2-3 騎士たちの模擬戦
「すごい!二人とも、すごいわ!!」
「実力が拮抗しているみたいね……うわ、また打ち合った!見事な戦いだわ!」
公爵邸の庭にある訓練場にて。
エリーゼとアデルの二人は、アレックス対ユリウスの模擬戦を観戦していた。
剣と剣の激しい打ち合いが続く。ユリウスは魔法を使い、瞬時に姿を消した。瞬く間にアレックスの背後に現れ、両手に持った双剣で一度に二撃繰り出すが、アレックスは何とか体を捻って迎撃する。
「転移って本当に狡いわ。タイムラグも全然ないのね!」
「うん!私も見るのは初めて!!」
エリーゼが沸いている。アデルも手に汗を握りながら、夢中で観戦していた。
ゲーム『煉獄に咲く野薔薇』でも、ユリウスの二つ名は最強騎士であり、その戦力は唯一無二のものだった。彼の能力は、はっきり言ってチートだ。
その固有魔法は『転移』。このスキルを持つのは今、国内で一人だけ。大変稀有なものだ。
『転移』は、自分の認識できる座標ならば、任意に、タイムラグなしで移動できるというもの。転移先が離れているほど消費魔力が大きいが、その距離に制限はない。国の端から端まで、一瞬で移動することも可能だ。そして、例えば今みたいに相手の背後を取る程度なら、ほぼ消費魔力なしで操っているはずだ。
ゲームでは、第一王子派閥についてユリウスを仲間にした方が、攻略難易度が下がると言われていたほどである。彼のパラメーターは確か、「気配察知S、物理攻撃A+、素早さS、魔力量A」だった。数多くのキャラクターの中でも、ずば抜けて優秀な数値なのだ。お金を注ぎ込んだ『私』は彼をレベルマックスにして、季節イベントのランキングでも無双したっけなあ。
ユリウスは二刀流で、繰り出す攻撃の手数も多い。転移を使った空中戦をしながら、剣舞のような剣戟を繰り出すのだ。
しかしながら、こうして改めて生で見ると、迫力がものすごい。
ユリウスは文字通り、舞うように攻撃を繰り出し続けている。しかし、相手のアレックスも全然負けていないのである。お互いライバルと認識しあっているだけはあるようだ。
「おーおー、随分気合い入ってんじゃんユリウス!?これを、受けても……平気かなっ!?」
ガイン!
アレックスが大きく剣を振りかぶり、とてつもなく大きな音がした。
「っこの……馬鹿力め……!!」
攻撃を両手で受けたユリウスは、どうやら手が痺れたようで、転移で大きく距離を取った。顔を
「うわあ、アレックスは、攻撃が重いのね……!」
「さすが、『重力操作』持ちね」
アデルは大きく頷きながら言った。
アレックスの固有魔法は『重力操作』である。『重力操作』は、視認できる範囲内、任意の対象者、または対象物にかかる重力を操作できるというもの。今の攻撃は、剣にかかる重力を操作して重くしたのだろう。
このような重い攻撃ができる割に、自分にかかる重力を調節して立ち回っているので、随分とすばしっこいのだ。先ほどからジャンプの高さも異常で、ユリウスの繰り出す空中戦に対応して見せている。
アレックスのパラメーターは、「気配察知A、物理攻撃S、素早さB、魔力量A」だったはず。数値上ではユリウスに劣るものの、魔法操作の精密さで、そのハンデを潰しているように見える。さすがはメイン攻略対象と言ったところか。
「ユリウスは勿論すごいけど、アレックスも負けてないわね……」
「そうそう、ユリウスもアレックスも、ああ見えてパワータイプでね。私の前世の世界では『美しきゴリラ二人』って呼ばれてたのよ」
「う、美しきゴリラ……っ!!」
エリーゼはツボに入ってしまったらしく、俯いてぶるぶる震えている。お淑やかな見た目に反して、結構笑いのツボが浅いのだ。この世界ではゴリラは見たことがないけれど、エリーゼは転生者なので話が通じる。
ガキン!ガキン!!
そうこうしているうちに、また二人が空中で撃ち合い始めた。剣技の実力自体は、完全に拮抗しているように見える。
「同じ手が何度も通じるか!」
振りかざしたアレックスの二撃目を転移で交わし、また背後を取るユリウス。そのまま着地したアレックスの足を払う。アレックスはバランスを崩しながらも、すかさず重力操作をし、ユリウスの体のバランスをガクリと狂わせた。そのまま横なぎに剣を払うが、ユリウスは転移で避ける。
次の瞬間には――――倒れ込むアレックスの喉元に、ユリウスが剣を突きつけていた。
「一本!」
審判をしていた、公爵邸の護衛騎士の声が響いた。彼もかなり戦いに見入っていたようで、顔中汗だくだ。
「すごい!すごいわ、ユリウス!!」
アデルはユリウスに向かって、勢いよく駆け出す。ユリウスは少しだけ口角を上げて、こちらに向かって両手を広げた。思わずドンと突進するように抱きつくが、彼はびくともせずにアデルを受け止める。
「格好良かったわ!!」
「ありがとう」
「あー、お前、アデルの前だからって張り切りすぎ。殺気やばかったんだけど?」
「情けない姿を、アデルに見せるわけにはいかないからな」
「……素晴らしい戦いだったわ。アレックスも、お疲れ様」
後ろから着いてきたエリーゼがアレックスに手を差し伸べると、彼は大変良い笑顔になった。そのままその手を取り、キスを一つ落とす。
「麗しい君に勝利を捧げたかったんだけど……どうやら、仲睦まじい夫婦の当て馬にされてしまったようだね?」
「ええ、そのようね。残念だわ?」
二人がニヤニヤとこちらを見ていることに、はたと気づく。気づけばアデルとユリウスは、しっかりと抱き締めあっていた。
「ごっ、ごめんなさい!思わず!!」
「い、いや、俺こそ」
パッと距離をとって、お互いどぎまぎする。しかしエリーゼとアレックスの二人は、ニヤニヤした笑いをいつまでも向けてくるのであった。
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