第23話



 暫く毛触りを堪能している姿を見ていると、まだ写真を撮らないことに気付く。


 確かカメラは紀子さんに渡していて、周りを探すと、アルパカの方で春良と壱晟と一緒に話してる姿を見つけた。


 そんな様子に俺は邪魔をしないよう鞄から携帯を取り出すと、カメラ機能にして構える前にパシャッと写真を撮る音が聞こえて振り向いた。



 ──なんだ?



 _パシャッ!


 _パシャパシャパシャパシャパシャ。



 ……コイツ等!!



 _パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。



「パシャパシャうるせぇ! 何撮ってやがる!!」



 後ろにいたのは黒薔薇の二人だ。


 背の低い男と高い男の二人が携帯を使って真依と瑠輝を撮影していた。



「そんなもん天使を撮ってるに決まってるだろ?」



 ……あ? 天使??



「可愛い…!

 動物も良いけど、二人ともめっちゃ可愛い!」



 ──…………。



 _パシャリ。



「『アホ面と天使とうさぎ』」


「あ。じゃぁ、


 _パシャ


『邪魔者と幸せそうな二人と二匹』」



 こッ……、コイツ等は放って置けば好き勝手しやがって!!



 俺は立ち上がると戯れ合う振りして背の高い方の男の肩にパンチを食らわした。


 男の身体は予想以上に硬く、手に反動がくる。



 ──ッ!!


 コイツ、以外としっかりしてんな。



「ハッ!

 総長って聞いて覚悟したが、そうでもねぇな!」


「だっさぁー!」



 馬鹿にする言葉に俺はイラッとして黙っていると、一部始終を見てたのか凜人もやって来て言い放った。



「ちょっとぉー。なにしょぼいことしてんのー?」


「…………」



 俺は真依と瑠輝の頭を撫でて笑みを浮かべて言った。



「真依、瑠輝、後ろを見てみろ」


「「後ろ……?」」



 俺が指を指すと、不思議そうに後ろを振り向いた真依と瑠輝。


 その瞬間を狙って、俺は道弘を相手にするつもりで今度は腹を狙ってパンチを食らわした。



「ゔっ…!!」



 苦しそうな声をともに、大きな体躯が沈み、その場にうずくまる。


 それを見ていた小さい男にもしようとしたが、瑠輝の「お兄ちゃん」と呼ぶ声に俺は拳を振り上げてデコパンチに変更した。


 それでも力が強かったのか、バチンッと大きな音を立った。


 小さい男は頭を抱えてその場にうずくまる。



「うわぁ。容赦なくいったねー」



 見ていた凜人が感心しながら呟くのを俺は笑みを浮かべて首を傾げた。



「あとでお前も覚えてろよ? 凜人」


「……す、スミマセンデシタ」



 本気で怒っているのを感じ取ったのか凜人が素直に謝って来た。


 俺は「許さねぇ」と言って、真依と瑠輝の元にしゃがみ込む。



「なにもないよー?」


「さっき二人の後ろをうさぎが通り過ぎたぞ」


「ほんと!?」



 不思議そうな真依を適当にはぐらかすと、瑠輝は泣きそうな顔で首を傾げた。



「けんかしてるの?」



 そう聞かれて暴行を瑠輝に見られてしまったことに気付いた。

 


「してないよ。びっくりしちゃったか?」


「うん」


「ごめんな。少し遊んでただけだからな」



 瑠輝の頭を撫でて落ち着かせると、立ち上がらせてひよこがいる方へと向かわせた。


 それから振り返ると、俺は後ろで繰り広げられていた状況に首を傾げることになった。



 これはどうなってんだ?


 違う族なのに、紫苑と道弘が慰め合ってやがる。



 目の前には、紫苑が凜人の肩に手を置き慰めてる様子と、道弘が黒薔薇の二人を心配している様子だった。



「大丈夫だ。俺も説得するから」


「しお~ッ!」


「満里、遥輝、大丈夫か?」


「予想以上だぜ……」


「痛いよぉー!」



 あぁ、満里と遥輝って言うのか。……ふぅん。


 名前覚えたし、放っておこ。


 えっと、真依と瑠輝はっと───。



 俺はサラッと無視をして二人がいる所に向かった。


 その後もひよこやアルパカにも触れると、ふれあい広場を出て次の動物に会いに行った。


 着いた先にいたのはカバで、幼い頃に一度だけ見て以来の俺も身体の大きさには少し驚いていた。



 カバってこんな感じだったのか。以外と大きんだなぁ。



「カバすごーい!」


「おくち大きいよ!」


「そうだな。_お、瑠輝。あっちにゾウさんいるぞ」


「ゾウさん!!」


「カバさんにバイバイしとくか」


「「バイバイ!」」



 手を振ると今にでゾウさんの下へ行きたがっている真依と瑠輝を下ろした。


 地面に足がつくと、勢いよくゾウのもとへと走って行く。



 ほんと、興味ある所には脇目も振らずに行くよな。



「兄さん、そろそろ変わろうか?」



 後ろ姿を見ていると後ろから声をかけられて、振り返ると春良と壱晟が立っていた。



「まだ大丈夫だ」


「そ?」


「いつでも言って下さい!」


「あぁ。ありがとうな、壱晟」



 仲良いな。入場してからずっと二人で回ってたのか。



 そんなことを思っていると、前の方から真依と瑠輝の呼ぶ声が聞こえて俺は駆け足で近寄った。


 二人を抱き上げると、一匹のゾウがゆっくりとこっちに向かって歩き出し、俺たちの正面にくるとしばらく見つめて来た。



 

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