第14話



 瑠輝はフリスビーを受けとると、両手で持って前に投げた。



「やぁっ!」



 フリスビーは足下にぽてんっと落ちる。



「………………」



 飛べてないフリスビーに、流石に3歳には早かったかと思い至る。けれど、真依と瑠輝は楽しそうにしていて、ひたすら拾って投げてを繰り返して遊んでいた。


 しかも、投げ方を教えようとしてるのか、真依は腰を捻って投げるフリをする。


 それを見た瑠輝も身体を捻じ曲げながら投げると、最初より少し離れた所へとフリスビーが落ちた。


 それを見て、俺は呆然とする。



 真依の教え方、すげぇな……。



「るき、じょーず!」


「えへっ!」



 褒めてやる真依と、褒められて喜んでいる瑠輝の和やかな雰囲気に、俺はだんだん羨ましさを覚えて大きな声で話しかけた。



「こっちくれー!」



 近くまで歩いて行き数メートルまで距離を縮めると、瑠輝が慎重にフリスビーを構えて溜め込んでから投げた。それが腹に当たり変な声が出た。



「う"ぉ!?」


「あはは! おにぃちゃんへんな声ー!」



 まさかの勢いに吃驚して、自分でも訳のわからない声が咄嗟に出た。


 腹に食らったことでその場に膝から崩折れると、真依と瑠輝は面白そうにお腹に手を添えて笑っていた。


 ──とは言え、成長したことは喜ばしく。



「瑠輝上手くなったなぁ……!」



 と瑠輝を褒めると、両手でVサインをして「にー!」と歯を見せる。



「じゃぁ今度はキャッチしろよー!」


「はーい!」


「はーい!」



 俺はさっきよりも軽く投げると、フワリと浮かんで真依の方に流れて行った。


 吸い込まれるようにやって来たフリスビーを真依としっかりとキャッチする。


 今度は上手く投げれたことに、内心でガッポーズをしていると、キャッチ出来た真依と瑠輝も有頂天になってはしゃいでいた。



「できたー!」


「よぉし。今度は俺が真依のを受け止めとるからな!」


「うん!」



 真依が投げたフリスビーは大きく飛んで、斜めに反って行くのを慌てて伸ばした右手の指先にパシッと当たり、ポトリと落ちそうになったのをどうにか掴んだ。



「取れたぞー!」


「すごーい!」


「おにぃちゃんすごぉい!」



 その後もあっち行ったりこっち行ったりするフリスビーを捕まえながら浸すら順番に投げ合って遊んでいると、しばらくして息を切らす真依と瑠輝の様子を見かねて、一度休憩を挟むことにした。


 小走りで荷物の置かれた春良のところまで戻ってくると、休憩をしにやっきた俺たちに気づいた春良が荷物を弄りだした。


 中から水筒を出すとコップを並べていく。



「お疲れ様。今オレジンジュース用意するね」


「頼む……」


「「つかれたー!」」



 真依がバタンと座り込むと、瑠輝はぴょんっと跳ねてからその場に座り込む。



「はい、瑠輝」


「ありがとっ!」



 笑顔でお礼をする瑠輝に、伝染したように春良も微笑んで「どういたしまして」と返していた。その様子に俺も頬が緩む。


 疲れて後ろに仰け反る身体を腕で支えていると、緑陰を渡る風に髪を撫でられた。



 ……木陰はやっぱり涼しいな。



「真依はピンクのコップで良かったよね?」


「うん!」



 春良と真依の会話に哄笑が漏れる。


 最近、保育園でピンクの花を見つけたらしい真依は、その花が印象深くて忘れられずにいるのか、ことあるごとにピンク色の物を探すようになった。


 何かを見つけては指差す先には、殆どの確率でピンク色の何かがあるのだ。



 よっぽどその時に見た花が気に入ったんだな。紀子さんも好きな花だと言ってたし。



 紀子さんからの口伝てでしか聞いてないからが、詳しいことは知らないが、小さな可愛いらしい花らしく。庭に植えたいが、初めて見る花の名前を紀子さんは分からずにいるらしい。


 真依にオレンジジュースが渡ると、適当に持って来たプラスチックのコップに俺の分を注いで、春良から手渡されたものを喉が乾いていたのもあって一気に飲み干してしまった。



「おかわりでしょ」


「あぁ。あとで自分用の買って来るかな」


「そうだね。これじゃぁお兄さんだけで飲み終わっちゃいそう」



 確かにと思い、「後で行ってくるか」と呟く。



「今日は天気良いから水分補給はこまめに取らないと熱中症になちゃうね。あぁ、そうだ。汗も拭かないと」


「あ、だな。1枚くれ」


「瑠輝の身体もよろしくね」


「分かってる」



 春良は荷物の中からタオルを2枚取り出すと、1枚を俺にくれた。先に瑠輝の服を捲って上半身を拭くと、俺も身体を拭いた。


 その間、春良は器用に真依の身体を拭いて、飲み終わったコップを回収する。


 休憩が終わった瞬間から真依の元気な声が野原に響き渡る。



「おにぃちゃんやろー!」



 直ぐに真依がフリスビーを持って立ち上がると、瑠輝も立ち上がり俺の手を引張ってきた。



「にーちゃ!」


「復活するの早いだろ……」


「「おにぃちゃーん」」


「分かった分かった」



 休憩は終わりだな。



 重たい身体を「よいしょ」と言って立ち上がらせると、フリスビーを持って中央へ向かおうとした。


 日向に出た辺りで、ふと遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。



「真依さーん!瑠輝さーん!」



 この声はアイツか……?



 

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