2-2 魔獣騒ぎ再び
≪レオン、オソイ。アメリア、ゲンキナイ…………≫
≪レオン様が遅いと不安よね。アメリア様≫
カラスのモナカと白虎のナターシャが、アメリアに擦り寄ってきた。彼女の元気がないことを、とても心配しているのだ。
「ごめんね、二人とも。魔獣騒ぎがまた再発しているから、遅くなるのは仕方がないのよ」
一度落ち着いた魔獣の発生は再発し、最近は毎日のように事件が頻発している。しかも何だか、騎士団は以前よりも手を焼いているようなのだ。アメリアはとても心配だった。
≪レオン、カエッタ!!アメリア!!≫
「ありがとう!」
モナカが窓を見て言ったので、アメリアは駆け出した。今日は随分遅いので、気を揉んでいたのだ。パタパタと玄関の大階段を降りていく。レオンは随分疲れた様子だが、怪我はないようで安心した。
「お帰りなさい!レオン」
「アメリア、ただいま……。遅くなってごめん」
「謝らないで」
「でも、今日は花束も買えなかったんだ」
アメリアはふわっと微笑んで、レオンの首にぎゅっと抱きついた。
「レオンが帰ってきてくれたら、それだけで良いの」
「アメリア…………」
レオンがアメリアをぎゅっと抱き締め返す。まるでその存在を確かめるように、力強く引き寄せられた。
「アメリア。……実は君に、騎士団への同行要請が出ているんだ」
「私に?つまり、
「そうだ。でも、俺は君に無理して欲しくはない……」
「魔獣の件は、私も気になっていたの。同行させてもらうのを、こっちからお願いしようかと思っていたくらいなのよ。私で助けになれるなら、喜んで行くわ」
アメリアが柔らかい声で諭すように言うと、レオンも頷いた。
「助かる。魔獣の様子がおかしいんだ。実は、再発してからまだ一度も杭を抜けていない。今日の魔獣も……苦戦して、結局倒してしまった」
「そうなのね……。様子が変わったの?」
「明らかに凶暴化している。初めから激しく攻撃してくるから、民間への被害も広がっているんだ」
「心配ね……。私が魔獣の心を読んでみれば、何か分かるかもしれないわ」
魔獣にされているのは、罪のない動物たちだ。まだ助けられる可能性がある。アメリアが意思疎通できるならば、その方が絶対にやりやすい。同行することに迷いはなかった。
その日は疲れ切ったレオンの頭を撫でながら、眠りについたのだった。
♦︎♢♦︎
翌日、アメリアは早速騎士団へ同行した。一室を借りて待機していると、午前中に早速呼び出しが掛かった。
「アメリア、魔獣が出た」
「すぐに行くわ」
レオンに直接呼び出され、立ち上がって駆け寄る。現地へは、魔術師のオリヴィエに転送してもらった。景色が変わったところで目を凝らすと、かなり先に魔獣が飛び跳ねているのが見えた。畑の上で暴れていて、野菜や道具がグチャグチャに壊されているようだ。
「ひどい……」
「ウサギ型の魔獣だ。アメリア、君はカミーユと同行してくれ。彼は
「カミーユと申します。宜しくお願いします」
「ええ。どうか宜しくお願いします」
カミーユとレオンに挟まれて移動する。射程圏内に入ったので、アメリアは
「
≪――――――…………――――――――………………………………≫
「……ダメ。何も読み取れないわ!まるで心が隠されているみたいに……一切、何も聞こえない!」
「そうか……。アメリア、君はカミーユから離れないでくれ。俺は行く」
「気をつけて!」
騎士たちは、次々に魔獣に向かっていった。しかし魔獣の脚力で、滅茶苦茶に蹴散らされていった。魔獣はひどく興奮している様子で、とても凶暴だった。
怪我をした騎士たちが次々と前線から下がってきて、治癒魔術を受ける。アメリアも治癒の魔術だけは使えるので、持ってきた杖で手伝いをした。
戦況を見たレオンが、鋭く指示を飛ばした。
「このままでは埒が明かない。俺が直接出る!待機場所に追い込め!オリヴィエ、転送の準備を!」
「はい!」
「タイミングを見計らって、真上に飛ばしてくれ!」
レオンが前に出ながら、
「
空高く掲げたレオンの剣が、黄金の雷撃をまとった。
騎士たちは連携して、魔獣を追い立てていく。その中でもオリヴィエは
「ギヤアオ!!!」
「はあっ!!」
魔獣から繰り出される足技を、レオンは剣で受け止めた。一撃、二撃、三撃と打ち合い、するどい爪を受け止めたところで叫ぶ。
「今だ!」
「転送します!」
レオンの姿が消え、魔獣の真上に現れる。そのままくるりと一回転し、レオンは剣を魔獣の背に突き立てた。
「ギイアーーーッ!!アアアアッ――――――!!!」
「麻痺させた!拘束しろ!」
「
レオンが叫んだ。すぐにジルベールが
「ぐぐぐ…………っ!!」
「おおおお…………!!」
杭はかなり深く刺さっており、少しずつしか動かない。騎士たちは顔を真っ赤にして、杭を引っ張った。
「もう一回!!」
「ぐぐぐぐ…………ぐ!!」
「うおおお……!!」
「……もう一回だ!!」
そうして長い時間をかけて、ようやく杭が抜けきった。その瞬間、ドッと騎士たちが沸いた。
「抜けた――――!!」
「やったあああ!!」
貴重な手掛かりである杭には、すぐに保存の魔術がかけられる。魔獣はしゅるしゅるしゅる、と小さなウサギに戻っていった。怪我だらけでひどい状態だ。
オリヴィエがすぐに治癒の魔術をかけ、あとはアメリアが引き受けた。適切な応急処置を施していく。ウサギは弱りすぎて、今は話せないようだった。回復した後で、話が聞ければ良いのだが。
「杭の現物保存、できました!」
「よくやった。…………返しが、ついているな」
「本当だわ。ひどい……。術式も、前より複雑そうね……」
レオンの隣に行って杭を見れば、返しがついており、抜けにくいように工作されていた。道理で手こずったはずだ。アメリアが隣で観察する。杭に描かれた紋様は、前のものよりもずっと複雑だった。
「ううん。術式はやっぱり、同じ地域のものね」
「俺も同じ見解だ」
「それにしても……私、全然役に立てなかったわ……。ごめんなさい……」
しゅんとしてアメリアが謝ると、レオンがするりと頭を撫でた。
「アメリアが謝ることじゃない。敵が、それだけ対策をしてきたということだ」
「そうね……」
「あとでウサギに話を聞いてほしい。それで十分だよ。それに、今日はやっと杭を現物保存できたから、分析にかけられる」
「どうやって分析するの?」
「こういうのは、錬金術師の領分だ」
レオンは真面目な顔で一つ頷いて、言った。
「国一番の錬金術師に依頼をかける。テオ・クルーゾーだ。そして、その弟子、ジゼル・ココットにも」
こうして、騎士団を揺るがす魔獣騒ぎは、錬金術師たちの運命をも巻き込んでいくことになったのである。
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