3-4 ウェディングドレスを着て

 それからアメリアは毎日、魔獣の深層心理にアクセスする訓練を受けさせられた。


 ――どこ。

 ――どこにいるの。

 ――ああ、ここにいた。

 ――お手、して。良い子…………。

 ――わたしは…………………………………………。

 

 ビリビリビリッ!!!

 

 身体中に痛みが走った。意識が希薄になると、身体に電流が流されて起こされるのだ。


「…………っ!!」

「ふむ、やはり外的刺激による覚醒が一番効率的ですね。本来なら鞭打ちで良いんですけど、体に傷をつけないよう言われていますからね……面倒だな」

 

 電流を流されるのは、とても痛い。潜っては電流、潜っては電流。この繰り返しだ。オリヴィエは容赦がなかった。アメリアの神経はどんどんすり減っていった。


 一日に潜れる回数には上限がある。訓練が終わると、いつもぽっかりと時間が空いた。

 アメリアはぼうっと過ごしているように見せかけて、外にいる動物たちの心にアクセスし、SOSを飛ばしていた。


≪アメリアは、タンザ帝国の宮殿に閉じ込められている。助けを求めている。ミストラル王国のヴァレット公爵邸にいる、ナターシャに伝えて。どうかお願いよ≫

≪ワカッタ≫

≪ココ、東の一番タカイ塔ダヨ≫

≪ありがとう!その場所も伝えてくれる?≫

≪ワカッタ。俺、行ッテクル≫

≪ありがとう、お願いよ……≫

 

 小鳥たちの言葉が聞こえて勇気づけられる。ナターシャはお利口なので、アルファベットを指差して人間に言葉を伝えることができるのだ。きっとレオンにSOSを伝えてくれると思った。


 結婚式は間近だ。アメリアはもう既に、覚悟していた。レオンは絶対に来てくれる。

 それまで生きる。

 例え、どんなに屈辱的なことがあっでも。この身が犯されたとしても。――――レオンを信じて死なずに生きると、決めていた。

 もう一度、レオンに会うために。



 ♦︎♢♦︎

 

 辛い毎日はあっという間に過ぎた。今日はとうとう結婚式の日だ。

 アメリアは牢屋の部屋で、飾り付けられ、ウェディングドレスに着がえさせられていた。

 

 アメリアは鉄格子の外にある鏡で、ウェディングドレスを着た自分を呆然と見た。

 まるで鳥籠だ。


 生きることは決めている。レオンが来るまで。生きると決めたけど、でも――――レオン以外の男に、それもあの男に犯されるなんて、本当は死ぬよりも苦しい。

 

 望まない結婚式を迎える自分を見て、アメリアはぽろりと一筋の涙を零した。


 ――――しかし、その時、声が聞こえた。


≪アメリア様、迎エニ来タ!!!≫


 アメリアが不自然にならない程度に振り返ると、鉄格子の隙間からするすると入ってきたのは、アメリアが先日助けた黒トカゲのオリーブだった。それに、足に小さな指輪のようなものを嵌めている。


≪オリーブ!!来てくれたのね!!≫


 アメリアは人間には聞こえない言葉で話した。

 

≪アメリア様、俺アメリア様に助ケラレタ。ダカラ今度ハ俺ガ、アメリア様助ケル≫


 オリーブはしゅるりとアメリアの足元に来て、じっと見て言った。


≪テオトジゼル、アイテム作ッテクレタ。オレ魔獣ニナレル。アメリア様、指輪ニ魔力コメテ≫ 

≪魔獣に……!?オ、オリーブは大丈夫なの……!?≫

≪大丈夫。信ジテ!!≫


 アメリアは大きく頷いた。しゃがんで指輪に魔力を込めていく。すると辺りは突然、眩い白い光に包まれた。


「一体何事だ!?」


 衛兵たちが騒ぎ立てる。そこに現れたのは、一匹の――――真っ白なドラゴンだった。

 前に魔獣化したときとは全然違う。

 理性的な目は青く、意思疎通もできそうだ。神獣、とでも呼べば良いのだろうか?


≪アメリア様!乗ッテ!!サア早ク!!≫


「うん!!」


 アメリアはウェディングドレスのまま、躊躇ためらいなくドラゴンに乗った。翼がバサリと広げられ、彼の腕の一撃で王宮の壁が派手に大破される。


「アメリア姫が逃げるぞ!!」

「追え!!」

 

≪行クヨ!!≫


 ドラゴンになったオリーブは、壊れた壁から飛び立って、天高く飛翔した。

 アメリアは、鳥籠から脱出したのだ。

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