第12話
いくら眺めても違和感を感じてない道弘に俺は丁寧に教えた。
「中学校の卒業式、俺の両親来てなかっただろ」
「あぁ、そうだな」
「つまり誰かがそのカメラで撮っていたことになる」
「……なるほど。それで先生が出て来たのか」
さっきの凜人との会話を思い出したのだろう。仕切りに頷いていた道弘に凜人が一つの推測を導き出して言った。
「秋良のお父さんかお母さんが予め先生にカメラを渡して頼んでたのかもしれないね」
「……そうなる、よな……」
──そうだったのか。
お父さんは仕事が忙しくて、お母さんも何かの理由で卒業に来なかったけど、本当はちゃんとカメラを渡すことで見に来てくれてたんだな。
「お前ってば、本当に愛されてんな!」
「……そうだな」
「あはは! あの秋良が涙目とか珍しい!」
「お兄ちゃんだいじょうぶ?」
「いたいいたい?」
「痛くねぇよ。大丈夫だ」
ずっと中学の卒業式と高校の入学式に来てくれなかった両親が少し憎かった。
小学校の頃は散々甘やかされて育ったから、突き放されたような感じがして、放ってかれてるような気がして、不貞腐ってたけど……。
違ったんだな。ちゃんと愛されてたんだ。子供の頃と同じように側で見てくれてた。
「もう少しお父さんと仲良くしてやれよ!」
そう言って凜人が腕を回すと、道弘も肩をどんとパンチして来る。
「紀子さんのことはもう受け入れてんだろ?」
「まぁ、そうだな」
「素直じゃないなー!」
「うっせぇんだよ」
こっちはだいぶこじらせてんだよ。それに、写真撮ってんならちゃんと言えよなぁ。
写真に写っている俺はどれも不機嫌そうで、口を閉ざしてる。
凜人と道弘が一緒にいる時は笑顔でいるが、当時は一人でいると晴れ舞台に来てくれない両親の不満に眼光鋭く眉間に寄った皺で、怒ってるような雰囲気がレンズ越しでも伝わっている。
今思い返すとめっちゃくちゃ恥ずかしい……。両親はこれを見て何を思ってたんだろう。
するとまた三人で話し混む様子を見ていた真依と瑠輝が拗ねた顔で言ってきた。
「まいもいっしょが良い!」
「ぼくもー!」
「まだ容量の空きはあるみたいだし、撮るか」
俺がそう言うと、真依と瑠輝が目を輝かせて喜んだ。
「「とるー!」」
「天翔のみんなともたくさん撮らなきゃだね」
「そんで大人になったらお酒のつまみになるのか」
「誰かの結婚式にでも使えそう。──どうやって撮る?」
「タイマーの設定は?」
「……凜人、パス」
「はいはい。───よし、オッケ。どこに並ぶ?」
「机置いて、膝立ち?」
「だね。お兄ちゃんの膝」
忙しなく凜人が設定を終えるとテーブルに置いて、立ち位置を決める。
真依と瑠輝が前に座って、俺たちが後ろに膝立ちで並ぶと、道弘が俺の背中を押した。
「真依ちゃんと瑠輝くんが埋もれるから、秋良が二人を抱けよ」
「わーい!」
「きゃー!」
真依と瑠輝が俺の両腕に抱きついてくるのを俺は胡座を掻いて前に座り幼い二人を膝に座らせて抱きしめた。
道弘が後ろに来て、カメラのボタンを押した凜人がカウントしながら反対の後ろにやって来た。
「5─4─3─」
『にー、いーち!』
_パシャ
フラッシュがタイミング良く点滅して撮影された音が鳴る。
「まぶしー!」
「まゆしー!」
「すげぇ眩しかったな」
俺も目を瞑った感じする。
違和感のある目を擦りながら、直ぐに写り具合を確かめている凜人に聞いた。
「どうだ?」
「いい感じじゃない?」
「お!いいんじゃね」
先に道弘がカメラを貰うと、撮れた写真を見て笑っていた。道弘からカメラを渡されると確認する。
「まいも見るー!」
「ぼくもー!」
「ほら」
うん、確かにいい感じだ。真依も瑠輝も俺も半目を免れてる。
真依も瑠輝も嬉しそうに話していた。
「るき、かわいい!」
「まいねぇも、かわいい!」
二人で褒め合う会話に凜人が口元を抑えていた。
「尊いっ!」
「何言ってんだ?」
「……道弘はやっぱり道弘だよね」
首を傾げる道弘に言葉が通じなった凜人は呆れながら「なんでもないよ」と、道弘の肩をポンポンと叩いていた。
「今度印刷して来るよ」
「頼む」
凜人の申し出に俺は頷く。
きっと今度は、今日の写真を見て懐かしむ日が来るんだろう。
これから過ごす上で起こる出来事も、いつか笑い話になって思い出して、三人で、五人で語り合う日が来るんだと思う。
してあげられない代わりに、他の方法でしてやれることがあるんだと知った。
この瞬間を残せる方法を知ったから、誰かを寂しくさせることはないと思える。
「──さて、今度は何する?」
凜人の質問に即座に答えたのは道弘だ。
「人生ゲームだろ!」
前にもやったその案に俺は、「またかよ……」と呆れたけれど、真依と瑠輝は前にやった楽しさを思い出したようだ。
「やるー!」
と声を揃えてはしゃぎだした。
結局、クローゼットから人生ゲームのセットを取り出して、慣れた手つきで準備して行く。
それから紀子さんの迎えが来るまで、俺たちは夜更かしをすることにした──。
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