第7話
陶子と咲子の姉妹は、桃香を自分たちで育てる決心をした。しかし、未成年の母親には連絡しないで、その両親には連絡したいと思った。桃香の祖父母たちだ。心配していることだろう。
なんとかして桃香の祖父母を探したい。母子手帳が全ての情報源だった。父親の名前と住所が書いてある。そこへ手紙を書いた。麻美の両親の連絡先を教えて欲しいと書いた。子供を預かっているとも書いておいた。
手紙がつくや否や、父親の代理人から連絡があった。父親とはすでに示談が成立しているので、扶養義務はないことなどを、極々事務的に伝えて来た。陶子たちはいささか腹が立った。桃香が不憫だった。父親もこんなに無責任な男なのか。
そして、麻美の両親の連絡先を父親の代理人から入手した。陶子が電話をかけた。
「もしもし、私、寺脇陶子と申します。妹の咲子と一緒に住んでいるのですが、この度、麻美さんが、育児放棄をなさって、私どもの車庫に桃香ちゃんが置き去りにされていたので、保護しています。」
「え?本当ですか?」
「はい、もう二週間になります。」
「麻美は、今、アパートにいないのです、連絡が取れなくて、GPSも切っているので、家出している状態です。心配しています。桃香を保護してくださっているんですか。本当ですか?」
「はい。」
「ありがとうございます。」
「桃香ちゃん、元気です。粉ミルクもよく飲むし、お腹の調子も大丈夫です。夜泣きもせず、私たち老姉妹でも、なんとかお世話できてます。」
「すみませんでした。これから伺って、桃香を引き取ります。麻美を探さなきゃいけないです。」
「そこでご相談ですが、麻美さんから手紙が置いてありました。この子に愛情が持てないと。無理心中してしまいたい、とも。」
「…………………。」
「私はもう孫もいる年ですが、桃香ちゃんを引き取っても良いと思っています。」
「それは、どうでしょうか。」
「一度、お会いしたいです。」
「はい、私と主人で伺います。住所を教えてください。」
祖父母はその日の午後、やって来た。麻美を探し出して、麻美に捨て子をしたことを反省させ、謝罪させて、桃香を麻美が引き取るのが筋だと、祖父母は言い張った。しかし、陶子と咲子は、子供を捨てた親に、もう一度桃香を委ねるのは危険だから、陶子たちが代わりに育てると言った。麻美が書いた手紙を見せると、祖父母は、
「この子にもしものことがあったら、取り返しがつきません。私たち夫婦が引き取ります。」
と言い、長いこと沈黙していた祖父も、
「私もそれが本来の形だと思います。」
と、一言添えた。陶子と咲子は、
「麻美さんを探してください。私たちも麻美さんにお話ししたいことがあります。お会いしたいです。それまで、桃香ちゃんは私たちが。」
と言うと、
「そうですか。」
と、二人は声を揃えた。
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