2-4 楽しい昼食会
アデルたち四人は薔薇園のテーブルに移動し、楽しく昼食を取り始めた。今日はお客さまを迎えているので、しっかりとしたコース料理である。
しかし、観戦で興奮しきったアデルは、話すのにすっかり夢中になってしまっていた。
「ユリウス、本当に格好良かったわ!転移って、まさしく瞬時に移動できるのね!それにあの空中での、攻撃の手数といったら!まるで剣舞みたいだったわ!!」
「はは、これでもかなり、はりきったんだよ」
ユリウスはその紅い目元を緩め、口角を上げて見せた。今日もとびきり甘い微笑みである。
「う〜わ、ユリウスが笑ってる。こわぁ…………」
アレックスは青ざめ、ユリウスの微笑みに怯えている。親友の目から見ても、相当レアなもののようだ。
「アレックスも、本当にすごかったわ!重力操作って応用の幅が広いのね!!動きが素早いのに攻撃が重いなんて、反則よ!それに、その魔法……集団戦でも、かなり使えそうよね?」
「良くわかるね。そうなんだよ。集団相手の時はまとめて相手の重力を大きくして、拘束できるんだぜ?……まあ、でもやっぱり、転移持ちのユリウスの相手をするのは流石に大変だけどな?」
「よく言う、俺と互角にやり合えるのなんて、騎士団の中ではお前くらいのものだろう」
ユリウスが呆れたように言った。確かに観戦していても、二人の実力は拮抗しているように見えた。
「二人とも、魔法操作の練度は勿論すごいけど、剣技自体も互角の実力に見えたわ」
「それは私も思ったわ。本当に良きライバルなんだなって」
エリーゼも同意して、頷いている。彼女も戦いを見て感動したようで、興奮気味だった。
「こいつはこう見えて、騎士団の中でも指折りの実力者だから」
ユリウスがアレックスを指差して言うと、彼は不敵にニヤリと笑った。
「こう見えて、は余計だけどな。俺たちは騎士見習いの頃から、ずっとライバルなんだよ」
「二人とも強い上に、珍しい魔法を持っているものね」
アデルは頷いた。『転移』も『重力操作』も、相当稀有なスキルである。他に相手になる者がいないのも、仕方のないことであろう。
「ちなみに、アデルとエリーゼの魔法は何なんだい?聞いて良ければだけど、教えてくれないか?」
アレックスがこちらに話を振ってきたので、アデルは軽く了承した。隠すほどのものではない。
「全然良いわよ。って言っても、私は『調合』だから全然珍しくないのよね……」
「アデルの『調合』の練度はすごいぞ。並の錬金術師では相手にならないだろう。『調合』を使って、一瞬でケーキを何個も作るんだ」
ユリウスが口を挟んだ。ひどく自慢げに話されると、何だか照れてしまう。アレックスは納得して頷いた。
「成程。ユリウスに少し話は聞いていたけど、『調合』を料理に使うっていうのは、珍しいパターンだよな」
「そうなの。でも、とっても便利よ?あとでケーキをご馳走するわね」
「嬉しいな。俺も実は甘いモノ、好きなんだよ」
隠しているけど甘いもの好き、という男性は意外と多いようだ。ターゲット層にしてもいいかもしれない。
ここで、横にいたエリーゼも食事を一段落させ、口を開いた。
「私の固有魔法は『ラストヒール』よ。使う場面のなかなかない魔法だから、ないも同然ね」
「『ラストヒール』だって?かなり珍しいじゃないか」
ユリウスとアレックスは驚いたようだ。無理もない。騎士団の治癒師にだって、この魔法を持っている者はほとんどいないだろう。
『ラストヒール』とは、致命傷を負った人、または死んだばかりの人を蘇生できるという、すごい魔法である。しかしその代償に、自分の寿命を削らなければならない。諸刃の剣なのだ。
エリーゼは肩を
「使わないけどね?私、治癒院で働いてるから。もし普段使いしてたら、あっという間に死んじゃう。キリがないもの」
「治癒院で働いているのか?」
アレックスは純粋に驚いたようだ。治癒院で働いているような奇特な御令嬢は珍しいので、無理もない。
エリーゼとアレックスは、そのまま会話を続けた。
「そうよ、いわばボランティアね。傷ついた人たちが治って行くのを助けるのが好きなのよ」
「偉いなあ。しかしそれなら確かに、『ラストヒール』は封印した方がいいな。死にかけの患者も沢山来るだろう」
「ええ。人の死には慣れているから、平気よ。もう、私に魔法はないものと思っているわ。身内が死にかけでもしない限り、『ラストヒール』は使わないと決めているの」
「それをお薦めするよ」
アレックスはしきりに感心している。アデルは心配になって、いつも言っているお決まりの台詞を言った。
「いい?エリーゼ、ほんとに、ほんとーうに、無茶しないでね?絶対、絶対、魔法は使わないでよ!」
それを聞いたエリーゼは、またかと笑っている。これはもう何度も繰り返したやりとりなのだ。
「全く、心配性なんだから。アデルは人が良すぎて、困ったところがあるでしょう?ねえ、ユリウス?」
「さすが、アデルの親友だな。アデルのことを良くわかってる。アデルはお人好しすぎるんだ」
「もう、そんなことないわよ二人とも!」
軽い調子でやりとりする二人。アデルは少しむくれてみせた。アデルはただ、親友が心配なだけなのだ。
と、そこでアレックスが改めて言った。
「それにしても、いやあ〜……。こんなに表情豊かなユリウスは初めて見たぜ。最初は鳥肌立ったもんな……」
「失礼な」
「ふふふ、ユリウスって結構顔に出るわよね」
アデルは笑う。もうすっかり、ユリウスの表情の変化が分かるようになった。ユリウスの親友であるアレックスにも、それが分かるようで嬉しかった。
「ううん、私にはまだ、あまりわからないわ……」
エリーゼがまじまじとユリウスを見て、困ったように言う。よくよく見ないと無表情・無感情に見えるから、仕方がない。
「ふふふ、最初はそうよね。でもこう見えて、ユリウスは分かりやすいタイプなのよ?」
アデルが手を口に当て、クスクス笑って見せると、ユリウスは少し照れた顔になった。その様子を見ながら、アレックスは心底嬉しそうにこう言った。
「ははは!分かりやすい、なんて言ってくれる素敵な女性と会えて、本当によかったな、ユリウス!友としては安心だぜ」
昼食の後は、特別にチョコレートを使ったショコラロールケーキを振る舞い、アレックスもエリーゼも舌鼓を打っていた。勿論ユリウスは言うまでもなく、幸せいっぱいの顔である。
「これは洋菓子店のオープンが楽しみだな。俺も常連になるよ」
アレックスが感動した様子で言う。常連客は大歓迎だ。
「暇な休日は、エリーゼにも売り子をしてもらう予定なのよ?」
「何だって?ものすごい美人がいるって、街中の評判になっちまうぞ」
「もう、そういうのいいわよ、アレックス」
笑うアレックス。エリーゼは呆れ顔だが、初めより大分、アレックスと打ち解けてきたようだった。
短時間でアデルたちは随分と仲良くなり、楽しい時を過ごしたのだった。
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