第8話

台北の街は、適度に暖かくて、人は優しくて、食べ物は本当に美味しい。麻美はエアビーアンドビーの部屋でぐっすりと眠り、朝、朝食に揚げパンを屋台で買って、タピオカミルクティーのホットと一緒に食べた。それから、また、ベッドに戻り、スマホをいじりながら、自由な時間を過ごした。

「大学に復学しよう。」

その思いを強くした。もう一度受験するくらいの努力はなんでもないことだ。そして、卒業して、社会人になって落ち着いたら、桃香に会いにいこう。会わせてもらえる自分になっておこう。

 あの、二人のおばあさんが何者なのか、麻美にはよくわからなかった。ただ、悪い人には見えなかった。

「もう一度、あのおばあさんたちに会いにいかなきゃ。桃香を預けておいて、連絡もしないのは、よくない。」

 麻美は、両親に連絡することにした。

「お母さん?麻美。今、台湾に来てる。まず聞いて。桃香は…………。」

「麻美、貴女、何を考えてるの?桃香には会ってきたわよ。親切な方達が預かってくださってる。貴女は自分のしたことがわかってるの?」

「ごめんなさい。」

「謝ってすむこと?」

「私、おかしくなりそうだったの。」

「どうして、私たちに相談しないの?寺脇陶子さんと本間咲子さんっていう姉妹なの。貴女に桃香を渡したら、虐待されるんじゃないかと恐れているのよ。保護施設にも見学に行ったって。あんまりかわいそうで、預けられなかったって。警察に届けるのも、麻美の元に返されたら、虐待が怖いと言って、届けなかったらしい。」

「うん。」

「それで、台湾に一人で逃げて遊んでるのね。いい気なもんだわ。」

「桃香は元気なんだろうか?」

「寺脇さんと本間さんに感謝しなさい。ママからもお礼を言ったけど、でも、言葉では足りないわ。何か形で示すべきね。」

「私、帰る。日本へ帰る。桃香を育てながら、大学受験できるだろうか?」

「大学は無理よ。とにかく帰っておいで。桃香を迎えに行こう。」

「うん。寺脇さんと本間さんにちゃんと謝って、お礼も言う。」

「わかった。貴女の産んだ子なのよ。貴女が育てるのよ。桃香には、母親は貴女しかいないんだから。」

「わかった。桃香を迎えに行くわ。私、虐待なんてしないよ。絶対。」

「そうよ、させないわよ。ここに住みなさい。私と一緒に育てればいい。」

「うん。」

「大学はね、また、ゆっくり考えよう。焦ったのよ、麻美。焦っちゃ駄目よ。放送大学とか、色々方法はあるから、考えよう、一緒に。」

「わかった。ありがとう。今から飛行機探すわ。一番早い便で帰る。」

「もう、疲れは取れた?」

「うん、それどころじゃないわ。」 

 明くる日の午後の便で成田に飛んだ。

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