第6話

麻美はその頃、子供のことが頭から離れず、少なからず赤ん坊を捨てたことを後悔し始めた。母乳を搾りながら、子供の顔を思い浮かべ、涙した。しかし、自分がしたこと、手紙に書いたことを思い出し、深くため息をついた。もう、私にはあの子を恋しいと思う資格はないんだ。母親の資格はないんだ。元気にしてるだろうか。ミルクをちゃんと飲んでるだろうか。

 そろそろ実家の両親も、赤ん坊がいないことに気づくだろう。どう説明すればいいのかわからない。家を出よう。

 麻美は、荷造りを始めた。とにかく、姿を消そう。銀行通帳に300万ある。海外へ行こう。スマホで検索する。「一番滞在費が安い海外」。

 成田発台北行きの片道切符を予約した。


 成田から、朝9時発の台北行きに乗り込んだ。両親にも友達にも誰にも言わず、日本を離れることにした。赤ん坊のことも忘れられたら忘れよう。そのほうがいい。異国にいるうちに、気持ちの整理もできるだろう。

 機内に乗り込み、座席に座り、しばらくすると、隣の席に子供連れの夫婦が座った。台湾の人のようだ。軽く会釈して、窓の外をみていたが、子供の声が気になる。言葉は通じないだろう。途端に桃香が恋しくなった。飛行機を降りたい衝動に駆られる。しかし、我慢した。

 客室乗務員が荷物を仕舞い回っている。通路は人の行き来で塞がっていて、とても今から降りられる状態ではない。麻美は深いため息をついた。

「台湾で一体何しようか?」

しばらく考えてみた。宿も決まってない。スマホでエアービーアンドビーを予約する。台湾を観光しよう。美味しいものも食べたい。

そんなことをしている間に、桃香のことも吹っ切れるといい。

 台湾グルメをネット検索しながら、飛行機は離陸体制に入った。ゆる〜い旅がしたい。私、ちょっと疲れているみたいだ。

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