それぞれの思い

ユアはなんとか高エネルギーによる破壊から

逃れ、2人を下ろす。


あと1秒遅かったら、あの国のように蒸発していたかもしれなかった。

それ程に、間一髪だった。


「…ユアちゃん、ありがとう。」


キルトはなんとか起き上がり、すぐ後ろまで迫っていた破壊の跡を見る。


破壊の中心にあった自分の国はもう、無い。


「一体全体、カシアちゃんには何があったらこうなっちゃうんだい?」


キルトは困惑して頭を掻く。

ユイカはまだ自分に罪悪感を抱いているようで、立ち直れていない。


「私が説明します。」


ユアはキルトに全てを話す。

ユアは『影世界』で作られた機械である事。そして、その『成功作』に敗北した事。

カシアについてはあまり詳しくは分からなかったが、負けた事による自己嫌悪、余りにも酷すぎる過去、それに便乗した謎の人物。


短い間に沢山の事が起きすぎて、あまりよくまとめられなかった。

しかしキルトは紳士に聞いてくれた。


「………そう、か。そんな事が…」


あまり表情には出していないようだが、

どこか悔しそうだ。

キルトはユアを見て、


「君も疲れたんじゃないかい?…と言いたいけど、機械なんだよね。君にはいらない心配だったかな?」


笑顔に戻った。

やはりこの人には笑顔が似合う。


「いえ、お気持ちだけでも受け取ります。」

「それよりも……」


「そうだね。こっちの方が、深刻そうだ。」


2人は地面に座り込み、この世の終わりのような顔をしているユイカを見る。

ユアはそっと話しかける。


「…ユイカ。悪いのは、貴方だけじゃないよ。私も気付いてたのに、止められなかったから…」


「…………辞めて。」

「慰めなんて、いらない」

「…私が、悪いだけだから。」


言葉をかけようにも、何をすれば良いか分からない。

すると、キルトが目線を合わせて話しかける。


「ユイカちゃん。今の君は、何が出来る?」


珍しく、笑顔から真顔になり問う。


「私、は…」


わからない。

正直言って怖いし、次会った時、どんな顔をすればいいのか。何をすればいいのか。


長い間一緒に居たのに、ただ、尊敬していただけ。貴方の過去も、貴方の事も、知ろうともしなかった。こんな人間、見放されて当然だ。


「私は、カシアさんとは関わらない方がいい、と、思う…」


私の、為に。


と言いかけたところで、キルトが言う。


「それは、君がカシアちゃんを大切に思っているからだ。そこは履き違えるな。」


ユイカは顔を上げない。キルトは続ける。


「君は少なくともカシアちゃんを大切に思っていたんだろう?でも、君がカシアちゃんを恐れてその気持ちを塞ぎ込んだら、誰が彼女を救える?」


ユイカは、まだ沈んだままだ。

自分がいくら大切に思っても、向こうが忘れてしまえば、私はもう何者でもない。


「…私が関わっても、何にもならない。」


私は、もうあの人の何者でもない。

ただの、魔法使い。


「………それで、いいのかい?」


キルトはユイカの頭を撫でる。

キルトを見れば、その顔は慈愛に溢れている。


「君はいいかもしれないけど、残された彼女は、どうなってしまうかな?」


ユイカは、黙り込む。

誰かが、やってくれる。

カシアさんを知っている人が、やってくれる。



誰も、居ない。



彼女は、また、1人で取り残されている。

あんな過去があって、やっと周りに人が増えたのに、また、1人だ。そんなのは…


「…かわい、そう…。」


言葉を絞り出す。

その言葉を聞いたキルトは安心して、


「それなら、君がやるべき事があるんじゃないかな?」


そう言い、立ち上がる。

ユイカも、ようやくふらふらと立ち上がる。


離れて聞いていたユアが問う。


「大丈夫?」


「…多分、大丈夫……なはず。」


ユイカは覚悟を決める。

また、みんなで暮らすんだ。

もう二度と、カシアさんを1人にはしない…と。





その頃、次の国に向けて歩き出していたカシア。

その足取りは、少し軽そうだった。


「おいおいカシアさんよーあいつら生かしたままでいいのかよー」


Xはかれこれ10分くらいそんな事を言っている。大分不満そうだ。


「貴方はわかってない。」


カシアがようやく理由を説明する。


「人間っていうのは、一度絶望から立ち上がった時に折ると、より深い絶望に包まれる。」

「それは、みんな共通の事。だけど、絶望を

与えられた人や物に対して特別な感情を抱く人は、何度だって立ち上がろうとする。」


カシアは狂気じみた笑顔で言う。


「それなら、どこまで折れないのか、気にならない?」


「…お前、ダイブ狂ってるな。」


Xはそう言い、静かになった。


「変なとこで、優しいんだから。」


カシアは不満げに言いながら歩く。


さて次は、何をしようかな。



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