第24話



 見ていた動物が、逆に見つめて来た状況に驚いたのか、真依も瑠輝も息を潜める。



「「…………」」



 ゾウは耳をパタパタさせながらしばらく俺達を凝視し、少しするとプイッとそっぽを向くように横を向いて歩き出した。



「す、すごーい! お兄ちゃんゾウこっち見てた!」


「そうだな。びっくりしたなー」



 真依が興奮して思ったことを言ってくる横で、瑠輝は何も言わずに俺とゾウを見ては指をさした。


 その目はキラキラしていて、興奮しているのが表情で分かる。


 さっきのは感極まって言葉を失くしてた──、って感じか?



「すごかったな、瑠輝」


「す、……すごい! カッコイイ!」



 両手をギュッと胸の前で握りしめる瑠輝。



 真依も楽しそうだし、本当に動物園に連れて来て良かったな。



「お兄ちゃん。あっち、ゾウさんのあし ちゃいろ!」


「ほんとだー!」



 瑠輝が指さした方を見るともう一匹のゾウがいて、足が膝の高さまで泥で汚れて茶色くなっていた。



「あぁ、めちゃくちゃ汚れてるな。あとでキレイにしてくれたら良いな」


「うん!」


「そろそろ行くか?」


「やだー! もう少し!」


「だめぇー!」



 後ろを向こうとすると抵抗しているつもりなのか、服を掴んで首を振る真依と瑠輝に、苦笑いを浮かべて正面を向き直った。



「もう少しだけな」



 ──と言っても、長時間いることになりそうだからな。


 地図に書かれた次の動物を思い出そうとするとここまでで記憶は終わっていて、思い出せなかった。


 けれど、春良が近くにいることに気づいて、弟を呼ぶと手に持っていた地図を見せてくれた。



「次はヒクイドリがいて、その後にホワイトタイガーとライオンだね」



 春良の言葉はゾウを見ていた真依と瑠輝の耳にも届いたみたいで、声を上げて振り向いた。



「ライオン!?」


「ほ、ホワトタイガー!?」


「見たい?」


「「みたい!」」



 大きく頷いた真依と瑠輝に春良と壱晟が微笑んだ。


 そして手を伸ばしてそれぞれ二人を抱き上げる。


 春良と壱晟の後ろを歩くといつの間に追い越していたのか、ヒクイドリの檻の前に凜人たちがいて、ふざけ合いながら携帯で写真を撮っていた。



 アイツ等、仲良くなんの早過ぎだろ。


 抗争にならなくて良かったとは思うが、この先どうするか……。


 二人だけ仲良くても、『黒薔薇』と何らかの繋がりは持っておかねぇと、下の奴等が混乱するよな……。


 つーか紫苑は何をしに来たんだ?


 総長同士でつもる話しって先の話しのことだったのか?


 その辺も、ちゃんと後で話さなきゃな。



 凜人たちの横を真依と瑠輝が手を振って通ると、遥輝と満里がその集団から離れて近寄った。


 小さな手をとって何かを話すと、凸凹コンビは笑って「小さーい!」「可愛いー!」とはしゃいでいる。


 今のところ三人に害はないく、至って(──と言うにはぐいぐい絡んで来るが……)普通に真依と瑠輝を可愛いがっているから、これ以上警戒心を抱き続けるのはやめても良いかもしれない。


 結局凜人たちも合流し、みんなで集まって目的地まで歩くと、低い鳴き声が聞こえて来た。



「ガォォー!_ヴゥゥ…」



 お。ライオンの声か、レアなもん聴けたな。



「「──!?」」



 突然の声に驚いたのか、真依と瑠輝が周りきょろきょろと見ていた。


 そんな様子にみんなが笑って話しが盛り上がる。



「──あ。真依、瑠輝、ほら見えて来たよ」


「念願の初対面ッスね」



 春良が指をさして真依と瑠輝に話しかけると、ホワイトタイガーが先に見えて来た。



「「わぁぁぁ!!」」



 感動した声を上げる、真依と瑠輝に俺はカメラを構えた。目をキラキラさせて見ている二人に俺は口角が上がる。



 子どもって表情豊かだよな。和むわ。



 ホワイトタイガーは檻の中に2匹いるらしく、それぞれ離れた所でのんびりと過ごしていた。


 のそのそ歩くトラや、くたばったように腹を出して眠るトラと、見ていればそれはネコの仕草と同じで、その顔付きはカッコイイのに愛らしく不思議な感情が芽生えたのを感じていた。


 すると、奥でぐったりと寝ていたトラがのそりと前足から立ち上がった。



 ──お、起きたか?



「お兄ちゃん!のびーってしてるよ!」


「そうだな」



 起き上がったトラは、前足を伸ばして身体を伸ばし、何度か足をフミフミと動かして、向きを変えながら同じ所へと寝転んだ。



「あー!またねたー!」



 まぁ、ネコ科だもんな。良く寝るよな。



「わぁ!?きたー!」


「あ、一匹来たッスね」


「迫力あるなぁ」



 瑠輝の言葉に反応して向くと歩き回っていた一匹が近寄って来て、目の前を通って行った。


 襲われるとでも思ったのか、瑠輝が身じろぎをして春良に抱きつく。



「怖くないよ」


「襲われたら俺が身代わりになるッス!」



 笑って言ってるけど、壱晟なら有言実行しそうだな……。


 あのトラ、外周してんのか。ずっと動き回ってんな。



 しばらく見た後、奥にいるライオンを見に行くと、


 一番楽しみにしていた真依は、ライオンを見てピタリと動きを止めた。



「………!?」



 俺とライオンを交互に何度も見てくる。



「どうした?」




 

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