美術品泥棒
泥棒のテディとバットは息を切らしながら街灯を突き抜けた。
そして人気のない路地へ入り込むとようやく膝に手をついて深呼吸した。
「兄貴、ここまで来れば大丈夫でしょう」
テディがそう言うと、バットは肩で息をしながら頷いた。
「ああ……それにしても今日は失敗だな」
「まさか美術館の警備があれほど厳重だったなんて」
テディが耳に手を当てて音を探る。
心臓に呼応するように警鐘を鳴らしていたサイレンはもう聞こえなかった。
「よし、アジトへ帰るぞ」
バットがそう言って路地をゆっくり歩き始めた。
「ああっ!」
突然素っ頓狂な叫び声が聞こえバットは振り向く。
すると、後ろをついて来ていたテディが服のポケットを探っていた。
「どうしたんだ?」
「まずいよ兄貴、美術館に手袋を落としてきちまった!」
思わずバットは顔を歪める。
「何てことしてるんだ、指紋を取られてすぐに身バレしちまう」
「どうしよう……」
テディは顎に手を当てて考えこみ言った。
「仕方ない、落とした場所は覚えているか?」
「たぶん近代アート展示室だと思う」
「よし、明日美術館に行って拾ってしまおう」
「わかった」
そうして次の日、テディとバットは美術館へと訪れた。
目的の近代アート展示室へ着くと、やけに人が混んでおり、何事かと辺りを見渡した。
すると、テディが落とした黒いゴム手袋が展示台の上に置かれており、その周囲には人だかりができていた。
一人の男性が目を輝かせながら、同行者に説明しているのが聞こえる。
「見たまえ、この不自然な配置!これは間違いなく消費社会への痛烈な批評だ!」
「ええ、言葉には表せないすごみがあるわ……」
テディとバットはひっそりと帰路についた。
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