


「そ、そうか。なんか重い話みたいだな。で、俺と何か関係ありそうか?」


「分からない、でも小さい頃、親がプレイ中の隣へちょこんと座り、春ちゃんの名をモニター越しに見てた記憶だけがあるの」


「そうか、それで声をかけてきたんだな。ごめん、役に立ちそうにないわ」


「この後リアルで会える?」


「いや、ごめんよ、それはダメだ。俺はロールプレイを楽しみたいんだ」


「そ、そうなの、でも……」


 ロリっ子リリサは、今にも崩れ落ちそうだ。

 ごめんよ、ほんとゴメン。俺、本当はヤンキーっぽいリアル女子なんだ。

 だから、気兼ねなく自分が出せる男子キャラを選んだ。


「またこの世界へ来れば会えるじゃないか、それじゃあダメかい?」


「そうね。そうしましょう……」


「おk、じゃあまたな!」

 

 そう言うと俺たちは、それぞれログアウトしていった。


   ◇◇◇


《ぷっ、しゅぅ~~~~っ》


 空気の抜けるような音と共に、俺の体に装着したガジェットが緩められた。

 ここはラウンドエックスの研究センター内にある特設ブース。

 その個室内で、俺はそれらを脱ぎ捨てると、アナが声をかけてきた。


「春ちゃんおつかれ様、最後は結果楽しかったですね。アナが活躍できなかったのは残念ですけど、ルルの性能は大したものです。なんだか焼けちゃうわ!」


「おh! すごかったな。リリサちゃんには悪いけど、offではな」


「仕方ありませんよ、当社としてもテスト後にテスター間で問題が起こりましても困りますからね。プライバシーはお守りします」


 リリサのぐいぐいと見つめてきた瞳に後ろ髪をひかれる思いだが、アナからの要請でラウンドエックスが用意してくれたタクシーで、裏口から俺は自宅へと向かった。


「また会えるのかな、アナとリリ子」


 つづく


   ◇◇◇


 本話以降から新章突入な感じなんだけど、リリサはともかく極秘裏に開発中の【AIコンテンツクリエーター】はどうしよう。センター内の特殊環境下で実現された魔ペットだからな。


 あれこれ悩み構想を練ろうと思います。それにともない一日一話はちょっと苦しくなるかも。


 皆様のあたたかいハートとコメント、お星さまを戴けると元気○のようになってアイデアが膨らむかもしれません。よろしくお願いいたします。

                              夏目吉春


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