第10話
お風呂上がりなのか、二人ともパジャマに着替えていて、髪の毛はしっとりと湿っていた。
「あのね。すこしだけならあそんでいいよっておかぁさんが言ってた!」
「あそぼ!」
「そうなのか。じゃぁおいで」
そう言って真依と瑠輝を部屋の中に入らせると、真依が持っていたお盆を貰った。貰ってから500mlのペットボトルが3本乗っていて、かなり重いことに気づいた。
驚いたことにペットボトル2本を持って、真依は階段を上がって来たらしい。その力強さに、俺は関心した。
知らない内にだいぶ力がついてたんだな。物を落とさず運べる器用もあるし。
流石、嶺川家の長女と三男だ。
「いらっしゃーい!」
「お、お風呂上がりだな。気持ち良かったか?」
凜人と道弘に二人は近寄ると、眠気は全く感じてないのか、「うん!」と元気よく頷いた。
お盆を机の上に置いて、サイダーとオレンジジュースをプラスチックのコップに注いだ。高校生組にサイダーを、幼児組にオレンジジュースを配って、俺がさっきまでいた所に座ると真依と瑠輝の頭を撫でる。
「ありがとな」
凜人と道弘も飲み物をお礼をすると、真依と瑠輝は照れたようにはにかんだ。
乾杯をして一口飲むと、道弘の卒業アルバムの話しをした。
「真依ちゃん、瑠輝くん、ほらこれが道弘だよー」
凜人が運動会のページを開くと、道弘を見つけたのか二人の前に置いて指を差す。真依と瑠輝が前のめりになって覗き込んだ。
「これ、みっちゃん!?」
「みっちゃ…?」
写真の道弘を見ると若干今と違うからか、写真の道弘とリアルの道弘を何度も交互に見ていた。
「違うってよ」
揶揄おうとする凜人に、道弘が笑って聞いていた。
「こっちと俺、どっちがカッコイイ?」
「「こっち!」」
即答する真依と瑠輝は道弘を指差して抱きついた。そんな解答に道弘は嬉々していて「だろー?」と言いながら両腕で二人を抱き締めた。
すっぽり収まる様子に体格の違いがハッキリする。筋肉のついた道弘の両腕は余り力を入れ過ぎると締め殺してしまいでハラハラする。
「道弘はバカだなぁ。そんなこと言ってたら、小学校の道弘はかっこよくないって言ってるようなもんだよ?」
「良いんだよ。俺は今を生きてんだからな」
お、これは……。
凜人を見ると揶揄いが通じなかったことに腹を立てたのか、「チッ!」と盛大に舌打ちをして悔しそうにしていた。
──道弘の勝ちだな。
楽観的な長所を持つ道弘にとっては余りダメージのない言葉だったらしい。凜人が言葉を詰まらすのが珍しくて、客観視していた俺は二人の様子が面白くて自然と口角が上がっていた。
「凜人、王子キャラがどっか言ってるぞ」
「だってさー。あーぁ、道弘の反応はつまらなくて退屈しちゃうなぁ。真依ちゃん、頭を撫でてぇ」
「……?? よしよし」
首を傾げて頭を近づけると、良く分かっていないながらに小さな手を伸ばして、凜人の頭を無造作に撫でいた。
「真依ちゃん優しくて可愛いなぁ!」
道弘に抱かれていた真依を奪うように凜人が抱きつくと、急なことに真依は少し困った顔を浮かべた。
「抱きつかれて真依が困惑してるぞ」
「ふふ。まだダメだったかな?」
「たくっ。他の女と違うんだから1ヶ月でベタベタ出来る訳ねぇーだろ。真依、こっちおいで」
名前を呼んで強制的に凜人から剥がすと、やって来た真依を俺の膝の上に座らせた。
離れて行ってしまったことに凜人は溜め息を零す。
「慣れてくれたと思ったんだけどなぁ。真依ちゃんありがとうね」
優しく微笑み頭を撫でる凜人に、真依の背筋が伸びる。うんと頷く真依の小さな声に俺は思わず、後ろ姿を呆然としながら見つめた。
い、今の……。デレデレの時の声じゃなかったか?
──凜人のどこが良いのかと思えば、猫かぶりしたスマイルが良かったのか!
これから真依の前で笑わないようにさせねぇと……。
「おい、凜人。早く次行けよ。俺のカッコイイ姿は修学旅行の方なんだからよ」
横槍を入れた道弘はあぐらを掻いて瑠輝をすっぽりと腕の中に埋めていた。居心地が良いのか、瑠輝は背中を胸に預けていてのんびりしていた。
それよりも気になったのは、自慢げに言った修学旅行の話しだ。一体何をやったのか気になってしまう。
「はいはい。次のページ行くよー」
そう言って1枚だけページを捲る凜人。修学旅行の見出しに飛ばすつもりはないようで、隅々から道弘を探しているようだった。
「いないねぇ」
いないページは直ぐに飛ばして分厚い紙を捲っていく。次に幼い道弘を見つけたのは、クラブ活動見出しのところで、集合写真や課外授業で一生懸命身体を動かしている道弘を見つけた。
その時の思い出を、道弘は眉間に何重もの皺を寄せてどうにか絞り出そうとしていた。
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