3-7 決着をつける
アメリアが助け出されて三日後、アンリがレオン夫妻を訪ねてきた。人払いをしてから、彼はレオンに言った。
「一ヶ月後、帝国と和平のための会談をすることが決定した」
「何だと……?アメリアを
レオンの顔は、一瞬で怒りに染まった。アメリアが落ち着けようと、その背を撫でる。アンリは至極冷静に言った。
「多分、向こうは和平を結ぶ気なんてさらさらない。この会談の裏で、戦いを仕掛けてくるだろうと思っている」
アメリアは青くなった。それは大変なことだ。戦争が起こるかもしれない。
しかしレオンは、強い口調で言った。
「戦争にはさせない。国境線は越えさせない」
アンリは大きく頷いた。彼もそのつもりらしい。
「会談には、俺とアルフレッドが臨む。向こうも皇太子と外交官が来るからな。勿論、アルフレッドもやる気満々だから、舌戦の方は任せろ。剣での戦いは、お前に任せる」
「ああ、お互い頑張ろう。オリヴィエのことは俺が絶対に倒す」
レオンは燃えている。オリヴィエとは因縁がありすぎるため、ここで決着をつけたいのだろう。
それからアンリは、気遣うようにアメリアに言った。
「神獣たちを使った戦いをどうするかは、アメリア様に任せますが……あくまでも、動物たちの意思をよく確認してください。ただ、相手は間違いなく魔獣軍を使ってくると思います。神獣であれば、こちらも対抗しやすいことは確かです」
「ええ、わかりました。動物たちとよく話します」
アメリアは頷いた。
最後にアンリがまとめる。
「とりあえず、会談までの一ヶ月は平和だろう。アメリア様をよく休ませて、気にかけてやれよ、レオン」
「ああ、分かってる」
♦︎♢♦︎
その夜、食後のお茶の時間。レオンはアメリアの手を取って、決意を固めた眼差しで言った。
「俺はやっぱり、前線に出るよ。将軍として後ろに控えているのが重要だと言うことも、良くわかっている。だけど俺は……君を攫ったオリヴィエのことを許せない。あいつを直接倒したいんだ」
「わかったわ。そういうことなら、私も一緒に前線に出る」
アメリアが言うと、レオンは驚いた顔をした。
「動物たちが皆、やる気満々で戦いたがっているの。今日、皆の意思を確認したのよ。私が彼らを指揮するわ」
「アメリア。俺は本当は、君を危険に晒したくない。……それでも、君も出たいか?」
「ええ。もう、あなたを一人では行かせないわ」
アメリアは強い意思を込めて、そのトパーズの瞳でレオンを見た。
「…………君には、敵わないな。確かに神獣はものすごい戦力になる。そして彼らが戦うには、君の存在が不可欠だ……」
「ええ。もう、貴方が戦うのを見ているだけなのは、絶対に嫌なの」
「わかった。俺はアメリアの意思を尊重する。その代わり……君のことは必ず守るよ」
「我儘を聞いてくれて、ありがとう」
アメリアはレオンの逞しい首に抱きついた。レオンは目を細め、愛おしそうにアメリアを見ていた。
♦︎♢♦︎
翌日、アメリアはテオとジゼルの研究所を訪ねていた。机の上に、それぞれの動物用の神獣化のためのアイテムが並べられている。
「あと少しだ。なんとか全員分、揃いそうですよ」
テオが言った。アメリアは頭を下げながら言った。
「今回はこのアイテムのお陰で、間一髪で助けられたわ。本当にありがとう」
「良いんですよアメリア様。このアイテムは趣味の産物みたいなものなので。お役に立ててよかったです」
「アメリアが無事で、本当に良かったわ…………」
ジゼルはアメリアにひっついて、先ほどから泣いている。よほど心配してくれていたようだ。アメリアはその涙をハンカチで拭った。
「ジゼルがずっとこんな調子で。その方が、大変だったくらいです」
「ジゼル、心配してくれてありがとう」
「アメリアぁ……!!」
ジゼルの頭を撫でる。
アメリアは神獣化のアイテムについて、また話を振った。
「それにしても、こんなもの作るなんて……テオは本当にすごいわ。動物たちも心身に負担がないようで、喜んでいるのよ」
「それなら良かったです」
「これはまた、陞爵級の発明品ね?」
「いやあ、今回は動物たちを守るために、色々と制約をつけているし。貴族たちには秘密なので、功績にならないんですよ」
「まあ」
アメリアは驚く。テオはなんと無欲な人物なのだろう。横からジゼルが言った。
「この通りよ。今回は隠して、おもてだった功績にはしないんだって」
「趣味だから、いーんだよ」
「テオったら、名誉欲とかがすっぽり抜けてるから。まあでもそんなところも素敵なんだけど。大好きよ!テオ!!」
「はいはい、ありがとなー」
ジゼルをいなすテオの耳は、少し赤くなっていた。ここも相変わらず仲が良さそうで、アメリアは安心した。
勝負の会談は一ヶ月後。
それまでしばし平和な時を過ごすことになるだろう。
動物たちとの訓練を頑張ろうと、アメリアは気合を入れた。
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