第7話 ルルたん最後のクリエイト、これを飲めば最強!
【サータシャ浸食洞】のラスボスエリアまでやって来た俺たちは、フージョン合体を遂げて巨大化したモンスターと対峙していた。
「まってリリたん!」
ロリっ子リリサの魔ペットルルが、突撃を慣行する彼女に無詠唱でストップをかけた。※無詠唱(魔法の詠唱時間がゼロ秒の事)
両手を構えた攻撃態勢のリリサは、体が半ば中に浮いた状態で固まると、首だけをこちらへ向け振り返った。
「にゃによルル! ここが見せ場なのにぃ~っ!」
確かに見せ場と言えばそうと言えなくもない、ただし独りよがりである。
「ご主人様、この敵は【こてんパンチ】では倒せませんよ!」
「やって見なきゃ、わかんないにゃぁ~!」
「ではどうぞ!」
とたんにルルの呪文の解けると、宙に浮いていたままだったロリっ子リリサは、固まったままのポーズで見事墜落し、勢いあまってすっ転んでしまった。
「ぎゃっはっはっは! 見事な攻撃だな、腹いて~~っ!」
お頭とフージョン合体して巨大化した半魚人の船長は、かなり上から目線で爆笑してきた。
「おにょれ~ お前なんかお前なんか、ゆるすまじぃ~~~っ!」
ロリっ子リリサは、両手を体の前で交互にぐるぐると回転しながら呪文を唱え始めた。
「お~らおらおら、おらら~おらら~(×16回)―――」
リリサの現行レベルが16であるなら、16回の詠唱が最大威力を発揮すると、ルルが解説していたのを思い出した。この詠唱を待つ敵ボスも、なんと呑気なものである。
「あ~くしろよ、それ終わったら俺らの番だからな」
敵のご丁寧な対応には頭が下がる思いだ。
俺と超長身うさ耳メスのヒヨは口をあんぐり開けたまま、事の成り行きを見守るほかなかった。
すると……
(お~らおらおらで3+おらら~2×2で4)合計7×16=112発もの拳の幻影がフージョン合体した船長らを目がけて飛んでいった。見事な数である。
どどどどどどど~~~~ん―――、112回の衝撃音
続けて、ばばばばばばばばば~~~~ん―――、112回跳ね返す音
「きかぬ、俺にこんな技は効かぬと言ったはずだ」
フージョン合体した船長らは、ゴム風船のように膨らんだ弾力のある体で、見事ロリっ子リリサの【こてんパンチ】の術を打ち破ったのである。だが、効かぬとは一度も言ってなかったし、聞いてもいなかった。
「ほぉお~~~ら、僕の言ったとおりでしょ!」
リリサの魔ペットルルは、ピノキオのように鼻を高らかにのばし、上向き加減で目をつむり腕を組んでご満悦そうだ。
「ルルたん、アタイのピンチなんだから、何とかしなさいよ」
「させるかぁあ~~~っ!」
フージョン船長は、手の指の間にある水かきを最大限に広げ、指先を内側に向けると爪の威力が最大限になる角度でたたきつけてきた。
リリサが油断している隙をついた攻撃だが、ルルはかっと目を広げると冷静にその瞬間をとらえた。すかさず無詠唱の【プリング】が発動すると、一瞬で術者ルルの前にリリサが引き寄せられて来た。
「ルルたんありがと、助かったにゃ」
「僕は決断しました。ご主人様、どうぞこの【またたび丸】をお飲みください」
差し出されたアイテムは、とても丸薬という種類の大きさではない。しいて言うなら【おむすび】だ。ロリっ子リリサは、それをほおばった。
「むしゃむしゃ、なんか武者震いがしてきたにゃ!」
これら一連の出来事に、俺とうさ耳のヒヨはいまだ固まったままだ。
「よくもかわしやがったな、俺たちの番だと言ったのが聞こえなかったのか。なめんなよ~!」
フージョン合体船長らは、かんかんだ。だが、なめてない、決してなめてはいない。ただ【またたび丸】を食っているだけだ。
「ルルたん、これあんま美味しくないにゃ」
「しかたないです。『良薬は口にまずし』って言いますからね」
ルル、そこ違ってるぞ『口に苦し』が正解だ。
「おら~っ! 一気に揉みつぶしてやるぜぇ~~~~っ!」
「せんちょさん、ちょっと待っててくれると嬉しいにゃ、だってアタイの番でしょ」
いつからリアルタイム・アクションゲーから、ターン制のRPGになったのだろう。
「そうだっけ、すまん、ちょっと頭に血がのぼってだな―――」
なんと律儀なラスボスである事か、すっかりロリっ子リリサのペースに引きずり込まれている。他愛もない会話の最中、リリサの体が萌えてきた。
「ふぅ~~わぁ~~~、あっああぁ~~! ―――」
まばゆい光、しかし、ふんわりとした優しい輝きのオーラがロリっ子リリサを包んだ。
「なんだよ、お嬢ちゃんの攻撃って前置きがなげーんだよな。調子狂うぜ」
やがてリリサを包んでいたオーラは膨張し、はち切れて霧散していった。
すると、いよいよ【またたび丸】の効果が発揮される時がやって来た。
「なんか、騒ぐにゃ、アタイの体の中で、な、なにこれ……」
そこには、九本の尻尾をなびかせた、真っ白は女狐が姿を現した。
「なんだって~! あれってもしかして【タマオ御前】様じゃね?」
「たっ、確かにな! だが、もっと、そう、底知れぬ何かがつたわって来るぜ」
このロリっ子リリサの変身に、俺とうさ耳ヒヨの開けたままだった口からでた言葉には、その姿の凛々しさ、神々しさがあふれている!?
「おっ! やっと準備が出来たようだな、さっさとかかってこいや」
フージョン合体船長のセリフには、結構ラスボスらしい掛け合いを感じた。
「じゃあ、えんりょなく、い~く~にゃぁ~~~っ!」
妖狐【白銀のナインテイル】となったリリサは、九本の尻尾をちぎっては投げちぎっては投げを繰り返した。彼女によって放たれた、スーパーAI実装済みのテイルドローンは、執拗にフージョン合体船長らに攻撃を仕掛け、次第を追い詰めていった。
言っとくけど『またたびなのになんで狐?』ってのは言いっこなしなのぜ。
「ぐお~~~っ、しつこいやっちゃな。俺らの番はまだか」
「ラスボスちゃん、もう待たなくていいにゃ。どんどん来ちゃって!」
だが、テイルドローンの攻撃は、フージョン合体船長に攻撃の猶予を与えなかった。ずるい、ずる過ぎる。眺めているとテイルドローンの一機が動きを止め、パッと光ったかと思うと、尻尾の先からキラリと輝きを放ってきた。
次の瞬間、まるで伝説の強槍グングンニルに似た切っ先となり、フージョン合体船長に突き刺さった。
《ぷっ、しゅぅ~~~ううぅ~~つ》
聞こえた通りである。合体で膨らんだ巨体から勢いよく空気が噴き出して、急速にしぼんでいった音である。
「ぐっ、ぐるじい~―――」
しぼんだ船長の口から、たまらずお頭がはい出してきた。
「はあっ、はぁっ、お、おい、転進するぞ!」
「あ、アイアイサ~」
お頭が船長の号令に水兵らしい返礼をすると、二人は埠頭から飛び込み大海原へと逃げ去った。
「春ちゃん、どうやらアタイやっつけちゃったみたい」
しかしリリサは、最後に
「ご主人様、ちゃんと尻尾は回収しないといけませんよ」
俺とうさ耳ヒヨは、散らばって着地しているテイルドローンの回収を手伝った。どうやら【またたび丸】には一定の縛りがあるらしい。
「そうなの? ルル、だけど、なんか力が抜けていくにゃ……」
言葉と同時に【白銀のナインテイル】となっていたリリサの体は、再び柔らかく光るオーラが萌え上がると、ゆっくり霧散して元の姿に戻っていって地に伏した。
俺は倒れたリリサをお姫様抱っこして、脱出ゲートへと向かった。
まったく活躍できなかったけど、こういうダンジョンもいいもんだなあ…‥
つづく
◇◇◇
もとになったFF14では、仕掛けの凝った戦いになるのが通常ですが、AIがクリエイトするとどうなるか、結構工夫してみました。結果、ギャグ進行が好きなのでこうなっちゃったわけです。
御覧の皆様からの、コメント・ハートならびにお星さまなど賜りますと物語が加速する、ぜったい。よろしくお願いいたします。
夏目吉春
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