閑話 ミリア・シェーン
私はミリア・シェーンと申しますわ。これでも一応、子爵令嬢なんですよ。家はとっても貧乏ですから、弟たちの学費のために、幼い頃から働かないといけなかったんですけどね。
ああ、マリア・シェーンは私の双子の妹です。まあ私たちは二人で一つなので、そんなに区別せずとも良いですわ。マリアの方が、少し強引なところがあるくらいね。
私たち双子は、幼い頃から王宮に出仕していました。王宮というのは、女と女の泥沼の争いの場。使用人同士の嫌がらせや虐めなんて、日常茶飯事でございました。
その中でも最たるものが、姫同士の派閥争いでしょうか。今私たちが支えているアメリア様の、四人の姉たちは、それはもう気が強くて。それぞれに、我儘放題でございました。全員、パッと見て分かりやすい美人ではありましたけど、それだけですわ。人間、中身が顔に出るものですから。
私たち双子はそれらの姉のうち、一人についていました。毎日無理難題に応えながら、あくせく働いておりましたの。
末姫のアメリア様は、しっかりと磨いて飾れば、他の誰よりもとびきり美人になるに違いないと……その頃から、常々思っておりました。
姉たちと違って父や兄に似て、優しくおっとりしたお姫様。優しいが故に使用人には放置され、とてもお可哀想だったわ。
いつかアメリア姫を飾ってみたいと思っていたけれど、その時はどうしても叶わなかったのですよね。
そんなドロドロの修羅場、王宮への出仕に疲れていた頃ですわ。レオン様に代替わりしたヴァレット侯爵家で、腕利きのメイドを募集していると、大層噂になりましたの。私たちはすぐに食いつきました。お給金だって破格で、王宮への出仕と大差ないくらいだったのです。
応募には、同じような境遇のメイドが殺到しておりました。だけど、面接の最後の質問で、レオン様は変わったことをお聞きになりました。「王家に五人いる姫の中で、誰が一番可愛いと思うか?」と聞かれたのです。
突然の質問、しかもかなり不敬とも言える内容でしたが、私とマリアは即答しました。「ダントツでアメリア姫です」と。だって、ずっとずっと思っていたことだもの。レオン様はすぐに私たちに歩み寄って、握手を求めてきました。そうして、私たちは即採用されたのですわ。
やっと迎えたアメリア姫――――奥様と過ごす日々は、夢のようです。毎日がとても充実していて、楽しいんですよ。
まずは朝。ベルが鳴ったら出来立ての朝食を、お二人の寝室へとお運びします。
「おはよう」
「おはようございます!」
まだとろりとした奥様は、多分沢山睦み合った後ね。大変可愛い顔をしていらっしゃるので、すぐに分かります。大体お二人はくっついて過ごされるので、朝食を寝室で摂られることが多いんですよ。
お二人が食事を摂っている間に私たちは、動物たちに餌をやります。ここのお仕事の、特別なやりがいの一つですわね。
もともとペットだった虎のナターシャの他、保護されてきた動物たち。とっても可愛いんですよ。奥様がきちんと病気の対策をして、人に慣らしているから、安心してモフモフできますの。皆賢くて、とても良い子たちよ。
レオン様が家を出たら、大切なお仕事の始まりですわ。私たちはアメリア様をすっかり洗い、マッサージして、磨き上げます。ルビーのようなお髪も必ずパックして、更に艶々にしますわ。
「うふふ。今日も仲良しでいらっしゃいますね」
「うう。恥ずかしいわ……」
こういう時の奥様は、大体キスマークだらけですわね。旦那様の重い愛が見え隠れしていて、微笑ましいわ。
奥様の肌は、もちもちでスベスベ。弾力があって吸い付くようで、ものすごく触り心地が良いんですよ。所有印をどこまでも付けたくなる、旦那様の気持ちも良くわかるわ。
磨けば磨くほど光る玉の肌を維持するのは、私たちの重要な任務。こんなに仕事にやりがい感じることって、他にはないくらいだわ。
しかも奥様はいつも、とっても可愛い笑顔でありがとう、って感謝してくれるんです。奥様が優しいから、使用人にはいつも笑顔が溢れていますの。王宮で働いていた頃とは大違いね。
昼食を摂った後は、アメリア様は公爵家の女主人としての仕事をこなされます。食糧備蓄の手配だったり、領地から出た依頼への対応だったり、やることは多岐に渡ります。領地運営は主に、領地にいる大旦那様と大奥様がやっておられます。しかしアメリア様は自らの希望で、既に仕事の一部を割り振ってもらい、勉強しているのですわ。さすがです。主に家令のジャダンに習いながらやってらっしゃるのですが、奥様は随分と物覚えが早いようです。
空いた時間は奥様が庭に水をやるのを手伝ったり、一緒に花を摘んで生けたりもしますね。奥様が来るまでの間も、奥様が過ごしやすいよう沢山準備はしていたけれど……やっぱり本物が来てから、侯爵邸はパッと華やぎました。大奥様と大旦那様が来た時も、それはもうびっくりしていらしたわ。
「今日はフィナンシェを焼いてみたの」
「奥様!素晴らしいです。旦那様も喜ばれますわ」
「ふふふ、皆も食べてね?どうぞ」
一日の仕事が終わると、奥様はこんな風に、手作りのお菓子を振る舞ってくれることも多いんですよ。見たこともないような美味しいお菓子や、綺麗なお菓子が振る舞われることもあるわ。中でもマカロンは、この世で絶対に天下を取れると思ったわね。奥様にその気はないようなので、これは侯爵家の使用人だけの楽しみですわ。
あとは旦那様の帰宅まで、奥様は動物たちの面倒を見たり、縫い物などをして過ごされます。私たちは奥様が過ごしやすいように身辺を整えながら、動物たちのブラッシングを手伝ったりするんですよ。
奥様は、旦那様がどんなに遅くなっても、必ず待っていますわね。こういう健気なところが、旦那様の心を掴んで離さないのでしょう。
「ただいま」
「レオン、おかえりなさい!」
旦那様がお帰りになった瞬間、パッと華やぐ奥様の表情はとっても魅力的ですわ。私の楽しみな瞬間のひとつね。
旦那様が買ってきた花を奥様が活けたら、すぐに夕食です。旦那様は基本的に無表情だけれど、奥様にはデレデレしているのが丸わかりですわよ。
お二人は今日あったことなどを、楽しそうにお話されて過ごします。主に奥様が喋って、旦那様は嬉しそうに相槌を打っておられますわね。
こうして夕食を終えると、あとの時間は旦那様のものですわ。食後のお茶を寝室にお出ししたら、邪魔者は退散です。
ああ、今日もよく働きました。適度な労働は体に良いものですわ!
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