第9話
話しをしながら階段を上りきり部屋に着くと、凜人と道弘の鞄を部屋の隅に置かせてまた居間へと戻った。
テーブルにはすでに取り皿やコップ、サラダと麦茶のポットが置いてあって、後はメインのカレーライスをよそるだけだ。
「カレーと箸、スプーンはそれぞれでお願いします」
「好きな所に座って。真依と瑠輝は少し待っててねー」
「「はーい!」」
春良は箸とスプーンを人数分数えてから本数分を箸立てに入れると、テーブルの中央に置き、カレーをよそり始めた。
俺と凜人、道弘もカレーをよそって席に着く。
真依と瑠輝は子供用のレトルトカレーだ。手作りのが中辛のルーを使ってるため、いつも魔法少女や戦隊モノの絵が描かれたパッケージの子供用のカレーを買って来ている。
中にはシールが1枚入ってて、出てきたキャラクターについて話しをしながら紀子さんは二人のカレーを湯煎で温める。
「シールはどこに貼るんだっけ?」
「てちょー!」
「てちょー!」
“てちょー”はシール手帳の事で、テレビ台の引き出しに置いてある。
どこに貼ろうか散々迷ってから二人はそれぞれ綺麗に剥がそうと真剣になりながらそれぞれ決めた場所に貼っていた。
そんな二人を眺めながら食べるカレーは絶品で。スパイスで舌がヒリヒリして辛いはずなのに、偶に甘く感じられるのが不思議だ。
真依と瑠輝がカレーを食べ始める頃には2杯目をお変わりして、しょうもない話しをしながら夕食を食べ終わると、凜人と道弘を連れて2階の部屋に戻って来ていた。
少ししてから順番でお風呂に入ると、全員で半裸族になってタオルを首に掛けて、部屋でのんびりとしていた。
床には既に布団が引かれていて棚から出して来た漫画が散らかっている。
「マジで居心地いいわー」
「てか、物動かしすぎでしょ」
「来んくらい広い方が色々出来るだろ」
「妹と弟を部屋に連れ込んで何すんだよ!」
「添い寝だよ!」
「おいおい、喧嘩すんなよー。暑くなるだろ」
呑気な道弘に止められて休戦すると、やっと本題へと入った。
「ちゃんと充電で出来るか!?」
「お前は写ってねぇのに、何はしゃいでんだよ」
「写ってなくてもお前らの子供の頃の写真が見れるんだぞ? はしゃぐに決まってるだろ」
だからってそこまではしゃぐか。
「いいからいいから、秋良はカメラの電源つけてよ。道弘はアルバム貸してー」
本を元に戻した凛人が勉強机の上からカメラを手に取ると俺に渡して来た。
電源ボタンを長押しすると、今度はパッと画面が明るくなって電源が起動したのが分かる。けれど、立ち上げに時間が掛かるようで画面は暗いままだった。
これは暫く時間が必要だな。道弘のアルバム見てた方が良さそうだ。
道弘はアルバムを取り出すとケースから出して、凜人に渡す。
「どれどれぇ。ミチ、6年の頃何組にいた?」
「6‐1組だったか?」
「忘れるなよ……」
後ろからパラパラめくり、クラス別写真のページを開くと、道弘が「ココな」と言って、下の方にいる男の子を指差した。
「うわ、髪長っ!」
「どれ──」
……あぁ、ホントだ。今より若干長めだな。
「髪短くしたのは中学上がってからだしな。つってもそんな変わんねぇはずだけど?」
「そうだねぇ。他に写ってないの?」
「確か、運動会と修学旅行のページに……」
「運動会……運動会……ここか」
凜人が表紙の方からページをめくっていく間、一度カメラに視線を落とした俺は起動していたことに気がついた。
「こっちもついたぞ」
「おっ!?」
一番に食らいついたのは道弘の方だった。
俺の隣りに移動してくると肩を組んで来て、カメラを覗き込んで来る。凜人も寄り添うように近づいて体重を掛けて来た。
「おめぇわ!」
「アハハッ! しょうがないじゃん!」
組まれた腕と寄り掛かる身体を払うが、二人はまた体重を掛けてくる。
「ちょっとくらい待てねぇのか……」
「まぁまぁ、気にしないで」
「気になるわ! 暑苦しい!」
肩を揺らしてぶつかり合うと、「ハハハッ!」と二人は笑ってやっと離れた。
すると、扉を叩く音が響いて一斉に黙り込む。
_ドンドン
「おにぃーちゃーん!」
「にーちゃー!」
真依と瑠輝の声がしてもう一度扉を叩く音が響く。中々入って来ない二人に違和感を覚える。
なんだ? いつもなら直ぐに入って来るのに。
「どーした?」
立ち上がってドアを開くと、真依と瑠輝がコップやお菓子の乗ったお盆を持ってそこに立っていた。
どうやら両手が塞がっていて開けられなかったらしい。
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