第22話



 今度はキツネがいるらしい檻の前で立ち止まり、思ったことを言ってくる真依と瑠輝に頷きながら俺はキツネを見ていた。


 すると後ろから紀子さんの声が聞こえて振り向く。



「ふふっ。楽しそうで良かった」


「「あっ、おかぁさん!!」」



 真依と瑠輝も紀子さんに気づき手を伸ばすと、紀子さんは二人の手をぎゅと握った。



「瑠輝は初めてだからな」


「真依も初めてなのよ。だからつれて来れて良かったわ」



 そう言って既にキツネの方へと視線を向けていた瑠輝と真依を見守る紀子さんに、俺は何となく紀子さんも初めてかもしれないと、そんなことを思った。



 親父から苦労してたって聞いてるしな。



「……つれて来れて俺も良かったのかもな」



 ボソリと呟いた言葉は、夢中で見ていた三人の耳には届かなかったようで、俺は瞳を輝かせている横を見て笑いながら「次行くぞ」と言った。



 親父にこんな顔してたって言ったら羨ましがるだろうな。


 あとで写真撮って送ってみよ。



 先を歩くと左側に猿山が見えて来て、毛づくろいをしている親子やじゃれ合う子供たちが走り回っていた。



「おサルさんかわいいー!」


「お兄ちゃん、ちっちゃいのがケンカしてるよ!」


「そうだな、ケンカしてるな。ケンカはダメだよって言ってあげなきゃな」



 すると瑠輝は「うん!」と頷くと、大きな声で俺の言葉を繰り返した。



「ケンカはだめなんだよー!」



 そんな瑠輝の言葉に真依も「ダメだよー!」と続けて叫び、二人はクスクスと笑った。


 突然の叫び声にびっくりしたのか数匹の猿たちが一斉にこっちを向く。


 びっくりしたのは猿たちだけでもなく、周りにいた他のお客さんたちもこっちを向いてクスクスと笑いだした。



 ──なんか、恥ずかしいな。


 そのつもりじゃなかったが、今のはそうなるよな。まさか瑠輝が叫ぶとは思わなかったわ。



「ちょっと秋良。子供に何言わせてんの?」



 聞き慣れた声が聞こえて後ろを振り返ると、凜人と道弘が後ろに立っていた。


 凜人の責める言葉に「言葉のあやだ」と俺は言い訳をする。


 けれどそんなことはどうでも良かったのか、凜人と道弘は真依と瑠輝の隣りまでやって来て話しをしだした。



「真依ちゃんの声は可愛いからあまりお猿さんたちに聞かせちゃダメだよ」


「はーい!」


「瑠輝もな。カッコイイ声だったぞ」


「わーい!」


「話し聞けよ……」


「「なんで?」」



 コイツ等……!!


 真依と瑠輝のことを見てくれるのは助かるが、俺よりも好感を持たれるのは許せねぇ。



「次行こうか、真依、瑠輝」


「「うん!」」



 先を促して俺は凜人と道弘から距離を取った。


 その後を案の定「ちょっと、秋良ばっかりずるいよ!」と凜人と道弘が追いかけてくる。


 次に見えて来たのは後ろにいたペンギンだった。


 ついて来た凜人たちも横に来ると、いつの間にか合流して仲良くなったのか、黒薔薇の三人も続けてやって来て一緒に見ていた。



 なんで紫苑たちがいんだよ!?


 つーか、凜人も道弘も心許した感じなのか?


 こうなると、この先も関わることになるなら、あとで凜人からは詳しく聞いておくか。



「「…………」」



 ふと黙り込んでいた真依と瑠輝に俺は不思議になって顔色を伺うと、口を開けて泳ぐペンギンたちをじっと見つめていた。



 見惚れてんのか。こうやってのんびり見てるだけの時間もなんか良いな。



 それからどのくらい経ったのか、今までよりも長く見ていた俺たちに、春良と壱晟が「次行くよ」と声を掛けてくるまで動かなかった。



「次行くか?」


「うん!」


「つぎなぁに?」


「なんだろうな」



 そう言って二人を両手に抱き直しがら歩き出し、ブラックバックの群れを見つけた。



「小さいシカさんいる!」


「ちぃさい!」



 指をさしながら声を上げる真依と瑠輝に俺は「そうだな。」と頷くと、足元の横の方に生態について記載している看板があることに気づき読んで見た。


 そこ載っていた分類に俺は少し驚く。



「──へぇ。どうやら鹿じゃなくて、ウシ科みたいだな。ウシさんの仲間だ」


「「──!?!?」」



 ──ブフッ!


 驚き様がスゴイな。流石、オーバーリアクションの天才児だわ。



 それから唖然としながら見ている真依と瑠輝に一匹が近くまでやって来た。



「「かわいい」」


「かわいいな」



 存分に眺めたあと、バイバイと手を振って次の動物の所へと向かう。



「「──うわぁぁぁ!!」」



 道に沿って歩いて着いた先、目的の場所について早々、真依と瑠輝は感嘆の声を上げた。


 やって来たのは小動物のうさぎやモルモット、ひよこが迎えてくれる“ふれあい広場”だ。


 中にはアルパカやカピバラなんかの大きな動物もいて、横ではポニーに乗れる体験もやってたりしている。


 きっと小さい子供にとっては楽園のような所だろう。



「真依、瑠輝、手を消毒するぞ」


「「はーい!」」



 二人をおろして備え付けられていたアルコールを手に吹き出すと、自分の手にも消毒をして囲いの中へと入って行った。



「お兄ちゃん! うさぎさん、フワフワ!」


「えいっ! あぁっ、うさぎさんまって!」


「瑠輝、そこ座ってろ。──ほら」


「……フサフサァ!!」



 簡易ベンチに二人を座わらせると近くにいたうさぎたちを捕まえて、真依と瑠輝の膝に乗せる。



 

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