第2話 求めるもの

私が椅子に座った後、サーラスは真剣な表情に変わり、話し始めた。


「真帆、あなたは転生したわけではありません。へループ(異世界)に飛ばされてきたんです。

どうやら大半は本人が強く願い、願いが強いほどへループへ飛ばされます。

真帆もここへ来る前に、異世界に行きたいなど願わなかったですか?」


「願ったよ。アルベルトに会いたいだから、異世界に行きたいとはちょっと違うけど」


「ん〝ぅん〝(咳払い)

アルベルトは真帆の世界にいないのでへループへ送られたんでしょうね」


「なるほどねー

てかっ!なんで真帆って名前知ってるの?

アルベルトは役名ってことはあなた誰!?

この家はなに!?」


「落ち着いてください

ゆっくり説明しますから」


サーラスは、真剣な顔付きで私の両肩に手を当てた。アルベルトに似てるサーラスを見て私の頬が赤くなる。

私が黙った後ゆっくりと手を離してまた話始めた。


「名前は、人差し指を立てて相手の左横を指すとプロフィールがでてきます

慣れてきたら指を使わなくても、見たいと思うだけで見ることができますよ」


私のプロフィール。

どれどれ。

⚪︎新田 真帆

⚪︎アラタ マホ

⚪︎魔女名:キュート・ラブ

⚪︎zero


すごい。名前が反映されてる。漢字とかカタカナも使われてて私の住んでた所と同じ文字なのが不思議だけどそれより…


「この魔女名ってなに?

私魔女になったの?『キュート・ラブ』これ恥ずかしいんだけど!笑

誰がこれ決めたの?名前に全然関係ないし」


「そ、それは…

ダサい、ですか?」


「ダサいね

もっとんー、ムーン・ライトとかは?」


「名前関係ありますか?」


「はっ… ななな、無いけど、月明かりって魔女っぽくない?」(ウインク)

(自分で言っときながら恥ずかしい…)


サーラスは目をキラキラさせてぱぁぁっとした顔をした後、また真剣な顔つきに戻った。

(紳士だと思ってたけど、奥の性格が見えた気が…)


「あの…魔女と言っても真帆が想像するような黒いワンピースにとんがり帽子を被っている魔女ではないですよ。

この世界の女性は魔女、男性はMENS(メンズ)と呼ぶんです。」


「魔法が使える女ってことね!

でもMENSって適当すぎない!?笑

何か他にあったでしょ!」


「それは、追々分かります。

口で説明してもピンと来ないと思うので。

ZEROというのは階級の事で、まだ魔法を取得していない真帆はZEROという事です。

階級にはZERO→1st→2nd→3rd→MAXがあります。」


私の目の前にスライドショーの様な物を出して階級ごとにどんな魔法が使えるのかを見せてくれた。

1stは、コンロに火を着ける、電気を着け消しできる日常において役立つ程度。

2ndは、短い術式を説いて身体から剣が出てきたり、空を飛んだり少しグレードが上がった感じ。

3rdは、長い術式を説いてシールドを作ったり、中には術式無しでも大量の炎や水などだしたり戦闘力が上がった感じだな。

MAXは、術式を説かなくても3rdまでの事ができて威力も段違い。しかも相手の思考も読めるらしい。


(魔法名は後で考えるとして、こんな魔法使える気がしないし最後の思考が読めるのって

もしかしてサーラスも?

もしそうだったら私変な事考えてなかったかなぁ…)

「じゃ…」


私が話し出そうとすると食い気味にサーラスが話し始めた。やっぱり、サーラスは思考が読めるのかもしれない。


「そして役名というのは、

真帆が居た世界での漫画や小説、アニメ、ドラマをへループで実写化、リメイクしているんです。

なので『お嬢様は騙されない』は私も知っていますし、実写映画でアルベルト役をしました」


「サーラスは役者さんという事?」


「いえ、へループは役者という職業は無く

選ばれれば誰でも役者ができて報酬はありません」


サーラスは、少し眉が下がって子犬の様な顔をした。

(ボランティアで役者かぁ

やりたい人は嬉しいだろうけど、苦手な人には待遇悪いなぁ。

本当にアルベルトじゃ無いんだちょっとガッカリだけど、サーラスも納得行かないまま頑張ったはず。

顔はアルベルトだし会えて全然ラッキーじゃん)


心の声で話しながら私はニヤける。

眉の下がったサーラスはまた真剣な顔付きに戻ったけど何故か顔が赤い。


「そうだったんだね〜。

役をした事は分かったけど、なんでそんなにアルベルトに似てるの?

私の世界では雰囲気が似ててもそっくりな人が演じる訳でもないからね」


サーラスの顔色が戻る。

「演じる時にすごく似てるとはよく言われましたが、忠実にする為に基本は特殊メイクをします」


「特殊メイクまでするの!?

忠実なのは良いと思うんだけど、その人本来の良さみたいなのは出なさそうだね。

で、この家は何なの?私元の世界に戻れないの?連絡は一人暮らし彼氏無しで困らないけど、仕事行かなきゃ無断欠勤はヤバいでしょ」

(自分で言いながら虚しくなるけど…

一社会人として、ね)


サーラスは椅子から降りて私の足元へ腰を下ろした。

(何なにナニ、何するの今から。

私の足臭くなってない?起きてからずっとハラハラして変な汗出てないかなぁ)




「真帆、私と結婚していただけますか?」




サーラスは私の方へ手を差し伸べた。


(けけけけっっっこんーーーーー!?!?

この家何?って聞いたんだよね、私。

話ぶっ飛んでるううう)


「いやいやいや!

まだ出会ったばっかりだし、どんな人かもお互い知らないよ?

そりゃあ、失恋したばっかだし?アルベルトそっくりな人と結婚できるなんて超幸せだけどさ。

もしかして…結婚詐欺!?」


私は椅子から転げる様に落ちて後退り。


「やはり、そうなりますよね…

詐欺では無いです。

ここは私の自宅なのです。

詐欺じゃ無いと信じて頂く為に

試しにここで一緒に暮らしませんか?」


私に迫り、私の手を握り立たせた。

(顔が近い… イケメンの破壊力やば)


「さっきも言ったけど私は仕事に行かないと

無断欠勤で迷惑かけてるのにしばらく経ってから復帰するなんてクビになっちゃう」


「それは問題ありません」


「それってどういうこと?」


「真帆の会社へは私がしばらくお休みするとお伝えしましたから」


「ん???へループと私の居た世界って連絡とかできるの? 会社側も知らない人が代わりに連絡したのに信じてくれたの?」


「はい、真帆の勤めている社長さんは元へループ出身だったのでスムーズでしたよ」


その頃の社長ー

「社長〜社長に代わってとお電話がありました」


受話器を持ちながら、社長に呼びかける従業員A。パソコンから顔を覗かせる社長。


「名前は?」


「さーらす、るいすと言っていました。日本名ぽくはなかったんですが、日本語は上手でした」


「おー!!久しいな繋いでくれ」


社長は目の横に皺を寄せながらにっこりと笑って受話器を耳に当てた。


「もしもし、サーラスか?久しぶりだな〜」


「はい、お久しぶりです」


「何かあったか?」


「あの、そちらで勤務している新田 真帆さん、しばらくこちらでお預かりしてもよろしいでしょうか?」


「新田か!

連絡無く今日休んでるから何かあったのかとは思っていたけど、そう言う事だったんだな。

サーラスが面倒見てくれるなら安心だ、よろしく頼む!⭐︎」(ウインクと同時に親指を立てgoodのポーズ)


現在に戻る。


「の、様な感じでしたよ」


「知り合いだったの!凄い偶然!

そしてあの社長の対応凄く想像できる。

私がミスしても何とかなるさーみたいな軽い感じなんだよね」

うんうんと頷く私。


「仕事の事は解決した様ですので、こちらで暮らして頂けますか?」


サーラスからの期待の眼差しが凄い。

(仕事は休みOKでたし、行ったとしても宝くんと会うのも気まずいし、相手が結婚を望んでるなら結婚を見据えて試しに生活してみるのもありかな… あーでもでも魔法とか意味わかんないし見ず知らずの人と一緒に暮らすのもどうなのかなぁ)


「他に何か引っ掛かる点でもありますか?

魔法の事ならスクールがあるのでそちらで教われますし、私が側に居ますので大丈夫ですよ」


何も言ってないのに魔法の事心配してるの伝わってるし、やっぱり怖い。

でも…イケメンしかもアルベルト似なのには勝てない…


「じゃあ、お試しで1年ってのはどう?1年あればお互いの事大体は分かるはずだし、その時に継続か、終わりにするのか決めるって事でいいかな?」


サーラスは満面の笑み。


「はい!あー楽しみだ。真帆のドレス姿…

あぁ…麗しい」


「待って待って、結婚するとは言ってないよ」


「あ、そうでしたね。いやでも、結婚します。真帆に受け入れてもらえる様精進します」


それから私とサーラスの共同生活が始まった。

外を出ると木?なんだろうなとか、魚?なんだろうな、と言う様な異世界ならではの物に触れて、現実感が無いからか無駄にはしゃいでしまってる私。

海辺を歩いている時に波の打ち寄せが強く来てワンピースが(あ、濡れる)と覚悟した。

が、その時サーラスが後ろからサッとお姫様抱っこをしてくれた。


「あ、ありがとう…」


「いえ、ワンピース気に入られてたらショックを受けるかと思ったので。

濡れずに済んで良かったです」


(こう言う時って現実では腕を後ろに引っ張る程度なんだけどなきっと。キザな事しちゃって笑)


「もう、下ろして大丈夫だよ。

波から少し離れたし、自分で歩ける」


「真帆が照れてる顔が可愛いのでしばらくこのままで。 あっ…」


サーラスの顔が私の顔に近づいてくる。

(もしかして、ここでキス…?いくら何でも強引すぎないいい?)


「ちょっとまっ… ん?」


まさかの、風で靡いた私の髪を口で咥えた。咥えた髪の毛は顔にかからない様に外へ流し、優しく微笑んだ。


「すみません、びっくりしましたか?

今両手が塞がってるので、こう…なりました」


「ぶふぅっっ! 本当何もかもしてくれる執事さんみたいだねっ。私は両手空いてるから自分で出来るよ〜」

(ふーーーーっ!ちょっと髪の毛咥えるってキスよりドキッとしたんだけど…

今日会ったばっかりなのに、イケメンと色気、優しさになんかもう惚れそうなんだが!? 1年期限作ったくせにこの感情が出てくるの恥ずかしいよ)

(でもダメダメ、何か裏があるかもしれないから慎重にならないとダメだよね)


「あ、そうでしたねっ。失礼しました(ペコッ)浜辺も終わるのでそろそろお履物履きましょうか」


「うん… ごめんね、重たかったでしょう」


「いえ、真帆が可愛かったので重さなんか感じませんでしたよ」


「いやいや、どう言う理屈だよ〜笑」


下ろしてもらった後、ふと思い出した事がある。でも気のせいだと思ってその場は深く考えなかった。


しばらく歩いていると人の声が聞こえてきた。


「これってどこに向かってるの?」


「王都ですよ。そこに私の実家があります」


「実家ってご両親に挨拶みたいな?

髪の毛は家出る前にサーラスに魔法でセットしてもらったし、服もサーラスに貰ったものだから大丈夫か。でもちょっと心の準備が…」


ワタワタする私を見て優しく手を握るサーラス。


「両親は今、真帆の世界のアメリカに居ます。

居るのはお祖父様です」


「アメリカ?そんな自由にへループから私の居た世界行き来できるんだ。まぁ社長がへループ出身で今の馴染み具合みると私が海外行くみたいな感覚なのかな」


「そんな感じですね、誰でも行けるわけでは無いですが条件さえクリアできれば好きに行けますよ」


(と、言うことは私もクリアしたらいつでもズラかれるってことね)ニヤリ


視線を感じるからサーラスを見ると、

口を膨らませて眉間に皺を寄せて拗ねるよと言わんばかりの顔をしてる。


(あ、もう心の中読めるの隠してないじゃん開き直ってんじゃん。私何も言ってないのに)


「何も言わなくたって…」


「!?」


「顔に何か悪いこと考えてることぐらい分かりますよ。ずっと見…」


最後の言葉はぼそっと言って寂しそうな顔をした。何を言ったのか分からないけど聞かない方がいい気がする。


「じゃあずっと心の中読めるの?」


「読もうと思えば読めます。でもそれも魔力を使っての事なので常に読んでる訳ではないので安心して下さい」


「読もうと思えば読まれるってのも、変な事考えてないか心配だけど。まぁいっか!」


周りを見るとお店や電灯のあたりに装飾品が沢山飾ってある。進めば進むほど人が多くなってきた。


「もうすぐ着きますよ」


「う、うん…」


「緊張してますか?大丈夫ですよ今日はパーティーですから気楽に楽しんでください」


「え?」


「クリスマス、クリスマスパーティーですよ!真帆の世界もクリスマスシーズンでしょう?」


(そ、そうだった…けど)


「ここまだ春みたいに暖かいのにクリスマスなの?」


「はい、へループはずっとこの気候です」


「えー!!凄い良いじゃん!私の所は夏は暑いし冬は寒いしずっと春がいいって思ってたの。国によっては暖かい所もあるみたいだけど。でも、海とかプール入るのはちょっと寒いよね」


「例外があって、月に2度夏日になる時と雪が降る日があります」


「へぇー、定期的にそう言う季節も味わえるんだね。凄い理想的な気候だわ」


「少しはここへ住むのも悪く無いかなと思いましたか?」


「うゔ…ちょっとねちょっとだけ。

まだ何にも分かんないし何とも言えないよ」


「ははっ。気に入ってもらえる様、頑張ります」


たまにサーラスは無邪気な青年の様な顔を見せる。

(言葉遣いは硬いのになんか合ってないんだよなぁ)


「サーラスは何か仕事とかしてるの?

私ここに来たばっかりでお金とかも持ってないしさ、すぐに働き口見つけようとは思ってるけどお給料貰えるまではサーラスに頼らせてもらわないと行けないからさ」


「スクールの先生です」


(待って、ってことは、サーラスにあんな事やこんな事したりして教えてもらえるってこと?)


「あ、受け持っているのは15〜18歳までのクラスですが」


(くぅーー、ハズレか。私26歳だけどそんなクラスあるのかな? まぁスクール行って魔法教えてもらえるって言ってたしあるんだよなきっと)


「そうなんだぁ、先生って凄いね。何でも自分は出来ても人に教えるって難しいし」


「大した事ありませんよ。スクールでは基礎的な事を学ぶ場で、応用は卒業した後知りたい人だけ独学で進めると言う感じなので」


「いやいや凄いって。私はZEROだよ?MAXになるにはきっと沢山努力したんだろうなぁって話聞いてて思った」


「では、好意を無駄にしない様引き続き頑張りますね」


「頑張って!私もできるだけ早く迷惑かけない様にするね」

(いやまって、じゃあ目を覚ました時の執事の姿は?2階はやけに華やかなお城の中の部屋だったけど、1階はごく普通の部屋だったし、やっぱりこの人は何者なのかな…)


その後少し雑談をしながら歩いていると、サーラスの実家に着いたのだが…


「これ実家あああーーー!? 宮殿じゃーーん!! さっきお祖父様って言ってたからもしかしてって思ったけど、王の息子なの?」


「他の家より少し広いぐらいですよ。家です。

そして私は王の息子じゃないですよ」


「じゃあ何でこんな所で住んでいたの?」


「お祖父様が現帝王です。

本当はお父さんに跡取りをして欲しかったみたいなんですが、お父さんが断固拒否を続け跡取りはこの家と関係ない人が次期帝王になるので」


「あ、色々あったんだね… ズカズカと聞いてごめんね」


「大丈夫ですよ。私もこの家に生まれたから同じ人生を歩まないと行けないのは嫌だったので、むしろお父さんには感謝してます」


「そっか…」


うぃーん。門が開くと10数人のメイド執事が

花道の様に立っている。


「お帰りなさいませ」

(皆んなが一斉に言うと迫力あるな〜)


「ただいま」


「パーティーのご準備はできておりますのでこちらへ。ご友人の方もお揃いでございます」


「ちょっとこんなの漫画とかでしかみた事ないよ、どうしたらいいの私」(小声)


「ははっ、手と足一緒に動いてます」


サーラスの優しい笑顔に私の緊張も重なって

顔が沸騰しそうだ。


「ちょっと、からかわないでよ〜」


「緊張しなくても大丈夫です。ここを持って下さい」


私の手を持ち、サーラスの腕の間に入れた。

距離が近くなってさらにドキドキするけど、

触れているだけでも、安心感があった。


ぎぃーーーい。扉が開いたら100人は遥かに超えるぐらいの人達が賑やかにしている。


「すごーーい!!ツリーも大きい!上に乗ってるこれワタじゃなくて雪? ご飯もおいしそーーーう! なんか上に色んなもの浮いてるけどもー何か全部すごい!」


子供の様にはしゃぐ私。

天井には雪の結晶やキラキラしたものが沢山あって、サンタクロースがソリに乗って子供達にプレゼントを落として行く。


「真帆、子供みたいにはしゃいで可愛いな〜」


少し離れた所でサーラスが呟く。


「サーラス!久しぶり!元気してた?」


「久しぶり!元気だったよ。てゆーか、先月も会ったじゃん」


声が聞こえた方を見ると、身長が高くモデル体型で、目が大きくて、顔も小さい女性がサーラスに話しかけている。


「綺麗〜。何かこう見るとお似合いだなぁ、あの2人」


離れて2人の方を見ていたら、サーラスと目が合った。手を挙げて手を振り私を呼んでいる。


(なんかあの中入るの気まずいなぁ…)


そう思いながらサーラスの元へ行った。


「紹介するよ、この人はキュート・ラブ。仲良くしてあげてくれ」

(しまった、名前考えるの忘れてたよ。紹介しちゃったしキュートちゃん確定じゃん…)


サーラスが私を紹介すると恥ずかしさを堪えながらペコッとお辞儀をした。


「この子がこの前言ってた事ね!

可愛い〜。私、アメリ・シャーロット宜しくね」


「こちらこそ宜しくお願いします!」


アメリさんはずっとニコニコして愛想が良く、優しそうだ。周りから次々にサーラスの元へ人が増えて行く。


「サーラス!久しぶり!この子が例の… めっちゃ可愛いじゃん! 俺はナギ・ラクレシオンでございます。この後俺と2人で二次会しな〜い?」


「あはは…」

(ガツガツ来るなぁ女慣れしてそう…)


「おい!ナ…」

私に引っ付くナギさんにサーラスが引き離そうとした時、また新たな男が現れた。


「おい、ナギ止めろ。困ってるだろ」


止めに入った男はナギと言う男の首根っこを持って後ろに引いた。


「ごめんごめんー。可愛い女の子に目がなくってさぁ、キュートちゃんごめんね?」


「あぁ全然です!ちょっと勢いに圧倒されただけなので…」


サーラスが止めに入った男の元へ行き肩に手を置いた。


「タカシありがとうな」


「いや、お前が止めようとしてた所、俺が割入って悪かったな」


「いや、ナギは誰か止めないと止まらないし助かったよ」


「そうか」


ナギさんと、アメリさんが話が盛り上がってたから私はサーラスとタカシさんの元へ行く。


「タカシさん、私キュート…と言います。

さっきはありがとうございました」


タカシさんはガタイが良く身長もサーラスと同じぐらいで上から見下ろす様に私の方を見た。


「あぁ」


少し冷たさを感じた。私が違う世界から来てサーラスと一緒にいるのが気に食わないのかもしれない。そこから何と喋ればいいかわからず、サーラスの顔をみて委ねた。


サーラスが話始めようとすると、アメリさんが話し始めた。サーラスは人に気を使いやすいタイプなのかも。


「キュートちゃんプロフィール見たら、向こうの世界では『真帆』って名前なんだね。

何でそっちの名前使わないの?サーラスはそう呼んでるし」


「えっ…!!」

(魔女名ってやつ、わざわざ付けなくてもよかったのーーーー!恥かいただけじゃん私)


サーラスをムッと睨む私。

まぁまぁと言う様に私の背中を摩るサーラス。


「私、知らなくて… この世界に来たからにはこの世界の名前が無いとダメだと思って…

『真帆』に戻そうかな」


私が話終わる瞬間にサーラスが口を開いた。


「僕が決めたんだ!いきなりここへ来て他と違う名前で疎外感を持って欲しくなかったから」


口をとんがらせて興味のなさそうな顔をしていたナギさんが私の所へ再び来て、肩に手を回す。


「どっちでもいーんじゃね?真帆ちゃんでもキュートちゃんでも可愛いのには変わりねーんだしさっ」


その瞬間にサーラスとタカシさんが同時に

「おい!」と言って、ナギさんの耳を引っ張って引き離してくれた。


「キュートちゃんはどうしたいの?」

そう言ってアメリさんは私の横に来て優しく微笑んだ。


「私…は…」


キュート・ラブの名前が付いている事を聞いた時のサーラスの表情を思い出した。

もしかしたら頑張って考えてくれたのかもしれない。これで『真帆』にすればショックを受けるのかな。

まだ出会って1日も経ってない人に気を使う事はないけど、人の好意を無下にするのは嫌だと思った。


「やっぱりキュートでお願いします!」

私は深くお辞儀をした。


アメリさんは私の肩に手を置いて微笑み、

ナギさんは腕を組んで目を瞑り微笑みながら頷く。タカシさんは…。何とも言えない無表情だけど、サーラスが何故か涙を堪えてる。


「そんな深くお願いする事でも無いよ、改めて宜しくね。キュートちゃん」


アメリさんが言うと皆んなが同時に「宜しく!」と歓迎してくれた。


「ごめん私、ちょっと外出るわ。また戻ってくるね〜」

と言って、会場を出て行ったアメリさん。


(アメリさん優しくて可愛かったなぁ。友達になれたら嬉しいな…)


サーラスと目が合うと私に近づいて来た。


「アメリさんは『お嬢様は騙されない』のアリス役だったんです」


「えー!!綺麗だなと思ってたけど、確かに合ってる合ってる!優しくて可愛いけど話す時はハッキリ話す感じとか!」


「共通の知っている事があれば話しやすいですし、仲良くなれたらいいですね」


「うん」


(次話すのが楽しみだなぁ)



その頃のアメリさんは、トイレに居た。

「チッ」

と鏡を見ながら舌打ちをしていたんだ。

不穏な雰囲気を持つアメリさんを、私はまだ知らない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る