転職相談所

街のはずれにある転職相談所に訪れたカーティスは重い足取りで会談を登り扉を開けた。

扉の先にはこじんまりとした異様に静かなオフィスに1人の男がいるだけだった。

「いらっしゃいませ、本日はどうなさいましたか?」

「実は転職を考えていて……」

「なるほど、おかけください」

男が勧めるままに正面の机に座ると、男もカーティスの対面に腰かけた。

「今の仕事がもう限界なんです。最近の若手の扱いも大変で……」

「なるほど、それで転職をお考えと……失礼ですが、ご年齢の方は?」

メモにカーティスの情報を書きながら男が尋ねた。

「今年で35歳になります」

「35歳ですか。転職して一から始めるには少しリスクですね」

「はい、今の職場でももう少しで昇格も決まりそうなんですが、それでも今の職場には居続けたくないんです」

カーティスは訴えかけるように男に言う。

その姿にペンを止めて男は少し声を抑えてぽつりとこぼし始めた。

「実はここだけの話、とても良い転職先がありまして」

「良い転職先ですか?」

「あまり、言わないでください。実はすぐに転職できる上に副社長のポストも確約されているんですよ」

「すぐに副社長ですって!?」

素っ頓狂な声で反芻したカーティスに男は慌てるようなそぶりで人差し指を口元に置いた。

「どうですか? 今なら私の推薦ですぐに手配できますが」

カーティスは一瞬考えたが、今の職場に居続けるよりも変化が生まれると信じ首を縦に振った。

「わかりました。その職場を案内してください」

「ありがとうございます。それではこちらへ来てください」

男はそう言ってカーティスを机の向こう側へよこすと、机の前に座らせた。

そして、男は一人歩いてオフィスの一番奥にある大きなソファに座り込んでしまった。

カーティスの机には『副社長席』と書かれたプレートが飾ってある。

「……えっと?」

「カーティス副社長、次は部長を雇ってくれたまえ」

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