第3話 インテリアの趣味はクソ

‪✂︎‬


「金髪の兄ちゃん、どう思う?」

「死ぬに百円」

「殺すに百円」

 応接用のソファでくつろぐ男達は、完全に息吹で遊んでいる。

 身体を変な縛り方で拘束された四葩よひらは、床に転がって話を聞くことしかできない。

「百円って小学生か」

「だって賭事弱いもん」

「派手に金つかうと藪枯やぶがらしさんに殴られるもん」

「もん、じゃねーよ髭面共が気色悪い」

「やだあ。髭面に言われたあ」

 ははは、と野太い笑い声が響く。ガラの悪い連中の割に和やかな雰囲気だ。掃除屋ってこんな感じなんだなと厳粛なイメージがどんどん溶けていく。

 盛り場で掃除屋から逃げようとしてボコボコにされた身体中が痛い。顔も痛い。

 好奇心でブレンドドラッグなんて飲むんじゃなかったな。身体から墨汁みたいな血が出るなんて。でもまあ、親じゃなくて息吹を呼んで正解だった。あいつラッキーボーイか? 処分免除ってラッキーすぎるだろ!

 息吹が戻ってきたらジュースでも奢ってやろう。あーあ、早く帰りてえな。

「おーい、おやつ買ってきたぞ」

 事務所のドアがギジリと開いた。藪枯と呼ばれる中年が居ないと思ったが、コンビニに行っていたらしい。

「わあい! プリンだあ!」

「生クリーム乗ってるやつがいい!」

「待て待てジャンケンだ!」

 本当に小学生のような大人だ。煙草をつまみにプリンを食べる様子を床から何気なく見ている四葩に、藪枯がずいと近づいてきた。

「おい、生きてるかピンクの兄ちゃん」

「……生きてるっす」

「痛むか? 殴って悪かったよ」

 労わるように頬を撫でられて若干引いた。

「もう、日付け変わっちまったな」

 問いかけの意図が分からず首を傾げると、

「時間切れだ」

 黄ばんだ歯を見せられ、軽々と持ち上げられた。お姫様スタイルの抱っこに最早羞恥など感じず、時間制限については言われていないと喚いた。

「そんなの、オジサンの気分で決まるもんだろ」

 圧のある口調に、四葩は大人しくするしかできなかった。


 連れて行かれた奥の部屋には小汚いベッドが一つあり、パイプ椅子が乱雑に置かれている。インテリアの趣味はクソで、男二人で蒸し暑くなる程度には狭くて暗い。そして生臭い。顔をしかめた四葩はベッドに投げ出され、藪枯の妙に優しい手つきで縄を解かれた。

 やっと解放されたと息をついた途端、今度はベッドの装飾だと思った手錠に繋がれ、結局不自由になってしまった。

「まずは、やっぱノコギリだよなあ」

 まさか、壁に掛けてある道具もインテリアではないのか。生臭さの正体が分かった気がして吐き気がしてくる。

「脱がすぞ?」

 再び藪枯の妙に優しい手つきで、ボタンを外されていく。腕が繋がれているため上は中途半端だが、下は無修正の姿になった。

 腹部に錆びたノコギリがひた、と置かれる。

「まっ、まって! まって! うそだろ! やっ──」

 四葩の叫びが止まったのは、物理的に口を塞がれたせいだった。藪枯の顔が目の前にあって、生温い感触が口内を這い回っている。状況を飲み込めずにいるうちに腹部に激痛が走った。

 声にならない叫びが、狭い部屋に充満する。藪枯の下品な笑い声が重なって、汚いハーモニーになった。

「イイ声で鳴くねえ! おい、まだ飛ぶなよ? おたのしみはこれからだ」

 ぼやける視界で、何かを腕から注入されたことが分かる。何だか心地良い。臓物がふわふわ舞い踊って温かな楽園に向かっていくような感じ。ブレンドドラッグを初めて飲んだ時の何倍も心地良い。涎を垂らしながら蕩けた顔を晒していると、腫れたままの頬を再び殴られた。まるで楽園の手前で引き戻されたかのように、頬の痛みと共に腹部の傷口がじくじくと痛みを与えてくる。

「あーあ、そんな可愛い顔しちゃってよお。たまんねえなあ」

 手錠を外されたかと思えば、うつ伏せにさせられ、伸びた猫のように腰元を持ち上げられた。

 ベッドが二人分の重みで軋む。ギシギシとテンポのいいリズムが刻まれる。

 四葩の意識は、そこで途絶えた。

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