1-4 結婚初夜

 アメリアはほぼ透けているナイトドレス一枚を着て、自分の体を覆うようにぎゅっと抱き締めた。大きなベッドの隅で、小さく縮こまる。恥ずかしすぎるので、電気は全部消させてもらった。


 ――どうしよう。どうしよう。どうしよう。


 アメリアは、レオンの恋を台無しにしたお邪魔虫である。どんなに乱暴にされたって、ぞんざいに扱われたって、文句は言えないだろう。

 初めてはものすごく痛いと聞くけれど、今日は一体、どれだけ辛い初夜になるんだろうか。それを考えると、ただただ恐ろしかった。

 

 そもそもレオンは、アメリアに欲情できるのだろうか。それも心配だ。

 胸は割と、大きい方だと思うが。でも、それだけだ。


 ――もしかして私のことを……ヒロインのジゼルだと思い込んで、抱くのかな。


 それは、なんだかとても……悲しいことだと思った。でも、逃げることはできないのだ。


「入るよ」

「はいっ!!」


 外からレオンの声がして、小さく飛び上がる。入ってきたその人の姿は……それはそれは、美しかった。

 少し濡れて張り付いた、薄い金色の髪。上気して赤みを帯びた、白磁の頬。バスローブから覗く胸筋は、騎士らしく鍛えられているのがありありとわかった。

 アメリアは一瞬恐怖も忘れ、ぽうっと彼に見惚れてしまった。その間にもレオンはどんどん進んできて、アメリアの横に腰を下ろす。腕と腕が、触れ合った。触れたところが、燃えるように熱い気がする。

 

 大きな手に掬われるようにして、固く結んでいた両手を取られる。アメリアの小さな両手は、レオンの片手にまるまる包まれてしまった。


「初夜だから、君を最後まで抱くよ」

「は、は、はい!」

「なるべく痛くないように、努力する」


 アメリアが目を白黒させている間に、それは早速始まった。レオンに、そっと口付けられたのだ。


「…………」


 ぼうっとなって目の前の人を見る。青い瞳は獣のようにぎらついて、アメリアを見ていた。


 ――今から抱かれるんだ……この人に。


 「ん…………」


 角度を変えて、もう一度。もう一度。だんだん速く、何度も唇を食まれるようにされる。キスってこんなに気持ち良いんだな、とぼんやり思った。

 レオンの手が伸びてきて、頭を優しく支えられた。


「鼻で息をするようにして」

「は、はい……」

「口、開けられる?」


 そこからアメリアはぼんやりしてしまい、ただ驚きと気持ち良いことの連続だった。一つ確かだったことは、レオンがものすごく優しく、まるで壊れ物に触れるかのようにアメリアを抱いたことだ。これはとても例外だった。そして、一等大切な物のように触れられながら、アメリアは思ってしまったのだ。


 ――こんなの、好きになっちゃう…………!!


 アメリアは疲れ切って、途中で意識を手放した。レオンが優しく微笑んでいたことだけは確かだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る