イセ婚

陽向アカネ

第1話 白馬の王子様

「お嬢様、お目覚めになられましたか」


「ん…」


目の前に、黒髪短髪でゆるくパーマがかかってる執事のような男がいる。

私は寝てたのか…

ってか、この状況どういうこと!?


「気分が宜しくありませんか?

朝食をご準備したのですが、お口に合わなければ違うものをご用意しますが」


これってまさか…


「いや、大丈夫よ。頂くわ。」


「ではこちらに。扉よオーープン!」

パチンッ(指を鳴らす音)

キー… 扉が開いた。

何今の。魔法?魔法なら文言ダッサ!(笑)

#¥*%€%#°\○*みたいな、なんて言ってるか分かんないような言葉言うんじゃ無いの?こんな時って(笑)


扉が開いた向こう側は、テーブルに椅子、

キッチンなど、よくあるダイニング風景。

さっきの部屋はいかにも豪邸のお部屋みたい感じで、お嬢様とか言われたし、

魔法?も見たから、

まさか転生した?とか考えたけど、

私酔っ払って知らない人の家に来ちゃったのかな。魔法と思ったのも二日酔いで視界悪くてそう見えたのかも。結構それも大問題ではあるが。

しかも転生期待して、私さっきお嬢様口調で喋ったの恥ず!!(笑)


「お嬢様こちらにお座りください」


執事の格好の男は椅子を引き私を座らせた。

テーブルには旅館の朝食に出てくるような、

白米に焼き魚、お吸い物に副菜があって健康的な朝食が置かれていた。


「お口に合えば、お召し上がり下さい」

ぶぉん!

男が私の手元に手をかざすとそこに無かったお箸が出てきた。

(いや、そんなスマートに魔法だせるんかい!

さっきのオーープン!いらなかったじゃん絶対(笑)

でもこれで、別世界に来たのは確定だ)


「い、頂きます…

!! 美味しい…これ凄く美味しいです。

なんか久しぶりにこんなあったかいご飯食べた気がします」


男は、優しく微笑んだ。

「お口に合い光栄です、

しばらくこういった食事を取られてなかったので」


私はこの世界の誰かに転生したのかもしれない。ただ、前の世界の様子を分かっているかのような事に捉える事もできる。

分からない。

まず私前の世界で死んだりしてないし、

何でこの世界に来てしまったのかも、

この世界は何なのかも、分からないことだらけだ。

頭が?でいっぱいの中、食事の手は進み

食事を終えた。


「ご馳走様でした とても美味しかったです」


私がそう言っても何も話さず

男は微笑みながらずっとこちらを見てる。

(よく見るとこの人、めっちゃイケメンじゃない?目もキリッとして綺麗な鼻筋してるし

私の好きだった漫画、『お嬢様は騙されない』

に出てた推しのアルベルトにそっくりだ)


「どうかされましたか?」

と男がやっと口を開いた。


「いっ、いやぁ〜何でこんな状況になってるのかなって」


「そうですね。フフッ

あなたがここに来たのはあなたが望んでいたからです」


そう言うと、私の隣の席に座りそっと手を握られた。

あなたが望んでいたとはどう言う事?

私は何を望んでいたの。


「何のことだと言う顔をしてますね

思い出してみてくださいあなたが前にいた世界の事を」


私の最後の記憶は…


友達のさあやと夜電話していた。

「明日、会うんだ〜」


「いいじゃーん 今度こそは実ればいいね」


「本当だよ〜これが3度目の正直ってやつ?」


私は久しぶりに彼氏ができるかもしれない状況だった。

大学4年の頃、1年付き合っていた3歳年上の彼氏と別れた。大学を卒業したら同棲を始めて結婚に向けてこれから楽しみがいっぱいだった頃、

彼氏からいきなり別れを告げて来た。

理由は、就職先が沖縄県に配属されたから

東京と遠距離はやっていける気がしないと言う事だった。

反発したが何も響かずそのまま別れた。

その後、友達盾で聞いたのは

まだ東京にいる事、別の彼女が居てその彼女が妊娠している事。

私は二股かけられて、女に子供ができたから

私は捨てられたんだ。

悔しくて、思っている事ぶちまけようとしたが相手に子供ができて人様の家庭を荒らすのは出来ない。

私が気づかなかったのが悪かったんだと言い聞かせた。


その後やけになって次に出会った男と付き合うまでは行ったが、この人と一生一緒にいるのが想像出来なくて私から別れを告げた。


そこからは、就職して忙しかったから

恋愛なんてしてる暇も無かったけど

3年経った頃、同僚の宝くんが

ご飯を誘ってくるようになった。

宝くんは同じ新入社員として入って、

大変な時期も一緒に乗り越えて来た同志。

元気があって、優しくてお互い落ち込んだ時は励まし合う仲だったから悪い気はしなかった。恋愛から離れてた私はどこかで期待してる自分も芽生えて来て、12月23日にクリスマスプレゼントを買いに行く約束をした。


さあやとの電話に戻る。

「クリスマスプレゼント買いに行くって

もうカップルじゃん」


「だよね〜私も思った(笑)

なんか私久しぶりだからさ、舞い上がっちゃって恥ずかしいけど」


「いいんだよ〜こんな時は。

恋愛が1番ワクワクする時って

付き合うか、付き合わないかの状況じゃん?

深く考えず行って来な〜」


「ありがとう。また話聞いてね。

明日寝坊したらダメだからそろそろ切るね」


「おっけ〜、早く寝なぁ

また連絡待ってるおやすみ〜」


「おやすみ〜」


次の日、宝くんとの集合場所へ着いたら

周りはクリスマスムード一色。

カップルが沢山居て、通りのイルミネーションで心躍らせる私。


(昨日服選びに時間かかって寝不足だ…

楽しみで眠れなかったのもあるけど 笑)


「ごめん、待った?」


宝くんが来た。

あれ…なんか今日は宝くんの周りがキラキラしてる気がする。

寝不足で目がチカチカしてるだけかな。


「全然だよ、私もさっき来たとこ」


「寒かったよね。カイロ持って来たからこれ使って!」


「ありがとう、あったかい…」


「これで俺の株上がったな(笑)

行きたいとこあるんだけど初めにそこ行っても良い?」


「上昇、上昇(笑)

分かった!行こっか」


冗談を言いながら爽やかな笑顔は

いつにも増してキラキラして見える。


ショッピングモールの中を入って、

ハイブランドが入ってるフロアに着いた。


(付き合う前からこんなの選んでくれるのかな…なんかちょっと申し訳ないな)


「これ、どう思う?可愛いかな?」


宝くんはブラウン色の周りにファーが付いているバックを指差して言った。

値段を見ると30万越え。

私は少し違和感を感じたけど

考えないようにした。


「冬っぽくて可愛いね。

ハンドバックにも、ショルダーバックにもなるし、中ポケットもついてて使い勝手も良さそう」


「おー、いいね。

真帆が一緒に見てくれて助かるよ〜

最近彼女が出来たんだけど、プレゼントはサプライズが良いって言うから困っててさ」


「え…」


私はその時頭では色んな言葉が出てくるのに

すぐに言葉が出せなかった。

勘違いしてたんだ。最近二人の関係も良好で

後はいつ付き合うかの問題だと思ってたけど、そんなところまでも行ってなくて挙げ句の果てにもう彼女が居たんだ。

今すぐにでも走って逃げたいけど、

宝くんからすれば事情は変わってない。

ここで逃げるのは違う、とりあえず買うものを決まるまでは頑張ろう。


「え、いってなかったっけ?

彼女出来たんだ、今度紹介する。

すっげー可愛いんだ。

真帆は何か見なくていいのかー?」


何も知らない宝くんの言葉は私の心を握り潰す。


「一緒にプレゼント見てたら、あれも良いなこれも良いなでお腹いっぱいになっちゃったからまた今度でいいかな〜」


「そうかぁ、真帆も早く良い彼氏作れよ

こんな可愛いのにもったいねーぞっ」


言葉が出る度に私の心は苦しくなっていく。


「そうかなあ はは…

私も負けずかっこいい彼氏紹介するね!」


「おうおう!楽しみだわ!

飯どこ行くー?

何か食べたいものあるか?」


「えっと…」

(本当はプレゼント買った後、

ご飯行く予定だったけど、これ以上一緒に居たら身が持たないかも)


「ごめん、言いづらくて言ってなかったんだけど今日女の子の日で体調あまり良くなくて…今日はこれで解散でいいかな?」


「えぇっ!(小声)

申し訳ないなぁ、気付いてあげれなくてごめん。駅まで送っていくよ」


「いいよ気にしないで。言ってなかったんだし、普通は気付かないよカップルでもないしさっ」


「まぁ…そうだけど…」


そこから宝くんは申し訳なさで喋りづらかったのか、私も何を話せば良いか分からなくて言葉は交わさず駅に着いた。


「駅まで送ってくれてありがとうね。

ごめんね予定崩しちゃって。

また会社で」


「おう!お大事に。

またな!」


電車に乗っている間私は涙を堪えるので必死だった。

家に着くとソファへ力が抜けるように寝転んだ。食欲も湧かないし、何もする気になれない。3年間恋愛から離れている間に癒しをくれた漫画『お嬢様は騙されない』を読む事にした。他の漫画も見ていたが、主人公の執事

アルベルトが私の推しで何度も読んでいるから表紙は少し外へ曲がっている。

読んでいると、普通の会話のシーンなのに

涙が出てきた。拭いても、拭いても出てくる涙で目がぼやけて文字が読めない。

好きと言われた事も無かったし、

私が勝手に期待して勝手に失恋しただけだ。

しばらく恋愛をしてなかったんだから、

その日々に戻るだけ、悲しむ時間が無駄だ。

そう、、思いたいのに涙が止まらない。


「アルベルトに会いたい…

抱きしめてほしい俺がいるから大丈夫って言って欲しい…」


現在に戻る。

「えーーーー!

あなた、アルベルトですか!?」

私は急いで椅子から立ち、男から少し距離を取る。


「まぁ、正解かな。

正確に言うとアルベルトは僕の役名で本名はサーラス・ルイスだけどね」


男は変わらず微笑んでいる。


「役名?

『お嬢様は騙されない』の世界に来て

私はお嬢様のアリスじゃないの?

じゃあここは何?私が転生したんじゃないの?私は何者?あなたもだけど!」


「落ち着いて。

順を追って説明するからまずは椅子に座って」


私は恐る恐る椅子に戻り、椅子に座った。

役名と言うのは引っかかるが、アルベルトが横に座ってるなんて色んな感情が湧き出すぎて今にも吐きそうだ。

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