絶望はまだ深く
「ねぇ。貴方はなんで生きているの?」
カシアは単純な疑問を言いながらフェニの猛攻を難なく受け続ける。
「オイオイ、こいつ魔法使いじゃァねぇのか!?」
「…そのはずよ!」
ルナとフェニで攻め続けるが、
カシアには一度たりとも攻撃が当たらない。
それに、こちらもダメージを受けていない。
確実に、理由が知りたいだけだ。
「そろそろ教えてくれないと…」
「!?」
カシアは突然ルナに近付き、反応出来なかったルナは身動きを封じられ、地面に拘束される。
その首には、『グラディオス』を展開した。
「この子、殺しちゃうよ?」
「…外道が。」
フェニはさっきまでの明るい雰囲気は無くなり、軽蔑の視線を向ける。
「教えれば、離すのか?」
フェニはカシアを睨みながら、問う。
「理由次第かな。」
カシアは笑顔で言う。
その笑顔は、悪に満ちている。
「…『回復の呪詛』だ。」
『回復の呪詛』
それは、体に刻まれている限り永遠と回復を
続ける呪いである。
回復とは、単に傷だけではない。
老衰、疫病など、体を害す物全てに適応される。よって、擬似的な不老不死状態になる。
「…へぇ、嘘じゃなさそう。」
カシアは答えに満足したのか、ルナの拘束を解く。
「ルナ!」
フェニは手を伸ばす。ルナも手を伸ばす。
そして二人は手を取り合う。
が、ルナの手は切断された。
「……は?」
フェニは切られた手を持ちながら固まる。
「あァァァァぁぁぁァァぁ!!!」
ルナは手を切られた事による痛みで叫ぶ。
「うるさいな。」
カシアはルナの首を刺す。
ルナの目からは光が無くなり、静かになる。
「………テメェェェェ!」
フェニはカシアに斬り掛かる。
軽く弾かれた。
そして、壁に蹴り飛ばされる。
「ガハッ」
内蔵が潰れた。だが、すぐ治る。
体制を立て直せ。
それより、そんな事より、ルナだ。ルナは…?
カシアは笑顔でルナの死体を持ち上げ、フェニの方に向ける。
首からは血が垂れ、力も入っていない。
「あ、あぁ、あァァァぁぁぁ…」
フェニは膝から崩れ落ちる。目を手で覆う。
あんなの見たくない。
その手には血がついている。
ルナの、血が。
やっぱり、もう一度、ルナを見たい。生きている、ルナ。
「……フェ、ニ…!」
ルナの声がする。
生きてる、ルナだ。
「ルナ!待ってろ!今…」
「だめだよ。」
カシアは二人の間に入る。
ルナは倒れていて動けそうに無いので、
フェニが行くしかない。
「そこを…どけ!!!」
カシアに向かって殴り掛かる。
もう少しで当たる。
こんな悪魔、殴り飛ばしてやる。
拳に力を限界まで込め、踏み込む。
殴る直前なんて、相手を見るな。自分に集中しろ。直前まで、力を抜くな。
本気で殴られた相手は、家の壁を突き破って、
外まで吹き飛んだ。
怒りで我を忘れたフェニは、殴った物を見る。
カシアじゃ、ない…?
「……………は?」
殴った。確かに、当たった。感触もあった。
殴り飛ばした。しかしその先にいたのは、
顔を殴られ、倒れ込んだルナだった。
「………ゴボッ」
歯が折れたのか、口から血を吐き出す。
殴られたところには拳の形の痕がついていた。
「あぁーあ。好きな人を殴ったら、キラワレ
ちゃうよー。」
カシアはXを真似して、フェニの横で言う。
フェニは、よろよろと走って行き、
ルナを抱え込む。
「………あなたは、わるく、ない」
掠れた声でフェニの顔に手を当てながら言うルナ。とても苦しそうだが、精一杯強がっている。
「わたしは、いい、から、に、げて」
フェニはそれを無視してルナを地面に寝かせる。そして、家の中で座りながら傍観する
カシアを見る。
「………」
フェニはカシアに向かって歩き出す。
カシアは立ち上がり、フェニの方へ歩く。
そして、フェニが殴りかかると思った。
だが、フェニは床に頭を下げる。
「お願いします。どうか、ルナは見逃してやって下さい。」
カシアは顔から笑顔が消え失せ、完全に興味を失った顔をした。
「なんだ。貴方も結局、立ち直れないか。」
「ねぇX、私の仮説って間違ってたかな?」
カシアはまた誰かと話している。
今が、チャンスなのかもしれない。
「はァァ!」
床から完全に意識を逸らした状態での不意打ち。隠していたナイフをカシアの首目掛けて
刺そうとする。
だが、カシアはその手首を掴んで腕を折る。
「グガッ」
折った手を掴まれながら、ルナの方へ投げ飛ばされる。
「やっぱり、こういう人間は面白いね。」
そう言うとカシアは二人の所へ行き、
「さぁ、最後のお別れだよ。」
カシアは二人を向かい合わせ、言葉を待つ。
「「…………」」
お互い、静寂が流れる。
フェニが、口を開く。
「こんな、形で悪ぃけどな。」
目を閉じ、思い出の数々を思い出す。
とても、楽しかった気がする。
でも一緒に過ごすうちにいつしか、特別に思うようになった。
多分、こういう事だ。
「好きだったよ。」
そう言って目を開けた頃には、
ルナは死んでいた。でも答えは聞こえたのか、笑顔で死んでいる。
これで、心置きなく死ねる。
「ま、殺さないけどね。」
カシアはフェニの深い絶望を感じた顔を見て
満足し、そのまま国の外へと歩き出す。
「貴方の絶望は、まだ浅い。」
そうして、ただ殺されて行く国民達を見ながら、フェニはカシアを見送った。
「……どう言う事なの、X。」
現在カシアは、森へ逃げた三人に追い付き、処分しようといていた。しかし、
『すまんカシア。メイってやつは見逃してくれ。あの、緑色の奴。』
とか言ってきた。
カシアは理解出来ず、問い詰めたが答えてくれなかった。何とも、
『そりゃ、私の正体がバレるから言えないな』
らしい。
そんなこんなで、今三人の前に立っている訳だが、どうしようか迷っている。
「ちッ…追い付かれたか…!」
カンナは手に持っている杖を構える。
メルトスも地面からゴーレムを生成し、
応戦する体制に入る。
しかし、メイだけは後ろの方で見ていた。
「メイ!サポート頼んだわよ!」
カンナがカシアを見て言う。
彼女はメイを見ていないので、彼女が何もしていないのは見えていない。
「うん…!わかった!」
何となく、察しがついた。
なかなかに面倒だ。この二人は邪魔だな。
特にあのゴーレム使い。
「…はぁ。しょうがない。」
そう言うとカシアはメルトスのいる場所を
『空間魔法』で抉る。
カンナの隣に居たメルトスは、そこの空間ごと
この世界から消された。
「え…?なに?ちょっと、メルトス?」
カンナは辺りを見渡すが、姿は無ければ返事もない。
「ねぇ!どこ行ったの!?返事して!」
カンナは焦っているようで、展開していた魔法
の数がどんどん減っていく。
「すぐ終わっちゃうからつまんないんだけどな。『空間魔法』。」
そう言いながらカンナに近付くカシア。
「嫌だ!来ないで!」
カンナは前方に向けて魔法を乱発するが、
全てカシアに届く前に消え失せる。
「なんで…!なんでなのよ!」
ついには魔法の展開を辞め、走って逃げ出す。
やっぱり、こんな感じの時の人間は好きだ。
「メイ!お願い、援護して!」
カンナはメイの方へ走って行く。
メイは無言で一つの魔法瓶を渡す。
「ありがとう!これで…!」
一気に飲み干し、カシアの方へ向き直る。
その瞬間、倒れた。
「……………」
「………メ、イ…?」
「ごめんね。」
メイはそう言うと、カシアの前まで来て立ち止まり、膝をつく。
「親愛なる王よ。お待ちしておりました。」
「ユリ様から話は聞いております。」
カシアとカンナは理解できなかったが、
ここにはいない人物の声が聞こえる。
「長い間、ご苦労だったな。ラルクス。」
Xはメイ改め、ラルクスに話しかける。
「勿体なきお言葉、感謝致します。」
「しかし、何故ヒトの体に入っておられるのでしょうか…?」
ラルクスは疑問よりも怒りの方が強そうだ。
私が何かしたのだと思っているらしい。
「案ずるな。私が勝手にした事だ。」
「も、申し訳ございませんでした。」
「御身体の方にも、謝罪を。」
ラルクスは頭を下げる。
「な、なに、が…おこ、って…?」
カンナは毒が回ったせいで吐血しながらも
状況整理をしようとしていた。
「…グッ……ゲボッ……」
頭も回らない。
せめて、誰か気がついて欲しい
自分の魔力を最大まで絞り出し、
二人に向けて放つ。
魔法ではなく、単純な魔力の塊。
「…鬱陶しい。」
カシアはいつの間にか魔力の塊の前に立ち、
その塊を『身体強化』を限界まで掛けた
脚で蹴り上げる。
容易く打ち上げられたそれは、
空高くで爆発を起こした。
爆発の衝撃で、森全体の木々が揺れる。
「だめ、だっ、た、か……」
そう言いって、カンナは死んだ。
「……まずいですね。」
ラルクスが辺りを見渡す。
「さっきの莫大な魔力反応のせいで、何人かがこちらへ向かってきます。いかが致しましょうか?」
Xはこうなる事をまるで知っていたかのように、カシアに問う。
「なぁカシア。『影世界』に来ないか?」
禁忌魔法使いの世渡り 青薔薇 @s7bluerose
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