3-10 夫婦共闘
会談当日の朝、アメリアは動物たちと会話していた。
「皆、大丈夫?無理して全員出なくても良いのよ?」
≪アメリア様、止めても無駄よ。全員戦闘モードに入っているわ≫
≪敵ヤッツケル!!帝国ヤッツケル!!≫
白虎のナターシャが呆れたように言い、カラスのモナカが血気盛んに叫んだ。
≪私達みたいに、無理やり魔獣にされた動物を助けたいの!≫
≪成長した俺がアメリア様に恩返しするんだもんね!≫
ウサギのフレーズが足をダンダン踏み鳴らして言った。その横でミントは、生えかけのツノをぶんぶん振っている。
≪アメリア様サラッタ!帝国許セナイ!!≫
黒トカゲのオリーブもふんふんとやる気満々で、アメリアの肩に擦り寄った。
「皆の気持ちは、よく分かったわ。でも、約束して。怪我を負ったらすぐに私の元に帰ってくること。決して無理はしないこと!すぐに治癒するからね」
≪了解!!≫
全員が純粋な心でアメリアの味方をしてくれている。今日が無事に済めば良いと、アメリアは心から願った。
♦︎♢♦︎
とうとう会談の時刻だ。予想通り、魔獣軍が進軍してきた。
「国境線を越えた!かかれ!!」
並び立った騎士が一斉に弓矢を構えると同時に、アメリアは一気に魔力を込めた。カッと眩い光が辺りを包み込み、動物たちが巨大な神獣となって君臨した。
向こうの軍隊は神獣の出現に驚き、隊列を乱している。レオンは叫んだ。
「オリヴィエを捕らえてくる!」
「行ってらっしゃい!」
アメリアはカミーユの守護に守られている。
魔獣と神獣の差は、歴然だった。
向こうの魔獣は意志を失って暴れているだけ。こちらは理性があって統率が取れている上、一回りも二回りも巨大なのだ。
白虎のナターシャが地面を蹴って飛びかかり、その度に辺り一帯を制圧する。
ウサギのフレーズは天高く飛翔し、その足で敵を一蹴した。
シカのミントは立派に発現した巨大なツノを振り回して暴れている。
そしてカラスのモナカと黒トカゲのオリーブは空中を制し、次々に魔獣を墜落させていった。
神獣たちが作った大きな隙を狙い、騎士団は次々と解毒の弓矢を命中させていく。
その下で向こうの軍隊に、直接切り込んでいった。
帝国軍の魔獣は五十近く居たようだが、アメリア達はあっという間にその数を減らしていく。帝国の人間の軍隊はその様子を見てパニックを起こし、慌てて撤退していった。
「すごい!圧倒しちゃったわ」
≪正義の勝利よ!≫
≪帝国、大シタコトナイ!!≫
神獣たちは怪我も負わず、勝利の雄叫びを上げていた。
♦︎♢♦︎
「あはははっ…………はははっ!!何ですかあれ!!はあ…………馬鹿馬鹿しい…………!!」
「オリヴィエ!!」
オリヴィエはすぐにレオンの前に転移してきた。神獣たちを見て狂ったように笑っている。
「せっかく俺が…………この役立たずの
「オリヴィエ!お前のやっていることは非道だ!それが分からないのか!!」
「分かりません……分かりませんよ!!」
オリヴィエは炎の翼を纏い、ごうっと襲いかかってきた。
「
バケツをひっくり返したような雨と風を起こし、レオンはそれを押し返す。風に乗って飛び上がり、オリヴィエに斬り込んだ。
「くっ…………!!」
「命までは取らない!大人しく投降しろ!!」
「お優しいなぁ!!」
オリヴィエが転移して、レオンに二撃、三撃と斬りかかる。全て読まれており、レオンは危なげなく受け止めた。
「
ギリギリとせめぎ合った刃ごと、あっという間に手を凍らせていく。オリヴィエは捕まる直前で転移した。
「これはどうかな!!」
オリヴィエの周りに無数のナイフが浮かび、全てがレオンを目掛けて飛んでくる。レオンは瞬時に氷柱を無数に生み出し、全て撃ち落とした。
「は…………?」
「終わりだ」
「
物陰に潜んでいた王国の騎士ジルベールが
すぐに騎士たちが駆けつけ、彼の両腕に魔術発動を妨害する枷を嵌めた。
オリヴィエは呆然として言った。
「は…………は…………?何で………………っ!!」
「…………」
「アメリア姫を拐かした代償を、俺に支払わせるんじゃないのか!?レオン……お前と俺で、決着を付けるんだろうが!?」
「そんなことは、誰も約束していない」
レオンは堂々と言い放った。
「お前を殺したら、アンリに怒られる!」
「はぁ…………!?なんで…………なんで、なんで、なんで、なんで!!!」
オリヴィエは半狂乱になって取り押さえられている。怒りのままに叫んだ。
「お前が居たから……!!お前が居たせいで、俺は補佐にしかなれなかった!!だから、お前より俺の方が優れているって……!!証明してやろうって…………そう、思っていたのに!!ここにきて一対一で戦わないと言うのか……!!何故、お前はいつもそうなんだ…………!?」
「そんな感傷は不要だ」
レオンはくるりと背を向けて、最後の言葉を告げた。
「俺は、お前のことを信頼してた」
「…………っ!」
「だからこそ、怒ってる。お前の言い分に付き合ってやる義理はない。お前を捌くのは、王国の役目だ」
ぽつりと呟く。
「さようなら、オリヴィエ」
離別の挨拶が届いたのかどうかは、分からない。
後にはオリヴィエの、狂ったように泣き叫ぶ声だけが響いていた。
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