第7話
どうやら予想は的中したみたいで、寝室の扉が開いていた。
部屋の中からは声も聞こえて来る。
「紀子さん、入っていい?」
聞きながら中を覗くと、真依と瑠輝を着替えさせているようだ。
「あら、秋良くん終わったのね。入って大丈夫よ。
ごめんねー。真依がまた女の子に目覚めちゃって……」
凜人の影響だな……。
「おい、真依。凜人の為に可愛いくしなくていいんだぞ。いつでも可愛いんだから」
「やだ、するの」
ムッスーと少し拗ねたような顔で大人しく髪を弄られる真依に紀子さんは器用にサイドを三つ編みにしていた。
「まったく……。どうしてアイツなんだか」
そうぼやきつつ、瑠輝の相手をしてやるとごろんと瑠輝が倒れた。
無防備な姿に脇に手を入れてこしょこしょと擽ってみると、酸欠になりそうなほど笑う瑠輝に俺は休み休みやる。
「凜人くんは優しそうでカッコイイからね」
「アイツの本性はそんなんじゃねぇのに」
凜人に惚れ込むより、よっぽど道弘の方が良い。
アイツは喧嘩が強いし、真依のことを何より優先してくれるはずだ。
なりより女の影がないのだから、浮気でもして真依を悲しませることもないだろう。
最初に比べて見れば、真依に好かれて以降、女の影はチラリとしか見当たらなくなったが、女たらしと云う性分は治まりそうもない。
話し掛けてくる女に対して誑かすような、猫かぶりをして惚れされる光景は未だに見かける。
そもそも二人は、幼女に対して本気にはならないだろうが……。
「それでもちゃんと真依を見ててくれるならありがたいわ」
そう言った紀子さんは三つ編みした髪を少しほぐすと、後ろで一つに結び、その上からシュシュを結いていた。
「──よし、出来たわよ」
「ありがとう! お母さん!」
へぇー。ふんわりしてて可愛いな。
相変わらず紀子さんの手際はとても良く、結ぶのが上手だ。しかも結き方もたくさん知ってるしぱぱっと熟してしまう姿は目を奪われる。
「お兄ちゃん! かわいい!?」
その場でくるりと回ってみせる真依に、俺は笑顔で可愛いよと答える。
今来てるのはワンピースで、黄色がかったベージュ色の生地に、胸から裾まで切れた所から細かな花柄の紺色の生地が見えていて。
切れ目になってる胸の所にはピンク色の花のコサージュが付いていた。
シュシュは紺色で合わせているらしい。
ワンピースもシュシュも、この前のショッピングで買ったモノだ。
その格好が凜人の為だと思うと、複雑な感情を抱く。
真依には分かってもらえないよな……。
そんなことを思っていると紀子さんは鞄を手にしていた。
瑠輝の格好も真依同様、この前のショッピングで買ったやつで、迷彩柄のパンツに白のTシャツを着ている。
「じゃぁ買い物行こっか」
なんだかんだで支度を終えた俺たちは、紀子さんを先頭に家から出て、いつもスーパーへと向かった。
最寄りのスーパーで買い物を終えたあと、その帰り道で遊びに出掛けていた春良とバッタリ会い、一緒に家に帰って来た。
帰って来るとお風呂の浴槽や洗濯物を畳むのを手伝ってから兄妹全員でテレビを見る。
それから数時間くらい経った頃、そろそろ7時になりそうな時刻で玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーンと云う音に、真依と瑠輝がすぐに反応して、嬉しそうにドアホンの前まで駆け寄って行く。
来たか。アイツ等って俺ん家来る時はきっちり時間を守るんだよな。
「お兄ちゃん、早く!」
「はぁく!」
「はいはい。──ほら」
急かしてくる真依と瑠輝を抱え上げると、慣れた手つきで真依が「応答」のボタンを押した。
パッと画面が変わり、手を振る凜人と道弘が映り込む。
「りっちゃ!みっちゃ!」
〈この声は瑠輝くんの声だね! 凜人だよー〉
「リンちゃん!」
〈真依ちゃんもいたのか! 入って良いか?〉
「うん! まってて!!」
バタバタと手足をばたつかせて喜ぶ二人を床に下ろすと、足が着いた途端に俺を置いて真っ先に玄関へと向かって行く。
「おいッ!」
「兄さん、遅いよー」
「うっせぇ!」
優雅にアイスコーヒーを飲んでいる春良に俺は吐き捨てると、直ぐにあとを追った。
凜人と道弘に初めて会わせてからまだ一ヶ月しか経ってないのに、真依と瑠輝はすでに友達として認知しているらしい。
仲が良いのは嬉しいことだが、兄妹仲より深まるのは良い気がしない。
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