絶望への一歩

ルナは一旦さっきの部屋に戻り、

ギルドマスター達と話し合う事にした。


国王は、皆まとめて床に寝かせてある。


「…あれが、私たちの敵って事になる…か。」


ルナが呟くと、皆黙り込む。


「あの子、ガイを完全に生き返らせてたよね…?」


白衣に身を包んだ小柄な容姿だが、顔立ちは

大人な人がガイの首を触りながら言う。


「今のメイの国でも、再現不可能かな?」


ルナが問うと、メイは勢いよく頷く。

メイの顔は緑の髪でよく見えないが、かなり興奮しているようで、


「し、死者を完全に蘇生するなんて化学とか

魔法の領域を完全に逸脱してるよ!」

「もはや、神様の成せる技みたいな!」


メガネを袖でクイクイしながら急に早口になって話し出す。


「お、落ち着いて…」


ルナはメイを宥め、他のギルドマスターに目を向ける。


「一応聞くけど、死者蘇生の魔法や魔術に関して何か知ってる人は?」


皆、手を挙げない。


少し経って、一人の男が手を挙げる。


「某の国で、一つ昔話がある。」


そう言うのは、なにか独特な雰囲気を漂わせる

セツである。

柱に寄りかかり、腕を組みながら話す。


「某の国は歴史が長い…その中の一つの昔話

には、」


「『神の使徒たる御方、天界より現世へ舞い降り給う。』」


「『使徒様、病に伏したりて死に行く我らをお救いになられた』」


「と言う文がある…が、あくまで昔話である故、情報足り得ぬがな。」


そう言って、また黙り込んでしまった。

しかし、こんな状況なのでそういう情報でも有難い。


「要するに、もしかしたらあの子は何千年も前にセツの国を救った神様の使徒かもしれないって事?」


皆はさらに頭を抱える。

何故、セツの国を救った人がこの世界を破壊する?


そう思考を巡らせていると、突然城全体が揺れ出す。


「皆!国王様を抱えて外に出るよ!」


一人一人倒れている各国の王を抱え、城の外に脱出する。

外に出てまず目に入るのは、警備していた兵士たちの亡骸。


そして、民家の上に立っているカシア。

その姿は返り血に染まり、また誰かと話しているようだ。


「……まずは、王様達を安全な所へ。」


ルナはそう皆に伝えると、

一人の魔術師の格好をした少女が前に出る。


「じゃあ取り敢えず、ジグに全員送るわよ!」


そう言い遠距離転移を発動し、

全員を遠く離れた少女の国、『ジグ』へ送る。


「ありがとう、カンナ。」


「いいって!私たちだけで戻るよ!」


そう言うと、再びギルドマスターだけを

さっきの国へと送る。


「ッはぁ……はぁっ…」


カンナは疲労が溜まってきたようで、

膝に手をつく。


「カンナは少し休みなさい。」


ルナがそう言うが、


「……私だけ、サボらせるワケ?」


その顔には明らかに疲労が溜まっていたが、

カンナはここまで来たらもう引かない性格なのはもう皆わかっていた。


「…わかった。無茶はしないでね。」


そう言い、全員でカシアの前に飛び移った。


「貴方、この国をどうするつもり?」


ルナがカシアに問う。

カシアは心底興味が無いようで、無言で立っている。


「ちッ…ムカつくぜ。」


ガイはセツと一人の剣使いを見る。

2人は頷く。


「…貴方達、どうして死に急ぐの?」


カシアは純粋な疑問を投げかける。

それに反応して、3人が飛びかかる。


「はァ!」

「フッ!」

「オラァ!」


3人で斬り掛かる。が、3人の獲物がカシアを捉えることは無かった。代わりに3人の獲物と腕が突然消え失せる。腕の消えた断面からは血が噴き出し、カシアの白い髪を染め上げる。


常人では反応もできない速度。

だがカシアは反応しただけでなく、反撃まで加えてきた。


「ぐッ…」


腕が無くなり、バランスが取れなくなった3人は倒れ込み、展開された剣で心臓を刺され、即死した。


「さっきみたいに起こしはしないよ。」


そう言うと、カシアの前方に

『フレイムバレット』を展開し、射出する。


亜音速の弾に辛うじて反応したルナは、

『広範囲防御結界』を展開し、残りの人達を守った。


反応し、目線がカシアから魔法に移った事で、カシアの姿を見失う。

後ろでは、カンナが危険を察して転移の魔法を展開していた。そこに、カシアが飛び込んでくる。


「あっ…」


カンナは反応出来ず、カシアに顔面を捕まれ、

民家に叩きつけられる。

その衝撃で3階建ての民家は崩れ、地面にまで

到達した。


「……だめだよ、『空間魔法』なんて使ったら、一瞬で終わっちゃうでしょ。」


誰かと話しながらカシアはカンナから手を離し、ルナが放つ『氷結魔法』を回避する。そこに、暗殺者らしき影の薄い男がナイフで斬りかかってくる。軽く弾き、男の首を落とそうとするが、距離を取られてしまった。


その頃には、メイがカンナに回復薬を飲ませ、

カンナは長距離転移を展開していた。


転移する直前、『フレイムバレット』を打ち込んだが、対魔法ゴーレムが突然姿を現す。


しかしカシアの『禁忌魔法』は厳密には魔法では無い。

『フレイムバレット』はゴーレムを貫き、

ゴーレムを出した女に届いた。が、軌道がズレたせいで急所を外した。


カシアは獲物を逃さない為に、半径一キロに

渡って『魔力封印結界』を展開する。


「私の『転移魔法』がキャンセルされた!?」


「私の、ゴーレムも、出せない…」


ギルドマスター達は困惑する。

その隙を見逃さず、カシアは厄介だった暗殺者を『グラディオス』で始末する。


さっきまでは『気配遮断』でも使っていたのか分からないが、今ではあっさりと殺せた。


ルナは状況を整理する。

どう考えても絶望的だ。現状の生き残りは、


星級魔法使い ルナ=ルノール

万物の錬金術師 メルトス

天才科学者 メイ=クエンス


…あとは、賭けだ。

ルナは覚悟をきめる。


「カンナ!メルトスとメイを連れてこの国から逃げて!」


カンナは言葉の意味が理解出来なかった。


「はぁ!?貴方だけ置いて私達だけ逃げろっての!?」


反抗するが、メルトスがカンナを止める。


「カンナ。今は、ルナのが正しい。」


そう言い、カンナを引っ張ってこの場から離れる。メイもそれについて行く。カンナは心配そうにルナを見た後、


「絶対、戻ってきなさいよね。」


ルナは3人を横目に、カシアに向かって腰の短剣で斬り掛かる。


やはり主な攻撃手段が魔法なので、短剣は

カシアに掠りそうも無い。


「…つまんない。」


カシアはルナが空振った隙に腹に本気の蹴りを入れる。


「グッ…!」


ルナは皆の壁を突き破り、隣の家へと放り込まれた。


「ゲホッゲホッ…」


蹴られた所が痛むが、なんとか立ち上がろうとする。しかし目の前には、カシアが居た。


「ガッ、!」


カシアはルナの首を掴み、空へと浮かぶ。

段々と、締める力を強める。


この苦しそうな顔が、私は好きだ。

必死に生にしがみつこうとする、この表情。


段々と視界が暗くなって行く。



意識も、とびそう、だ…






「オイオイオイオイィ!まさかこの俺を忘れてんじゃァねぇだろうなァ!?」


さっき殺したはずの剣使いが、斬りかかって来る。カシアは咄嗟にルナを離し、

『グラディオス』を展開し、弾く。


男はルナをキャッチし、地面に着地する。


「ゲホッ…しんじて、たわ…フェニ…!」


フェニ。別名、不死の剣。

どんな傷を負っても翌日には元気になっている事から、この名で呼ばれるようになった。


「他の奴らは?」


フェニは警戒を怠らず、カシアから目を逸らさずにルナに問う。


「メイ、カンナ、メルトスは逃がしたわ。」


「それで十分だ!」


そう言うとフェニはカシアに突っ込む。

カシアもなぜ生きているのか興味があるらしく、珍しく『グラディオス』での戦闘へ入る。






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