伝説の車両
オマーリは大の鉄道好きだった。
そんなオマーリはとある情報を聞きつけ大都会の車両基地へと侵入していた。
赤々とした色合いと先端の尖ったフォルムからマニアからはレッドファルコンと呼ばれているそれは、80年間稼働し続け一度も遅延したことのない伝説的な車両なのだ。
「さて、一体どこに保管されているんだ?」
オマーリが辺りを見渡す。
しかし、お目当ての車両はなくさらに奥地へと進んでいった。
暗闇の中目を凝らしているとすぐ先に頭の尖った車両が目に飛び込んできた。
「もしかして!」
オマーリがそう喜んだ瞬間、真っ暗だった車両基地に突然光に照らされた。
「何をしてる!」
慌ててオマーリが振り向くと車掌帽を被った老けた男が立っていた。
「えーと……」
「ここで、何をしてると聞いているんだ」
逃げ場を失ったオマーリは潔く頭を下げた。
「ごめんなさい。でも一度でいいから触ってみたくて……」
「触るって何を?」
「この、レッドファルコンを」
そう言って車両に触れたオマーリは絶句した。
オマーリの知っている形はお目当ての車両そのものだったが、レッドファルコンを象徴する燦々と煌めく赤色はどこにもなく、そこには真っ白な機体しかなかったのだ。
思わず、オマーリは振り返って訊ねた。
「レッドファルコンは!?」
聞かれて、老けた男は訝しげに応えた。
「そこにあるじゃないか」
「確かに形は似てるけど、色が違うじゃないか!」
顔を真っ赤にするオマーリを見て、老けた男は得心して語りだした。
「最近の若いやつは知らないんだな」
「え……?」
「その車両の伝説はなんだ?」
話の根幹がつかめずオマーリは呆気にとられながらも言った。
「80年間一度も遅延したことがない……」
「その理由はな、一度も止まらなかったからなんだ」
「そんなの当たり前だろ?」
まだ、納得のいかないオマーリに対して、老けた男はため息をついた。
「その車両はここに保管される前に洗車されたんだよ」
オマーリは慌てて手を離した。
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